第4話
俺は『お気持ち』を差し出してみた。三人の婆さんがお互いに顔を見合わせる。
「まあ、未来ある若者がねえ」
「商店会長夫人の餌食になるってのもかわいそうだしねぇ」
「みなかったことにしてやるよ、早く行きな」
三人の婆さんは素早く『お気持ち』をポケットにしまい込んで、俺を見逃してくれた。
「気をつけていきな、商店会長夫人は商工会館の前にいるよ、負けたら一生、地下室に閉じ込められるからね!」
親切に助言までしてくれて。
だけど、駅に向かうにはどうしても商工会館の前を通らなくちゃならない。俺は少し遠回りして『お気持ち』と『銃弾』を集めることにした。
パン! パン! パン!
コルトが吠える。俺の足元には死屍累々の地獄の光景が。
金! 金! 金!
商店街のおばちゃん連中に会えば稼いだ『お気持ち』を渡して逃してもらう。
『お気持ち』は増えたり減ったりを繰り返していたが、それでも商工会館の前に着く頃には一億クレジットになっていた。手切れ金としては多すぎるぐらいだ。
「っす!」
俺はそれを商工会館の前で仁王立ちで道を塞いでいる商店会長夫人に渡す。
商店会長夫人は服装こそワンレンボディコンと世代を感じさせる出立ちだが、見た目は二十代後半と言っても差し支えないくらいぴちぴちの、いわゆる美魔女だ。歳に似合わぬダイナマイトボディと年相応のテクニックは素晴らしく、俺の下半身が何度もお世話になった馴染みの相手でもある。
その美魔女が『お気持ち』の束にちらりと目を向けた。
「これは……ふーん、そう。手切金ね」
「っす!」
「なになに、この手切金で見逃してもらえませんか、ですって?」
「っす!」
「い や よ ♡ あなたはねえ、ずっと私のものなの」
「っす!」
「え、そんなのは嫌だ? 俺はまだ一人の女に縛られたくないんだ、ですって?」
「っす!」
「フフフ、あなたクズね、でも、そんなところがとってもス テ キ ♡」
「っす!」
「だから、あなたを絶対に私のものにするわ、フフフフ商工会館の地下で、あなたも私の奴隷にしてあげる」
商店会長夫人が鞭を取り出し、ピシリと鳴らした。
「っす!!!!」
俺は咄嗟にコルトを構えるが、ふと、マツイのアニキの言葉を思い出した。
『カタギの女を殺すと警察官が放出される』
ここで商店会長夫人を一撃で仕留めるのは簡単だが、警察官がゾロゾロと放出されるのはよろしくない。
俺は『ステゴロ』で行くことにした。
「っす! っす! っす!」
気合いと共にパンチをぶち込む。
対する商店会長夫人は鞭使いだ。ピシッ、パシっと音立てながら鞭で俺の拳を弾く。
「っす!」
「どうしたんだい、坊や、もう終わりかい?」
俺は一か八か、銃撃を試みる。だが。
「おーほほほほほほ! アタイがこんなちっぽけな弾でやられるもんかい!」
ピシッピシッ、パシッパシッっと鞭で弾かれ、6発の弾はあっという間に尽きた。俺は手早く弾を替える。どのぐらいで早くかというと、ほんの一瞬。
いつの間にか弾が満タンになったコルトを構えて、俺は商店会長夫人の眉間を狙った。
一撃必殺ドストライクつまりは会心の一撃。商店会長夫人は額から血を噴き上げて絶命する。
「っす!」
これで駅へ向かう道を塞ぐものはいなくなった。
ところがその時、どこからともなく大量の警官が湧き上がり、俺を取り囲んだ。
ブラックアウト。
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