第14話②
そのとき、ふっと部屋が暗くなった。
と同時に、焼いた肉の香ばしいソースの匂いが部屋中に充満した。
一瞬にして、ミアの目の前のテーブルに、肉料理にサラダ、具のあるスープに果物がふんだんに使われたデザートが並んだ。リボンがかけられた、いくつかの紅茶の缶もある。
目をぱちくりするミアの正面に、黒ずくめの男性が座っていた。
ミアの宿敵、悪魔のジャスティンだ。
ジャスティンは持って来た赤ワインを、自分ともう一つのグラスに注ぎだす。
「やぁ、ミア。ワインでもどうだい? 年代物ではないけれど、さっぱりとしておいしいよ」
「あなた、勝手に人の家に入って食事まで始めようなんて、なにを考えているの?」
ジャスティンはワインの入ったグラスを、ミアの前にすっと置いた。
「まぁ、一杯どうだい? おっと、その前に腹に何かを入れた方がいい。料理はレストラン『ワイルダー』で作ってもらった。どれもおススメだそうだよ」
「『ワイルダー』? たしか、人気のお店よね。レストランガイドで最近星マークを貰ったと聞いたような。そんなお店が持ち帰りの料理なんか作ってくれるの?」
「仕事の付き合いでね。彼はぼくに借りがあるんだよ」
なんと! レストランの人気店にまで、ジャスティンは手を出しているのか。
「あなた、大丈夫なの?」
「大丈夫とは、なにが?」
ジャスティンはワイングラスの細い脚(ステム)を持ち、悠然とした態度でワインを飲み始めた。なんとなくその姿が見ていられなくて、ミアはすっと目を逸らす。
「あんまりえげつない商売をしていると、よくないっていうか。まぁ、あなたは悪魔だし、何かされるってことはないとは思うけど。恨みをかうようなやり方は、危ないんじゃないかなって」
どうせ「余計なお節介だ」とか、「君が心配するようなへまな真似はしてないさ」とか彼はミアを笑うんだろうけれど。
そう構えていたのに、いくら待ってもジャスティンからはなにも返って来ない。沈黙が続く。
どうしたのだろうとミアがそっと様子を伺うと、ジャスティンは腕を組んで横を向き、その顔はなんと赤かった。
「あなたって、弱いのね」
「君にそんなことを言われたくない」
ミアはやれやれとため息をつき、ジャスティンの前からワイングラスと、ボトルを遠ざけた。
「弱いなら、なにも格好つけて飲む必要なんてないと思うのよね。水道の水しかないけど、いいわよね」
「君はなにもわかってない」
そんなジャスティンのつぶやきは、ミアが席を立つ音と重なり彼女の耳には届かなかった。
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