第3話 昼下がりのジョージ

 駅前は大きな商店街になっている。その商店街の入り口に舎弟のジョージが立っていた。

「あ、 かす゛の さん、お疲れっす」

 ジョージは俺に風呂敷き包みを差し出す。

「普通の会社員に見えるように地味なスーツを持ってきました。普段の かす゛の さんの格好は目立ちますからね」

 確かに今の俺はヤ○ザしか着ないような真っ白なスーツを着ている。

「おう」

 俺はジョージから風呂敷包みを受け取った。変装用アイテム『地味なスーツ』を手に入れた。

 俺は手早くスーツに着替えた。髪も七三に撫でつければ、どこからみても平凡なサラリーマンの出来上がりだ。

 ジョージは俺に幾つか情報をくれた。

「アケミが殺られたって噂を聞きつけて、商店会長夫人が動き出しました、気をつけてください、 かす゛の さん」

 商店会長夫人は監禁マニアだ、捕まったらおそらく、商工会館の地下にあるという座敷牢に繋がれて二度と日の目は拝めないだろう。

「おう」

「商店会長婦人の手下の、八百屋の女将さんや魚屋の女将さんなんかが かす゛の さんを狙っています、捕まりそうになったらステゴロと『お気持ち』を使って逃げてください、カタギの女を一人殺すと商店街の中に捜査員が100人増員されるんで気をつけてください」

「おう」

「会話が長いなと思ったらAボタンでスキップできます」

「おう」

「フィールドで使える逃走用アイテムを渡しておきますね、これを使うと一定時間『忍び足』が使えるようになります、『忍び足』が発動している間は敵から姿が見えなくなります、囲まれてしまった時や敵が多すぎる場所を通り抜けるのに便利です」

「おう」

 俺はフィールドアイテム『履き慣れたサンダル』を手に入れた。

「商店街を抜ければ駅です、頑張ってくださいね かす゛の さん」

 俺はサンダルを手に、商店街のアーケードの中に駆け込んだ。まだ昼下がりだということもあって夕方ほどの賑わいはない。それでも俺の高跳びの噂を聞きつけたのか、見える限りで十人ほどの警官がうろついている。

 見た目は地味なサラリーマン、なのに両手にサンダルを下げた俺を不審者だとみたのか、警官が一人近づいてくる。

「すみません、ちょっといいですか?」

 職質だ。

「身分証明書はお持ちですか?」

 手元にあるのは変装していない顔写真がついたパスポートだけ。分が悪すぎる。

 俺は本能のままに懐からコルトを抜いた。戦闘が始まる。

 最初に警官がしたのは、仲間を呼ぶことだった。彼の呼び声に応じて、商店街をうろついていた警官たちが俺の前に並ぶ。全部で五人。

 俺は躊躇うことなく右端にいる警官を撃ち殺した。

 ところが、左から二番目の警官が叫んだ。

「応援、願います!」

 近くにいた警官が一人、撃ち殺した警官の死体を踏むようにして仲間達に並ぶ。さらにどこからともなく現れた警官が……合計で八人の警官が俺の前に並ぶ。

 おや、警官のようすが……?

 警官たちがお互いに飛びつき、体を絡め合い、合体してゆく。

「キーングオマワリサーン」

 俺の目の前に身の丈三メートルはあろうかという巨大おまわりさんが立ちはだかる。

 まあ、大きい分的としては当てやすくなったわけだけど。俺はコルトを容赦なくぶっ放す。

「キ……キーン……グ」

 キングオマワリサンは地響きを立ててその場に崩れ落ちた。その懐から八人分の給料袋がぽろりとこぼれ落ちる。『お気持ち』ゲットだ。

 俺は『お気持ち』を拾い上げて走り出した。だが走り出してすぐに、別の敵が俺の前に立ちはだかる。

「おやあ、どこへ行こうっていうんだい?」

 箒を構えているのは荒物屋のウメさんだ。

「商店会長夫人がお呼びだよ」

 竹尺を振り回しているのはブティックハナコのハナさん。

「嫌だっていうんなら、これでふんじばってでも連れていくからね」

 ビュンビュンとズイキを振り回しているのが乾物屋のヨシコさん、いや、ズイキにしては縄みたいに長いってのがおかしいのだが、きっとグラッフィック担当がズイキを知らない若い世代なのだろう。

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