第13話天使の高利貸し、仕事について考える①
今日も今日とて、高額利息で貸金業を営むミアは、一獲千金、棚からぼたもちの客からガッポガッポと回収して大儲けしているはずが――。
「ミアさん、すまない。息子の運動靴を買うために借りた金、もう少し待ってくれ」
はす向かいの長屋で暮らす六人の息子を持つアランさん(妻は七人目妊娠中)に、ミアは頷く。
「ミアさん、ごめんなさいね。借りたお金、明日には返すから。明日、旦那が集金してお金が入るから、少し待って」
表通りの八百屋の奥さんに、ミアは頷く。
「ミアさん、さっきはぼくのパン代を立て替えてくれてありがとう」
同じアパートメントの一階で暮らすクリスが、ミアに代金を払いに来た。
「嬉しいわ、ありがとう。よかったら、これをお母さんと食べて」
ミアは自分が作ったフルーツケーキの塊を小さな手に持たせた。
おかしい。
こんなはずではなかった。
天使らしからぬ非情な高額利息でお金を貸すことに、心を痛めていたはずだったのに。
気が付けば、街の人々が生活に必要な細々としたお金もミアは貸すようになっていたのだ。
しかも、低利息で。
きっかけはなんだったのだろう。
思いあたるのは、ジャスティンへの返済のペースを早めたことだ。
ジャスティンと話し合い、書類も作り直した。
ありがたいことにロザリンの占いも絶好調。
その結果、微妙にミアの手元に残るお金が増え。
その少しの余裕が、ミアの天使魂に火をつけた。
ロザリンの水晶には映らない、返す当てのない人にも、お金を貸し始めてしまったのだ。
しかし、やっぱりそのしわ寄せはきてしまうもので。
ここ二週間ほど、ミアの食事は一日二食。
うすいスープと少しのパン。そして、透き通った紅茶だ。
食事は質素でも気分だけは楽しくしようと、テーブルにはレースのクロスをかけ、摘んできた花を飾り、スープはロザリンから貰ったハート柄の可愛いお皿に注いでいる。
お腹は当然一杯にはならないけれど、これも今日でおしまいだ。
明日には、ロザリンの占いにより、棚ぼた客からの返済がくる。
お金が入ったら、通りの角にできた食堂で熱々のグラタンを食べよう。
今のミアの楽しみは、それだけだった。
頭の中は、グラタンの四文字で埋まっている。
ついでに、あの靴屋も覗いてみようか。
このあいだ、ロザリンとお散歩中に見つけた路地裏にある可愛い靴屋だ。
ミアは、ロザリンが靴を試し履きするあいだ、散歩についてきたフーチを抱いて、店中を眺めた。
ミアは靴を一足しかもっていない。
移動は歩くより飛ぶ方が多い天使は、そもそもさほど靴を買わない。
けれど、人間は歩く。そのために、いろんな靴が必要だ。
山登りの靴。雨の日の靴。雪用の靴。
歩くだけでなく、おしゃれの意味でも靴を持つ。
フーチを抱いたミアの目に、一足のパンプスが目に留まった。
臙脂色でパンプス。細いストラップがついている。
履いてみたい。
買ってしまおうか?
でも、買ったところであんな靴を履いていく場所なんてない。
レストラン?
美術館?
デート、とか?
デートか。
ミアは今までデートなんかしたことがない。
ましてや、行くような相手もいなかった。
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