第20話②

 ミアは、列車に乗っていた。

 手には「果ての湖町」までの切符がある。

「果ての湖町」は名前の通り、人間にとってはその先は存在しない、最果ての街だ。

 人間が思う世界の果てのその先に、ミアたち天使が暮らす世界と悪魔の世界がある。

 湖は人間には海のように果てしなく見えてしまうそうだけれど、実際はさほど大きくない。

 ありがたいことに人間は自分たちが見えること、聞こえることしか信じない傾向にある。

 さらに、天使や悪魔が暮らす世界は、人間にとって不快を通り越し苦痛だそうで、めまいや頭痛、吐き気が起き、耐えられないらしい。

 なにかの拍子に迷い込んた人々は「地獄を見た」などといった言葉で、自分たちの経験を語る。

 一方、天使や悪魔にとって、人間界は至極快適だ。

 もちろん、空を自由には飛べないが、生活に不自由さはない。


 ――飛びたい。

 気持ちとしては、それこそ飛んで帰りたいところだけれど、そうはいかない。

 距離的な問題もあるけれど、第一にミアが飛んでいる姿は、誰からもばっちり見えてしまうからだ。

 天使の能力にも個体差がある。

 姿を消して飛ぶ天使もいる。

 ミアの部屋の窓は開いていた。

 玄関の鍵はしまっていたので、エディも姿を消し、飛ぶことができるのだろう。

 どこかの駅まで飛んで、そのあと列車に乗ったのだろう。


 ミアは自分の甘さに、頭を抱えた。

 とにもかくにも、朝一番のお客様から返済されたお金は、すぐに金庫にしまうべきだった。

 それができなかったとしても、エディを招き入れたらすぐにしまうべきだった。

 なんの為のジャスティンからの金庫だろう。

 彼にも申し訳ない気持ちになる。

 今朝、エディはミアの家に来るなり、お茶が飲みたいと言い出した。

 ミアはテーブルに置いたままのお金の入った紙袋を気にしながらも、まぁ、大丈夫だろうと高を括った。

 そして、エディと紙袋は消えた。

 最悪だ。

 ミアの不注意がエディに盗みをはたらかせた。


 行き先が施設だということは、あそこでまたお金が必要な何かが起きたのだろうか?

 でも、ミアはそんな話を両親から聞いていない。

 じりじりとした思いで列車に乗るミアは、美しい田園風景が車窓に流れても心が動かされなかった。

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