第8話 配信する構想は指針たる妄想
思い立つのは簡単だが、問題は配信する動画の内容だった。もちろん猫の動画などはその
私がほしいのはこの親子水入らずの日々を平和に維持する収入だ、それを乱されるような真似はできない。あと子どもは親の所有物ではない。それを言ったらペットだってそうなるのだが、やはりベビー本人が嫌がる内容にならないのは第一だった。だから事前に承諾をとれる動画がいいだろう……隠し撮りはできないのである。
そうすると、選択肢は大幅に
「ん、むぅ……んにゅ、」
「はー……はぁー……、おっ」
考えていると、ちょうどタイミングよくベビーが起きてくれた。アップの寝顔を撮るべく彼女の上で四つん這いになっていたのでまずはそこを
「ロリコンマザーファ●カー」
「なに?」
聞いてほしい。
なんと彼女が私のことを名指しで呼んでくれたのは、コインロッカーからここに連れてきた日以来だった。しかもそのときはあんなに嫌がっていたのに、ちょっと赤く濁っているものの幼い子特有の美しさを
夢かな、奇跡かな。
どちらの可能性も考えつつ、言葉の続きを待ちながら思わず正座して腕やら肋骨やら脇腹やらを撫でていると、ぽつりと一言。
「きもちわるい」
「あっ──すぅ、」
危ない危ない、反射的にお礼をいうところだった。なんとか息を整えて、彼女から手を離す。寝起きでご機嫌斜めなのかむすっとした顔のまま立ち上がったベビーの腿を見つめていると、「あー」と突然可愛らしい声を発した。なになに、どうした?
「からおけやさん、いく!」
「え?」
「おきがえして、からおけやさん!」
そんな声音に私が抗えるわけなどなく。
「そっか、それじゃあお着替えしよう。ばんざーい」
「ん」
よっぽどカラオケに行きたいのだろうか、いつもなら『じぶん!』とか言ってかなり手間取りながら洋服を脱ぎ着しているのに、今日はとても素直に両腕を上げてくれた。無防備な上半身をじっくり見つめながら、ベビーを着替えさせる。
私は、自分の子どもに欲情するような感性は持ち合わせていない。いくら小さい子とはいえ、ベビーを前にするとどうしてもママとしての自分が勝ってしまうので変な意識をすることはもちろんないのだが……だが。肋骨がほんのり浮き出た肌だけに許される、浅くもこの世の何より深いクレバスはどうしても蠱惑的だった。
「──はっ、」
つい食い入るように見てしまったが、 早く服を着せないと怪しまれてしまう。もたつきながらも服を着せて、寒くないようにマフラーもしっかり巻いておく。こういうときに加減せず防寒優先でしっかり巻いていいのも少しだけ助かる、生きていると絞まる心配もあるから。
「きゅっ、きゅっ……と」
「きゅー」
強めに巻いたからか、私の声に続けて出された声は少しだけ苦しげだった。でも寒いのも可哀想だからな……。あと私の移動手段がママチャリなので、途中でマフラーがタイヤに絡まったりするのも避けたかったというのもあるにはある。ヘルメットも推奨されているので被ってはもらうが、そうすると髪の毛を触れなくなるのが物寂しい。早めに着いてしまおう。
全速力でペダルを回したからか、遊園地のアトラクションにでも乗ったみたいにはしゃぐベビーの声を背中で聞きながら数十分ほどかけてカラオケに辿り着く。
「からおけやさん!」
「着いたね、じゃあ受付しちゃうね」
「はやくはやく!」
よほど楽しみだったのだろう、自分からは私に触りたがらないベビーが……私の背中を押してくれている!! ありがとうカラオケ、カラオケありがとう。思いの外空いていたのですぐに部屋をとることもできて、早速いくつか歌を入れる。今回もベビーと同じ年頃の配信者たちが歌っていたものをピックアップしたから、きっとベビーが歌ってくれればたまらないことになるはずだ……!
そう、思っていたのだが。
「うー……」
どうやらどの歌もピンと来なかったらしい。まだ前回一緒に歌った洋楽の方が反応よかったまであるくらいだ。
イントロは楽しげに聴いているので嫌いな曲というわけではなさそうだが、もしかしたらいざ歌うとなると照れが入ってしまうのかも知れない。そう思って、次に私が歌う曲を入れたときだった。
「──────、」
場が、一変した。
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