第5話 私はいつまでも、愛しい彼と一緒に…
何年か過ぎて20歳になり、ルカは結婚し、私は実の両親からの遺産を受け取れるようになった。
中身はお金ではなく、生涯の生活保障だった。
この生活保障は、私が成人するまでに死んだ場合は出ないようになっていた。
(この遺産のために、叔父夫婦は私を…)
今頃、あの世でがっくりしてるかもしれないと考えると笑ってしまった。
中学のころ、私のことを胸なしと言ったり、本当は男じゃないの?と意地悪をしてきたモデル気取り女は、高校を出た後は“無駄に大きい膨らみ”を活かしてヌードモデルになったらしい。
同時に年齢指定ありなビデオにも出てるらしく、グラマー好きたちの間では結構な人気らしい。
研究所を解雇されてから、私は日雇いのバイトで生活していた。
叔父夫婦の親戚の援助は今も続いている上に(遺産の話をして、援助はもういいと伝えたけど、叔父夫婦が私にしたことを一生かけて償いたいと言って聞かなかった)、両親の遺産があるとはいえ、少しでも自分で稼いでおきたいと思った。
26歳の時、ルカは研究所で所長にならないかと言われたらしいけど、それを断って独立した。
そして、私に一緒に働かないか?と話を持ち掛けてきて、私はルカの研究所で働くことになった。
「子供が3人もいるのに大丈夫なの?」と聞いたけど、夫が勧めたことだったらしいことを聞いて安心した。
それから何十年か過ぎ、私はルカの研究所で働き続けて50歳になったが、見た目も体内年齢も20代だった。
ルカも、人間と異形のもののハーフということもあってか、私と同じように20代を思わせる見た目だった。
30歳になっても20代っぽいことを私は変に思い、スーラの粘液を改めて調べたら、細胞の老化を防ぐ力がかなり強い成分が含まれていることが分かった。
つまり私は、スーラの粘液で老化しないどころか、20代の若さを保っていられるみたいだった。
私もそうだけど、スーラも年を取らないみたいだった。
ルカが生んだ3人の子供も、20代になってから見た目が変わらないみたいだった。
私はスーラと夫婦になることはできなかったけど、実際の夫婦以上に固い絆で結ばれてると思っている。
私はスーラを抱き、彼も私を抱いてくれる。
相変わらず、私と抱き合ってる時のスーラの体は、絶えず出てくる粘液でねちゃねちゃだけど、そのねちゃねちゃが私は今も大好きだ。
むしろ、その粘液で私を包んでほしいと思っている。
16歳の時に生まれた子供は、2年ほど一緒に過ごし、今は一人の少女と出会って愛を紡いでいる。
いつの間にか、ずっとあった“人間と異形のものは相容れぬもの”という固定概念はなくなったみたいだった。
そのこともあり、一部の地域でだけど、人間の子供と異形のものが仲良く過ごす光景を見るようになった。
二十歳を過ぎてから、私は何度か彼の子供を産んだ。
その子供たちは、すぐに自立して家を出て行った。
「元だったスーラの知能と心を、そのまま受け継いだのね。そうじゃなかったとしても、私は愛したと思うわ」
スーラを愛しく抱きながら、呟くように言った。
実はスーラは、25年前に死んだ。
ある日、スーラの体から手のひらに乗るほどの小さなスライムのようなものが分離した。
どうしたのだろうと思ったら、その翌朝に彼は床で干からびて死んでいたのだった。
私はそれを見て、スーラの亡骸を抱きながら大泣きした。
これからもずっと一緒だと思っていたから。
だが、そのときに誰かが私の手に触れた。
見るとそこにいたのは、スーラから分離したスライムだった。
悲しいことに変わりはないが、これからは新たな彼と一緒にいようと誓った。
「今度こそずっと、一緒にいようね?」
泣きながら、彼の分身を撫でると、スライムは手から落ち、元の亡骸を数秒で食べてしまった。
驚くしかなかったが、亡骸を食べたスライムは、元の彼と同じ大きさになった。
それを見た私は、嬉しさでスーラに抱き着き、また大泣きした。
「脅かさないでよぉ!一人になっちゃったかと思ったじゃない!!もう私を一人にしないで!!!」
改めてスーラのことを調べたとき、異形のものの平均的な寿命は25年前後で、死期が近づくと自分の体の一番新しい部分を分離させて生まれかわるみたいだ。
しかも元の亡骸を食べ、分離させる前の知識や記憶を受け継ぐという。
「本当に、びっくりしたんだから。私を大泣きさせた罪は重いわよ!?」
その夜、私はスーラを無理やりお風呂に連れていき、彼をバルタオル一枚になった私は思いっきり抱いて、これ以上ないぐらい思いっきり熱いキスをした。
「あなたも私を抱きなさいよ!もっと熱いキスしてあげるから!!」
今までにない大量の粘液がスーラの全身から溢れ、私は頭のてっぺんから足の先までこれ以上ないぐらいべとべとになったのは余談かな?
そしてそれから25年。
スーラはまた自分の体から一部を分離させ、元の体は干からび、分離させた部分が亡骸を食べて生まれ変わった。
でもきっと、こんなことは何度も続かないだろう。
いつか本当に、分離することなく死ぬことがあるかもしれない。
次に同じことが起きるのは、私が75歳になったとき、もしかしたら・・・。
そして私も、そのころにはまさかと思う。
それでもいいと思う。長年愛し続けた彼が、ずっと私のそばにいるから。
本当に幸せで充実した毎日だった。だけど・・・。
それから5年後、私は55歳で死んだ。
還暦を迎えることはできなかったけど、死ぬ直前まで幸せだった。
スーラは私が死ぬ半年ほど前から、私の首から下を包み込むような形になって、ずっとそばにいた。
「ずっと、ありがとう。でも、もういいのよ?私はもう、長くないから。自分のことを愛してくれる人を探して、幸せになって…」
私は力が入らない声で言ったけど、彼は離れなかった。
2年ほど前、私は原因も治療法もわからない病気になってしまい、その病気は徐々に私を蝕んでいた。
いつものペースで歩こうとすると足が重く感じ、階段を3段ほど踏み込んだだけで息が荒くなり、半月ほど過ぎるころには、それまで持ててたものが持てなくなってしまった。
それから半年後には、ついには力が入らなくなってペンも持てなくなり、しまいには体を起こすこともできなくなってしまった。
その私を、スーラはずっと見捨てなかった。
それどころか、スライムのような姿になって、私の首から下を包んでくれただけでなく、動けない私の手足になって動かしてくれた。
そして、自分の粘液をいつも飲ませてくれたおかげで、私は餓死せずに済んだ。
普通なら半年で死んでしまう病気だとルカから聞いたけど、私は2年も生き延びた。
「あなたと、出会って、毎日、本当に、幸せだった…6歳で、死んだ、かも、しれない、私が…今日まで、生きて、これた、のは…間違いなく、あなたの、おかげよ…本当に、ありがとう…あなたを、愛して、本当、に、よかっ…た…」
私は最後の力を使ってスーラを抱き寄せ、彼とキスしながら死んだ。
・・・・・。
(あ、あれ?)
私は目を覚ました。
目線の先は、死ぬ直前まで見ていた自分の部屋の天井がある。
異常に体が軽い。その割に、感覚がある。
どうしたんだろうと思った。
感覚を確かめるために、ベッドから立って手を動かそうとして、自分の手を見て驚いた。
(え!?何これ!?)
自分の手を見ると、服を着た状態だったけど半透明だった。
手だけじゃない。鏡を見ると、自分の体全体が半透明だった。
(な、何なの!?)
ふと、まさかと思った。
(これ、スーラと同じ体になってるの?)
まるで、スーラと同じような異形のものみたいだったが、彼とは違って形がはっきりしており、自分の腕に触った感じも、自分の前の肌より少しぷにぷにしてる程度だった。
(どういうこと?それに私はどうなったの?)
私の体は、スーラの体とは違い、形が変わらなかった。
(もしかしてスーラは、私に自分の体を…?…ということは、彼はまさか…)
そんなことをつぶやいたとき、私の背中で何かが動いた。
(な、なに?)
背中で動いていたものが、首の後ろまで来て、床に落ちた。
それは自分の指先に乗るほどの小さなスライムだった。そしてそのスライムは動いて私の足元に来た。
私はそれを手に取って聞いた。
(…あなたなの…?)
私は聞いたけど、すぐにスーラだとわかった。
(私、生まれ変わったの?)
聞いても返事はなかった。
おそらくスーラは、自分の体を私に差し出し、それと引き換えに自分の体の大半を失ったのだろう。
(まさかまた、命を助けられるなんて…ありがとう)
私はスーラにキスをした。
そのあと、手のひらに乗るほどの大きさしかないスーラに、私は指先から出る粘液をあげた。
スーラは私の指に吸い付いて粘液を飲んだ。
(粘液、もっと飲んで…スーラは私に自分の粘液をあげるとき、きっとこんな感じなのね…でも私は、あなたを愛してる)
スーラは30分以上、私の粘液を飲み続けた。
(早く大きくなってね?…そしてまた、私と愛し合おうね?)
最初は私の粘液を吸うのもやっとと思わせるほどの大きさだったが、スーラは徐々に大きくなり、粘液を吸うのはもちろんだけど、私の手を包み込むぐらいの大きさになった。
私は毎日1回はスーラにキスをした。それぐらい愛しいのだ。
(ふふ。あの頃のように、私にキスして…)
私の手を包みながら指先を吸い、同時に私の手をべろべろと舐め回した。
(ち、ちょっと、くすぐったいよ…あれ?そういえば…)
そこで、やっと気が付いた。
(声が…出ない?)
何年か過ぎ、気が付いたらスーラは私と同じぐらいに大きくなった。
そして、私はスーラを抱き、彼はあの時のように4本の腕で私を抱きながら、熱いキスを交わした。
何度も経験してるけど、本当に幸せで暖かい。
後日、私は可能な限り体を隠して、ルカに会いに行った。
ルカは、私が難病に侵されたと知った時から、その原因と治療法をずっと探していた。
だけど、どれだけ手を尽くしても何もわからず、しかも進行を抑えることもできなかった。
ついには私が寝たきりになったとき、私が死ぬ姿を見たくないからと、泣きながら謝って出て行った。
でも、私が元気になって自分の足で会いに来た上に、私の姿を見て思いっきり驚いたのは言うまでもない。
驚いて腰を抜かしたけど、そのあと泣きながら抱き着いてきた。
こうして私は、スーラと一緒に永遠ともいえる時間を過ごし、そして時間も忘れるほど、彼と想い合う毎日を過ごすのだった。
少女は異形のものとともに 正体不明の素人物書き @nonamenoveler
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