第6話

 夜。ペンライトを片手にシャッターの鍵穴を探す。

 別に泥棒に入ろうとしているわけではなくて、ここは我が家の敷地内だ。ただ、近くに一切電灯がないので、歩きまわるだけでも光源が必要になるものなのだ。

 後ろのポケットから取り出した鍵を、鍵穴に突っ込むとがちゃがちゃ動かして何とか解錠に成功した。また開けにくくなってる気がする。オイルを注しておいた方がいいかもしれない。

 ぐっと両手で力を入れて一気に引き上げると、どういう構造なのかシャッターは少しずつ自力で上昇していった。あとは最後に軽く力を加えて落ちてこないように押し上げるだけ。

 ペンライトを左側の壁に向ける。古びたスイッチが照らし出され、これを上げると、何度か点滅してからやっと蛍光灯が点灯した。

 我が家の納屋。昔はトラクターや木箱、農具が雑然と置かれていたような気がする。もうずいぶん前に祖父が腰を痛めてから、そういったものは全部処分されてしまった。その後は僕と兄の秘密基地として利用していた場所だ。

 最初のころは友達が羨ましがって遊びに来ていたけれど、埃っぽいし、冬寒く、夏暑いここは早々に飽きられてしまった。その後、兄がドラムセットを持ち込むまで足が遠のくことになる。そして今は僕一人がときどき掃除をしながら活用しているというわけ。

 普通の家ではないから簡単に虫が入ってくる。そいつらの死骸や埃、どこかから入った小石なんかを雑に竹ぼうきで掃き出す。ついでに天井についていた蜘蛛の巣も巻き取る。

 一番奥に鎮座しているドラムセットからカバーを取り外すと、納屋から出て外でバサバサとはたいて掃除終了。慣れたものだ。

 姿を現した太鼓やシンバルは使い古されているけれど、それなりに綺麗だ。僕がちゃんと手入れしているから。おい相棒、どうやらしばらく忙しくなりそうだぞ。

 棚のラジカセを開くと、雑然と積み上げられていたCDの中から一枚を取り出した。スピッツの『チェリー』。祖父がのこした楽曲で僕が生まれるずっと前からここにあった。九十年代の半ばに大ヒットした柔らかで切ない恋の歌。

 どうやら優枝はこの曲を課題曲として練習しているらしい。だから僕も合わせられるようにしておこうと思ったのだ。

 スローテンポでシンプルなコード。確かにギターを始めたばかりの優枝には向いているかもしれない。ドラムについてもそこまで厳しい要求はないので、丁寧に、曲のリズムを覚えるようになぞっていく。

 歌詞は、かつてともに過ごした『君』を思い出す内容だ。原曲は男性ボーカルだけれど、優枝か田所さんがこの歌を歌うこともあるかもしれない。

 今、僕の思い出の中には優枝と過ごした記憶が確かにある。そしてこれからの日々の中にも必ず彼女がいる。いつか、この歌のように今を思い出すんだろうか。そのときに、彼女の隣にいるのは僕なのか、田所さんなのか、別の誰なのか。

 練習を終えても、しばらくの間、歌がぐるぐると頭の中で流れ続けていた。

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