三題噺「冬」「コーヒーカップ」「悪のツンデレ少女」
はちみつプログラム
指定ジャンル《童話》
年の瀬も押し迫った大晦日の夜、小さな少女が一人、寒空の下でマッチを売っていた。マッチが売れなければ父親にぶたれるので、すべてを売り切るまでは家には帰れない。しかし、街ゆく人々は、年の瀬の慌ただしさから少女には目もくれず、目の前を通り過ぎていくばかりだった。
「ライターが売られてる事態でマッチなんて売れるわけないでしょ!? ばっかじゃないの!!」
夜も更け、少女は少しでも暖まろうとマッチに火を付けた。
「そうだ! このマッチで家を燃やしちゃいましょう! あのくそ親父なんて燃えちゃいばいいのよ!」
マッチの炎と共に、共に……。
「やだ、これ着かないじゃない? なんで? どうして? まさか、湿気ってる? 嘘でしょ!? もっと売れるわけないじゃない!」
暖かいストーブや七面鳥などのごちそう、飾られたクリスマスツリーなどの幻影が一つ一つと現れ、炎が消えると同時に幻影も消えるという不思議な体験、
「……ができる魔法のマッチ、ていうキャッチコピーで売るしかないわね。あら、騙される方が悪いんだから、ごめんなさーい」
レストランの窓の向こう、紳士がコーヒーカップを口に傾けてるのを見つめる。かつて自分にコーヒーを注いで飲ませてくれた祖母の幻影が現れ、「それはちょっとやり過ぎじゃない?」といいだしてきた。
「わ、わかってるけど、売れなきゃ私帰れないんだもん!」
「でもそれは詐欺よ?」
「だ、だって……」
紳士が消え、コーヒーカップが片づけられると祖母も消えてしまうことを恐れた少女は、慌てて別の窓まで走り、先ほどとは別の紳士が飲むコーヒーカップを見つめると祖母の姿は湯気に包まれ、
「そうね、そのマッチをアンティーク商品として売るのはどう?」
「えぇ? 売れるかな……」
少女を悩み、首を傾げていると、やがて視界がぼやけてしまい、膝が折れて頭が雪の中に埋まるも、瞼は閉じる。
少女は、コーヒーカップの湯気より生まれた祖母に優しく抱きしめながら天国へと昇っていった。
新しい年の朝、少女はレストランの外窓でコーヒーカップを抱えて幸せそうに微笑みながら死んでいた。しかし、この少女がコーヒーカップで祖母に会い、天国へのぼったことは誰一人知る由はなかった。
「ごめんなさい、私がマッチの売り方を止めたばかりに」
「べ、別におばあちゃんの為じゃないんだからね! 私が自分でやったことなんだから! 気にしてないんだから!!」
三題噺「冬」「コーヒーカップ」「悪のツンデレ少女」 はちみつプログラム @dorolin
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