第19話君が生きやすい場所①
「うそでしょう……」
キッチンから戻ったミアは、紅茶を載せたトレイを持ったまま立ち尽くす。
部屋の窓は全開。
テーブルに置いてあったはずのお金は、紙袋ごと消えていた。
――エディだ!
突然、遊びに来た年下のお幼馴染みの顔を浮かべ、ミアは混乱する。
しかし、すぐに思い直し、壁掛け時計を確認した。
午前十時二十七分。
ジャスティンにお金を支払う期限まで、あと 十三時間三十三分。
ミアは一も二もなく、ロザリンのもとへと駆け込んだ。
ロザリンは、最近ミアとの間で流行っている小顔体操をしていたようで、ヘアバンドで前髪をあげていた。
顔の筋肉をあれこれ動かすのだが「百年の恋も冷める」とロザリンが言うように、かなり変な顔になる。
「つまり、エディって男の子が、わたしとあなたの努力の結晶をネコババしたのね」
「ネコ……。まぁ、そうだと思う」
「彼は、あなたの幼馴染のリックの弟なのね」
ミアは頷く。リックには年の離れた弟と妹がいる。その弟がエディだ。
「エディの年は19歳よ。仕事が休みだから遊びに来たって言ったんだけど」
「彼、あなたが貸金をしているのは知ってるの?」
「この間、母から手紙が来たの。私、ずっと自分がどんな仕事をしているか伏せていたんだけれど、つい書いてしまって」
ミアなりに貸金の仕事への気持ちの整理がついたので、母にも報せたのだ。
「お母さま、それを言いふらしたのかしら。不用心ね」
「そうだとしても、悪気はないと思うの」
「これだから、世間知らずの箱入り娘は困るのよ。あのね、迷惑行為をする人のほとんどが『悪気はなかった』って言うものなの」
ロザリンは大きな体を揺らし「わたしもふくめてね」と、ウインクしてきた。
ロザリンはチャーミングだ。
ミアは、ロザリンのおおらかさに憧れる。
ロザリンとは年が離れているけれど、彼女の存在は仕事のパートナーだけでなく、ミアにとってすでに家族に近い、大切な友人となっていた。
ロザリンが水晶玉に手をかざす。
もやもやとした黒い影が徐々に鮮明になる。
そして、見えてきた先は――。
「わたしの家だわ!」
「ミアの家?」
「家というか、両親が運営している施設よ」
これは、どういうことだろう?
お金を持って逃げた先が、よりによってそこ?
ミアとロザリンは顔を見合わせた。
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