第4話 私は、今も愛しい彼と…
何年か過ぎて、私は18歳の高校3年生になった。
そしてスーラとは、今も想い合っている(と思う)。
気が付いたら、ずっと真っ平だった私の胸は、今では少しだけ膨らんだ。
このころから、私はブラをつけるようになったのは余談かな?
本当に幸せな毎日だ。
だけど、卒業が近づいてることもあり、その後の進路を考えなければいけない。
みんな、進学する大学が決まったり、就職先の内定が出たりと、進路が確定している生徒が何人かいた。
でも私は、まだ何をするとも決まってない。
今に至るまで、元叔父夫婦の親戚の援助はあるものの、それもいつまでもしてもらえるわけがない。
(可能な限り保障すると聞いたけど、さすがに無理があるのでは?と思っている)
スーラと普通に生活できれば、特に問題ないと思ってる私は、どうしたらいいのだろうか…。
実は16歳の夏休みの時、私は彼の子供を産んだような経験をした。
ある日、お腹の中に温かい何かがたまに動いているような感じになり、何なのだろうと思っていたが、徐々にお腹が膨らみ、まさかと思っていたら、半月後に正体が明らかになった。
「な、なに?この感覚は…?」
お腹の中で何かが動く頻度が上がり、なんなのだろうと思っていた。
そのうちにその感じが下半身にまで伝わり、変に思いながら下着を脱ぐと、性器からスライムのようなものがごばぁっと音を立てて出てきた。
「え…もしかして、スーラの一部が残って、私の中で育ってたの?」
実感はなかったけど、もしかしてこれが、妊娠と出産なのだろうか?
スライムだったからか、感覚がほとんどない。
妊娠したら、好きなものが食べられなくなるなどといった感じで体が変わる上に、つわりで体調を崩すこともあると聞いた。
しかも出産の痛みも、想像もつかないぐらい苦しいものだと聞いたけど、それがまったくと言っていいほどなかった。
私は性器から出てきた、人間の赤ん坊と同じぐらいの大きさのスライムを、そっと抱き上げ、愛おしく撫でた。
「可愛い…私は、あなたのお母さんよ?」
私は彼と一緒に、生まれてきた子供を精いっぱいの愛情をもって育てた。
「本当はもっと生みたいけど、学生のうちはバレるといろいろまずいからやめておくね」
高校を卒業した私は、調べたいことがあって、先生が紹介してくれた研究所で働くようになった。
スーラの粘液に含まれる成分が気になり、いつか調べたいと思っていた。
入ったばかりのころは、研修や実験の立ち合いで自由が利かなかったが、その代わりにいろいろいい勉強になった。
学生だったころと違い、帰りはかなり遅くなったけど、彼はいつも私を出迎えてくれた。
それが嬉しくて、いつもただいまのキスをしている。でもその代わりに、一緒にお風呂に入る回数がかなり減った。
というのも、一緒にお風呂に入ったら、時間を忘れて激しいキスをするため、朝の6時のアラームが鳴るまで抱き合うことがある。
疲れはないけど、フラフラになるので、一緒に入るのは休みの前の日だけになった。
朝早くから夜遅くまで忙しい日々を送り、普通なら疲れてもおかしくない。
実際、同期の人たちはともかく、先輩たちもひどく疲れた顔をして、研究中に寝てしまう人もいた。
それなのに、私はなぜかぴんぴんしている。
(もしかして…)
数か月後に研修が終わり、自分のやりたいことが調べられるようになった。
私は夜にスーラの粘液を小さな瓶に入れ、それを翌朝に研究所に持っていき、粘液の成分を調べた。
すると、粘液には様々な栄養分だけでなく、疲労を回復する力が強いことが分かったことで、私だけぴんぴんしていられるのも納得した。
その日の夜、私はスーラに頼んで粘液を大きな瓶いっぱいに入れてもらい、それを翌日に研究所に持っていった。
それをみんなに、透明な蜂蜜と言って、偽ったことに罪悪感を感じながらも差し入れをした。
すると、粘液を飲むまでいつ倒れてもおかしくないぐらい疲れていたみんなが、それが芝居だったかのように元気になった。
(騙したのは悪かったけど、元気になってよかった。本当のことは、知られてはいけないと思うから)
でもある日、本当のことを知られてしまった。
女性研究員の一人であるルカが、誰もいない部屋に私を呼んで聞いてきた。
中学の時に私に誰にも告白しないのかと聞いてきた女子だった。
高校は別々になったが、この研究所で偶然再会した。
好きな人(後に彼氏になる男)ができ、下着姿で猛アピールした数日後に、「超肉食系は苦手だ(汗」と断られたことを、本人が滝涙を流しながら語った。
その後、一緒の高校に進み、彼が熱で休んだ時に献身的看護をしたことで惚れられ、告白されて付き合い始めたと聞いた。
しかもお互いに20歳になったら、結婚する約束もしたらしい。
「あの透明な蜂蜜、本当は違うんでしょ?」
「な、何のこと?」
罪悪感を感じながらも、偽った痛いところを突かれて、私は動揺しながらも知らないふりをした。
「とぼけないで!あの蜂蜜は、本当は異形のものの粘液でしょ!?」
この質問に、ギクッとならずにいられなかった。幸いにも、顔に出なかった。
「ど、どうして、そう思うの?」
「知ってるからよ。私も異形のものの粘液を、数年前に一度だけ口にしたことがあったから。透明な蜂蜜みたいで珍しいと思って印象に残ってたのよ」
「そうだったの…」
「で、どうやってあれだけの量の粘液を手に入れたの?実はあの粘液、蜂蜜のロイヤルゼリーよりも貴重なものなの」
これは初耳だった。でも、まさかと思って聞いた。
「出所を知って、どうするつもりなの?お金儲けが目的なら、教えられないわ」
私はまっすぐにルカを見る。
「そう…なら言うしかないわね」
ルカは諦めたように言う。私に聞いてきた理由を聞いて、驚かずにいられなかった。
「実は私ね、母は人間だけど、父が異形のもので、その二人の間に生まれたハーフなの」
何の冗談かと思ったけど、こんなときにこんな冗談を言う性格ではなかったはず。
「冗談に思えるかもしれないけど、本当のことよ。この写真を見て」
見せられた写真に写っているのは、ルカとその姉と思われる女性だった。
「姉に見えるかもしれないけど、私の母なの」
私はまた驚いた。そしてもう一枚の写真を見せてきた。写っていたのは、スーラと同じ異形のものだった。
「これが私の父よ。知られてはいけないと思って、母子家庭ということにしてたの」
そういえば、高校の時に父親はいないと言ってた。きっと、本当のことを言えないことに、父親に対する罪悪感と辛さを感じていただろう。
「父の体から出る粘液で、母は年を取らなくなった。それに母の年齢は、この見た目で100歳を過ぎてるの」
「え!?」
「父の体からは今も粘液が出てるわ。でも、一晩であの大きな瓶いっぱいに詰められるほどの量は出ないの。で、あなたはあの量の粘液をどうやって手に入れたの?」
ここで私は、自分のことを話した。
「私は、6歳になる少し前に、偶然出会った異形のものと、ずっと一緒に住んでるの」
そして6歳になった日に嫌らしいことをされそうになり、そこをスーラに助けられ、恋心を抱いて、初めてのキスをしたことを言った。
「じゃぁ、あなたが中学の時に言ってた、6歳のころから思い続けてる相手って…」
「そうよ。私の初恋の相手で、ずっと彼と一緒に住んでる。そして6歳のころから、ずっと想い合ってるの」
「そうだったの…あんなに大量に粘液を出す異形のものってなかなかいないんだけどね。でも、愛する人ができたのなら、違ってくるみたいね」
ルカが言うには、異形のものは人間に対して心を開かず、それどころか一緒にいるのも嫌がるという。
たとえ一緒にいたとしても、3日と持たずにどこかに行ってしまうそうだ。
「私の父も、私が生まれてから出て行ったことがあるみたいなの。その数日後に戻ったみたいだけど、その前も後も心を閉ざしてて、今に至ってるの」
ただの同居人みたいな状況らしいが、別れずに済んでいるみたいだ。
ルカとのやり取りはこれで終わったけど、この出来事から数日後…。
異形のものの粘液のことを誰かが突き止めたのか、その異形のものを捕まえて、粘液を薬にして売ろうとする業者が出てきた。
一度、異形のものがどこにいるのかを、製薬会社の社員の雰囲気をした人に聞かれたことがあったけど、私は聞いたことがないと本当のことを言った。
6歳になる少し前の出会いは、本当に偶然だったから。
その後も、何日か置きに知らない人に異形のもののことを聞かれ、その度に私は知らないと応えたけど、なぜかスーラのことを製薬会社に知られてしまった。
ある日、仕事から帰って鍵を開けたら、突然数人の男の人が家に入ってきた。
私は一人の男に取り抑えられ、残りの男たちが家中を駆け回り、地下のお風呂場にいたスーラを無理やり引っ張るように連れ出してきた。
「ダメ!スーラを返して!!」
私は必死に抵抗したけど失敗に終わり、スーラは大人が入れるほどの大きさのカプセルに入れられて連れていかれてしまった。
「そんな…愛しい彼は、私の生きがいだったのに…」
私はショックのあまりに、一瞬で何もかもする気力をなくし、食事も一口か二口ぐらいしか食べなかったけど、それがやっとの状態になってしまい、仕事も無断で休んでしまった。
でも3日ほど過ぎて、スーラは自力で私のところに帰ってきてくれた。
私は嬉しくて、スーラを抱きしめて泣きながら、30分以上熱いキスをしたことがあった。
スーラを連れ去った製薬会社は、彼が脱出する際に設備全体を修復不可能なレベルで大破させられ、甚大な損害が出て倒産したと聞いた。
しかも設備を大破させられたことを専門家に見せて訴えたけど、老朽化扱いされて相手にされなかったと新聞に書いてあった。
…だけど私は、3日間の無断欠勤で研究所を解雇されてしまった…。
ルカが解雇を取り消すように説得してくれたみたいだけど、所長は聞き入れなかったと聞いた。
私は、これからどうしようか・・・。
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