第2話 鬼が住む場所

 「事件について調査してもらう前に話しておかなければならないことでしょう」

 長男である鬼刀 ジン 22歳は警察とボクたちの前で話し始める。


 「この屋敷の裏……山の奥地にある祠には鬼が眠っています」

 平然とそのような話を始める。

 警察のほとんども、胡散臭そうにその話に耳を向けている。


 「この周辺は昔……年に一度決まったように災いが訪れていました、それは山奥に住む鬼の仕業だとうわさされていました……いつしか、嘘か本当か……その災いを止めるためには、誰か一人の人間を生贄に鬼に差し出さなければならないと言われてきました」

 そうジンさんはボクらに話す。


 「そして、ある日……わたしたちの実の母である鬼刀 アゲハ……鬼刀家の鬼斬りとしての役目を果たすため山奥へと向かいました」

 そうジンさんが続ける。


 「母は戻りませんでした……詳しくは知りません、ただ相打ちだったと聞いています」

 そうジンさんが目を伏せ言う。


 「それと、今回の事件に何の関係が?」

 そう八神がジンさんに尋ねる。


 「裏山の祠を塞いでいた大岩が数日前から崩れていた……と」

 そうジンさんが返すが……八神は鼻で笑うと。


 「それで鬼が目覚めて、鬼刀 ガイを殺した……と?」

 そうジンさんに尋ねる。


 「いえ……ただ、少なからず何か意味があるかと……」

 黙って聞いていた……


 気がつけば日が暮れていた。

 扉のほとんどは襖になっていて、古い和風の作りの屋敷。


 ボクは庭に直接降りれる廊下を歩いていると……

 庭で煙草に火をつける男に目を向ける。


 「どうした、いたぶられたりねぇのか逸見トウタ?」

 八神がその視線に気がつきボクに話しかける。


 「勘弁してよ、苦手なんだ痛いの」

 ボクのその言葉に八神は笑いながら……


 「で、今回の事件で何かわかったのか?」

 そう八神が冷たくボクを睨む。


 「今回の犯人までもてめぇに逃がされちゃ話にならねぇからな」

 そうさらに睨みつける。


 「ボクはただの学生……警察でも探偵でもないんだ」

 ボクはそう返す。


 「あの……鬼刀家の長男の話、逸見トウタ、てめぇはどう思った?」

 その八神の問いに……


 「あなたはその山に、本当に鬼が居る……居たと思った?」

 そのボクの返しに……


 「まぁ、否定する……が、この狂人、異常者の集う島だ、それに近い何かが居たとしてもそれほど、驚かないがな」

 そう苦笑する。


 「痴れ事だけど……ボクからすれば、あなたもそれとそう変わりないよ」

 ボクのその言葉に、八神は不適に笑い


 「なんなら、今すぐにさっきの続き……といきてーけどな、今は目の前の殺人鬼が先だ、あの悪魔ちゃぱつのおんなに構ってられないからな」

 ナギちゃんを警戒するように八神が言う。



 ボクと八神はそのあと一言、二言皮肉を言い合うとボクは自分に与えられた部屋に戻った。




 ・

 ・

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 二本目の煙草を吸い終え、ふと目線を建物の方に向ける。


 「なんだ……?」

 中学生くらいの女の子が何やらこそこそと動き回っている。


 そして、その後ろをゆらりゆらりと全身黒い包帯を巻いて小汚いフードを被った何者かがゆっくりゆっくりと近づいている。

 そして、右手に巻きつけられた包帯を突き破り刃が現れる。


 その幼い少女を目掛け、振り下ろされる。



 カンッという金属のぶつかり合う音が響く。


 少女と黒い包帯男の間に割り込んだ八神がその一撃を防ぐ。


 「何もんだ?まぁ……今回の元凶的な存在なのは間違いねぇよなぁ」

 警棒を振り回し、今度は八神が反撃に移るが……


 黒い包帯男はバックステップで一定の距離を取る。


 「な……なに?」

 公明 キサラギは自分の身に起こってることが理解できないように……


 「小娘、こんな場所をうろついていた理由はしらねぇがさっさと逃げろっ」

 そう八神はキサラギに告げる。


 「で……でも……」

 目の前の化け物、そして、自分を守ってくれた相手を見捨てて……


 「……邪魔だ……って言ってるんだ」

 目の前の化け物から目を反らさずに八神が言う。


 「でも……」

 完全に冷静な判断を取れなくなっている。


 「でも……じゃねぇ、さっさといけーーっ!!」

 そう強く言い聞かせる。


 「……だ、誰か呼んできますっ」

 そう言ってキサラギが人の居そうな場所に走り去る。


 再び振るった八神の警棒をバケモノが回避する。


 そして、今度はバケモノの右腕のナイフが八神の顔面を狙い突き出される。


 頭を右に反らしそれを回避する……


 「!?」


 バケモノが今度は左手を突き出すと同じように刃が現れる。

 とっさにそれを左腕で八神は防ぐ。


 「ちぃっ!」

 刃は八神の肉を着きぬけ、骨に到達しその動きを止める。

 その痛みにさすがの八神も悲痛の表情をするが……


 自由な右手で再度警棒を振るうとバケモノの顔面を捉えた。


 バケモノがよろめいて後ろに後退すると同時に後ろから複数名の足音が聞こえる。


 バケモノはその場を立ち去る。

 「ちっ!」

 八神は舌打ちをして、そのバケモノを追おうとするが……すぐにそのモノの居場所を見失う。



 「八神さんっ!!」

 キサラギが八神の名を呼ぶ。


 鬼刀 ジンとヒイラギ、ネイネの4名がその場にかけつけていた。


 「邪魔……しやがって」

 邪魔しなければ、今頃あのバケモノの正体を暴いていたと言いたそうに、そう八神は呟きその場を離れようとする。


 「待って……怪我してますっ」

 キサラギが八神の左手を掴んで言う。


 「……ほっておけ、てめぇに関係ない」

 そうキサラギを振り払おうとするが……


 「駄目です、治療しなきゃ……」

 そうキサラギに半場強制的に治療できる部屋に連れ込まれる。


 


 「お節介な小娘だな」

 左手を差し出し治療を受けながら八神が言う。


 「助けてもらったんです、これくらいさせて下さい」

 そうキサラギが返す。


 「くっ……」

 不意に視界が歪む……

 目の前の小娘が記憶の中の少女と重なり合う。


 「……ひよ…り……」

 右手で頭をおさえる。


 「ごめんなさい、痛みます?」

 そうキサラギが返す。


 「何でもない……気にするな」

 そう八神はうつむき何事も無かったように黙り込む。




 「……なんでこんな場所に居る」

 沈黙を破ったのは以外にも八神の方だった。


 「なんで……?」

 不思議そうにキサラギは返すが、八神たちの方からすれば当然だろう。


 「てめぇみたいな小娘がこんな場所に、鬼刀家と関係がある訳でもないだろ」

 そう八神が言うが、その質問の意図とは別な場所に少し不服そうに口を尖らせる。


 「公明 キサラギです……」

 そう答える。


 「あ?……てめぇの名前なんて聞いていない」

 そう八神も返すが……


 「年頃の女の子なんですから、てめぇとか、小娘とかって呼ばないでくださいよ」

 そうキサラギが拗ねた顔をする。


 「あっ……皆はキサラって呼んでくれます、キサラギって呼ばれるより、キサラって呼ばれる方が私もなんだか嬉しいです」

 半ば、そう呼んでほしいと乞う。


 「……知るか、そんな事より俺の質問に答えろ」

 そう八神が話を戻す。


 「最初の質問……? あぁ……父と母が八神さんと同じ警察官をやってます、それで事件の手伝いとか経験とか積みたくて」

 そうキサラが返す。


 「アホか、その年でこんな危険な場所で手伝いも経験もないだろ」

 そう八神は返すが……


 「八神さん……最初は怖い人だと思いましたけど優しい人ですね」

 そうにっこり微笑む。

 くだらない……


 「何をどうしてそう思った、てめぇを助けたのもあのバケモノを追い詰めるため、てめぇのためじゃない、その間違った認識は改めておけ」

 そう八神は冷たく返す。


 「いえ……さっきの台詞は私のことを心配してくれる人しか言いませんよ」

 そう微笑むキサラに……八神はやり辛そうに小さく舌打ちした。



 ・

 ・

 ・



 翌朝……見知らぬ布団で目が覚める。

 先月といい……今といい、学校欠席しすぎだよな……

 そう思いながらも、一応今回は課外授業的な申請が通っているようで、

 一応、授業は出席扱いになっているようだ。


 こんな課外授業を許可するって……

 この島は改めてどうかしているよな。


 「おはよっ」

 目を覚まして布団から起き上がったところ、不意に後ろから声をかけられる。


 ……たしか


 「ヤシャちゃん?」

 そう振り返って彼女の名を呼ぶ。


 「うん……って、同じ学校同い年なんだけどな、クラスは違うけど」

 そうヤシャちゃんが返す。

 交友関係の狭いボクだ……そのことをあらためて実感する。


 「ヤシャちゃんはボクのこと知ってる?」

 そんな口ぶりな気がするが……話したことあったか?


 「うん、私が一方的にってみたいだったけど、逸見トウタ、超人でも平凡でも落ちこぼれでも無い、何も属さないそんな不思議な子が同年代に居るって、結構有名人だよ、トウタ君って」

 そうヤシャちゃんが言う。



 「よくわからないけど、良い評価って訳でもないみたいだね……」

 誰にどんな評価をされようが関係ないけど……


 「それで……トウタたちはどうして此処に来てくれてるんだっけ?」

 そうヤシャちゃんが尋ねてくる。


 「一応……警察の手伝いで事件の解決が目的かな?」

 そう返す。


 「それは、頼もしいね」

 嘘か本当か……ヤシャちゃんはにっこりと微笑む。


 今回の事件で父親を失った。

 そして、その前には母親も鬼と相打ちになったと言われている。


 両親を失ったことになる。

 

 整理するほどの情報は無い……それでも一つだけ気になることがある。

 それに意味があるのかはわからない……

 

 けれど、そんなが存在しなかったとしたら……

 なにがそんなの役割を果たしていたのか……


 誰までが……何処までそれを理解しているのか……



 冒頭の鬼刀 ジンさんの昔話を思い出す。


 災いを防ぐために……鬼に生贄を捧げてきた。

 その鬼を倒すために、鬼刀 アゲハは鬼退治向かった。

 鬼は去り、災いが消えたが、鬼刀 アゲハは戻らなかった。


 だが……その後、屋敷の主である鬼刀 ガイは殺害される。

 それと同時に祠の封印は解かれ、鬼が眠りから覚めた。



 思考を巡らせていたところ、ガラリと襖が開かれる。



 「ヤシャ……ここに居たか、大変だ、エンが……エンが殺されている」

 そう長男である鬼刀 ジンがヤシャちゃんに伝える。


 3人とも無言でジンさんの後ろを歩く。


 そして、ひとつの襖が開かれていて……

 そこに今居る屋敷の住人全員が集まっている。


 壁に大きな釘で打ち付けられるように、

 一本の刀を胸に突き刺され、壁に固定されている。


 べっとりと……畳に血が流れていた。


 そんな中、ボクは一人冷静に……


 

 災いを防ぐために……鬼に生贄を捧げてきた。

 その鬼を倒すために、鬼刀 アゲハは鬼退治向かった。

 鬼は去り、災いが消えたが、鬼刀 アゲハは戻らなかった。


 だが……その後、屋敷の主である鬼刀 ガイは殺害される。

 それと同時に祠の封印は解かれ、鬼が眠りから覚めた。


 その情報を繰り返す。


 ボクは誰にも気づかれないように小さく笑う。


 前回学習しただろ……逸見トウタ。

 存在あるモノだけを信じろ。

 見てないモノは信じるな。


 嘘と本当をどう見極める?

 正解と不正解を誰に採点させる?

 

 この屋敷に入ってから……もしくはずっと前から……

 ボクは何者かの殺気のような視線を感じていた。


 そこに、意味はあるのか……?

 見たものを信じろ、見てないものは信じるな。

 は必要なら叫べば向こうからやってくる。


 もう一度目線を上げる。


 紛れもない、話したことも無い鬼刀 エンという人間の死骸。

 紛れも無く……そこに存在している。

 見たものを信じろ。


 見ていないを証明できるのは誰だ?

 の代わりを果たしているものはなんだ?


 初めから、その話は矛盾している。


 見えそうで……見えない……正解。



 ヤシャちゃん、もう少しだけ待っていて……

 君の居場所を……正しい形に直してあげるから……

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