phase.4
思わず掴んだその光は温かくて優しくて、私にとって残酷な記憶を思い出させる。
いや、そもそも私は記憶を失ってなどいなかった。
初めからそんなものはなかったのだ。
世界最悪の殺人ウイルス、それが私の正体。
生まれたばかりでまだ名前すらついていない。
窓のない廃病院のようなこの場所は宿主の体内だろうか。
気味が悪いと恐怖していたあの怪物たちは宿主を守ろうと私を排除しようとしていたのか。
外に出たいと思っていたのは私の意志ではなく、ウイルスとしての本能だったのか。
外に出たら世界はどうなってしまうのか。
すべてを悟った私は落ちた穴の先でうずくまった。
生命に憧れて、体に憧れて、自らを人間だと思い込んだ。
なんて愚かなんだろう。ここで朽ち果ててしまったほうが世界のためになるというのに、私はこの期に及んでまだ死にたくないと思っている。
掴んだ光は鍵の姿へと変化していた。この鍵はきっと出口へ繋がる扉の鍵だ。
外に出ても家族はいない。…だけど、生物を媒介していけば独りぼっちじゃなくなる?
なんて、そんな考えを振り払っているとゴポ、と後ろから聞き慣れた水音が聞こえた。そちらに目を向けると泡状の怪物がすべての目玉をこちらに向けてゆっくりと近づいている。
気付いた時には震える足で立ち上がり崩れた瓦礫の中を縫うように逃げていた。
さっきまであんなに迷っていた出口にはもう辿り着ける気がした。
―
俺は、そのウイルスを殺してくれと願われて生まれてきた。
そのためだけに作られた抗ウイルス薬。
目が覚めると酷い頭痛はなくなっていた。むしろ頭はすっきりして記憶も使命もすべて思い出した。
シロちゃんは俺が殺さなきゃいけないウイルスだった。
気味が悪いと思い込んでいた化け物たちはこの宿主の免疫たちだった。
パズルのピースが揃っていく。
目の前に泡状の化け物、もとい免疫がずるずると近づき何かを伝えるように目玉をギョロギョロと動かした。その姿を見て頷き、瓦礫の中に残された少女の赤い足跡を追いかけた。
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