第39話 拒絶・離脱・空へ
「魔神はとっくのとうにすでに目覚めていた――石と、適合者が現れたときからな。魔物の大量発生が起きたのはその影響だ」
かつ、かつと綿鍋先生は歩く。
「私は喜んだよ。ついに魔神が目覚めそれに手が届くとあればな……そして秋津衆の彼らがアンタレスにほかの魔導鎧をけしかけてくれた。これにより材料が集まった。私は待つだけで良かった……」
そうして、魔神の前に彼は立つ。
「そして今! 私の計画が果たされるときだ……!」
「先生! いったい何をたくらんで……!」
「簡単なことだよ。私の目的はただ一つ……妹に会うことだ」
「!?」
先生は、両手を開く。
「そうだ。私の妹は死んでなどいない。死んでなどいなかったのだ。君のお祖母ちゃんと二人で出かけ、そしてかえって来なかった時、ひどく悲しんだ……だが彼女は言った! 私の妹は、魔神の中に取り込まれていったのだと! 祭壇から石を持ち帰ってだ!」
彼は祭壇を指さす。
確かにそこには、ぽっかりと空いた穴があり、ちょうど石がはまりそうな大きさである。
「私は、その言葉を希望にして生きて来た。そして待ち続けた。なくなった石が、その手に戻ってくることを期待してな。そしてその時は来た!」
「板野!」
「きゃあああああ!!」
魔神の手が、胸に触れる。そしてその瞬間、板野が魔神に取り込まれていく。
「魔神は適合者を求める。当然の帰結だ」
「いったい何を言って――」
「さあ、魔神ピリオドよ! 私をわが妹と会わせてくれ――!」
先生は歩く。躍り出るように、何かにつかれたように。
だが――閃光が、走った。
「何!」
魔神から放たれた閃光が、先生を貫いたのだ。
「なぜだ! なぜ俺を否定する! わが妹よ……織よ!」
そうして板野を取り込んだ魔神は――
地面から足を離し。
空高く飛んでいった――
「――板野おおおおおおおおおおおおおお!!!!」
***
「いったい何が起こったんだ……」
汀良田先輩がつぶやく。
後に残ったのは、天まで高く続く大きな大きな大穴だけだった。
「魔神は、どこへ行ったの……」
「そりゃあ上だろ。理由はどうあれとりあえず何とかして上に行くしかねえ。何か方法を……そうだ都武」
俺は、都武の下に歩く。
「下までテレポートしたホールがあったろ。あれで上まで行くぞ」
「……お前に従う理由があるか?」
「は? 何お前負けた分際で俺に逆らうの? ぶん殴るぞ」
「井荻、そんなこという奴だっけ」
「ごちゃごちゃ言ってるとぶっ殺すぞ」
「わかった、わかったから……」
都武が黒い穴を開く。
「井荻さん、板野さんがさらわれて気が立っているのかしら……」
「井荻、落ち着け。焦っててもどうにもならねえぞ」
「焦ろうが焦ってまいがやる事は一緒だ……」
一方、地面に両膝をつき、叫んでいる男がいる。
「織、どうしてだ、織いいいいいいいいいいいい!!」
「……まあ黒幕面してなにもしてなかった先生はいいとして」
そして、俺は穴の中に足をかける。
「行くぞ」
***
現代ダンジョン部地上。
地面から現れたのは――巨大な顔であった。
「なんやあれは……!」
「あれは……魔神!」
統月が言う。
「あはは……ついに、儀式が成功したのね!」
空中に穴が開く。
中から、井荻と都武が出てくる。
「すまん統月。失敗した」
「……何を?」
「制御に失敗した。あれは、一体何をするつもりなのか……」
「板野おおおおおお!!!」
俺は、魔神の下に走る。
そうこうしているうちに魔神は地面から首を出し、肩をだし、胴体を出していく。
「板野! そこにいるんだろ! 答えてくれ!」
「騒いでても……何もならないぞ」
穴から続いて、汀良田先輩と聖さんが出てくる。
『なんだかよくわからないが、あいつを砲撃すればいいな』
『あーちょっと待って』
『いくぜぃ忍居!』
戦車から火が放たれる。
だが、それは当たる前に消滅する――一筋の閃光によって。
『ぎゃー!?』
「ちょっと!?」
その閃光はそのまま戦車を焼き、遠くまで吹き飛ばしていく。
「下手に手を出すことも出来ねえのか……!」
魔神はそのまま全身を地面から出し、空へ浮いていく。
そのままあっという間に、天井を目指して飛んでいった――
そしてそれを、眺めてみることしかできなかった――
「くそっこのまま飛んでっちまう!」
「いや――あれはきっと、外に出ようとしているんだ」
都武は言う。
「なぜ今、急に?」
「適合者が、魔力を増幅させているんだ、それで、空を飛ぶだけの魔力を得て、それで……そうだ……魔神はここに封印されていたんだ。外に出ることがないよう、うごめく奴をとどめておくよう、それを僕は……」
そういって地面をへたり込む。
「そんなことはどうでもいい! ちっ板野に通信もつながらねえし……汀良田先輩、何とかして空を飛ぶ方法はないのか!」
俺は汀良田先輩の胸を掴み揺さぶる。
「そんなことオレに言われてもだな……天井の方は行く方法がなくて整備せず放置しててだな……」
「空を飛ぶ方法ならあるなの☆」
梁瀬先輩が間に入ってそういう。
「マジすか!?」
「そう、あるなの! こんなこともあろうかと用意していておいたなの☆」
「どんなこと予測してたのー……? こんなん予測してないでしょうー?」
悠城先輩が突っ込む。こんなことあろうかとって言いたいだけだと思います。
「まあ理由はどうあれあるなら使いましょう使いましょう! いったいどんな方法が……」
「その名も! アンタレスβ装備! 飛行用パックなの!」
***
ロボット工学部に案内される。
そこには、祭壇から召喚して回収されたアンタレスが整備するために固定されている。
「梁瀬ちゃん、いま作業中よ。すぐにβ装備を装着するわ」
「サンキューなの! うっふふ……ダンジョン内では永久に出番がないと思ってたβ装備を使える日が来るなんて思わなかったなの……!」
今、アンタレスに巨大な羽が装着されようとしている。
「これがβ装備……」
「だが、どうやって飛ぶんだ? そんな推進力どこにも……」
「ふふふ……飛行するための設備はこれだけじゃないなの! へいカモーン!」
梁瀬先輩が指を鳴らすと、地面がゴゴゴと音を鳴らし開いていく。
そして中から出て来たのは――レールだった。
そのレールは外へとつながっていく。
ロボット工学部の中から出ると、そのレールは外周まで続いていき、今まさにガシャン、ガシャンと音を立てて地面から飛び出て展開されていく。
「おい梁瀬! こんな大工事いつの間に!?」
「ずっと前から計画があったなの。コツコツ進められてたからそれを完成させただけなの☆」
「ロボット工学部は昔から馬鹿ね。全く」
そのレールは外周を一週した後中央までつながり高く垂直へと続いていく。
「これでリニアの原理で電磁の力で加速してそのまま空中まで飛ぶなの! その名も……「超電磁カタパルト」! なの!」
「へっこれはなかなかにすごそうなものを……」
「……全く、あるんなら仕方がないな。井荻……これで魔神を……板野さんを追いかけるんだ」
「……ええ!」
俺は、大きく頷く。
「井荻くん、装着終わったわよー」
「早く早く乗るなの! 時間はないなの!」
「管埜先輩……梁瀬先輩……! ありがとうございます!」
大きく頭を下げ、二人の下まで走る。
そう、いまこそアンタレスが羽ばたく時なのだ。
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