第38話 現れる、魔神
「あれが、魔神……?」
ちらほらいろんな人からその単語は聞こえていたが、その正体は謎であった。
だが、その名前に恥じないほどの存在がそこにはある。
巨大な巨大な人型ロボット。遠くに顔のようなものがあるのは見えるが、あまりにも遠すぎてその表情をうかがい知ることができない。
「そうだ。これが魔神だ。現代ダンジョン部のシステムに魔力を供給し、外部から存在を秘匿し、そしてここに迷い込む運命すら操っていたのが――こいつだ」
「運命すら操る存在……?」
「こんなもの、本来ならこの世界に存在してはならない。ましてや、たかが一つの部活が所持していいものではならない。お前らは知らず知らずのうちに飛んでもない大爆弾の上で踊っていたのだ――」
都竹が、かつ、かつと歩いていく。
それに合わせて、シリウスが膝を立て姿勢を降ろす。
「だから、我々が管理する。それだけの話だ――だが、その前にまずこいつを目覚めさせなければならない――このままでは不発弾のままだからな」
「……? 不発弾なら、目覚めさせる必要はないじゃないか。このまま頬っておけば――」
「それだけでは足りないのだ。目覚めさせ――主従化に置かなければならない」
「だから、支配か……」
そんなに強大な存在を支配するなんて、出来るのか。そう思ったが――俺は口に出さなかった。
この件に関しては門外漢だし、出来るというのなら出来るのだろう。
シリウスのハッチが開く。その中には――板野がいた。
「! 板野!」
「黙れよ、手を出すな。ここからが大事なところなんだからな」
都竹は、彼女の体に手を伸ばす。
俺は、それを見ていることしかできなかった――
と、その時だった。
二人の間に、一筋の閃光が放たれる。
それが降りてきたのは――はるか、はるか高いところ。
「!? 誰が邪魔を――!」
皆は空を見上げる。
魔神が――目を、光らせていた。
「!?」
もう一発、閃光が放たれる。
その光は、アンタレスに当たった。
「!?」
そして目の前に展開されたのは――あまりにも、あまりにも不思議な光景であった。
ボロボロのアンタレスが、見る見るうちに修復されていく。
零れ落ちたパーツが元の場所に戻り、つぎはぎのパーツが一つに接合されていき、そして元の姿に戻っていく――
「――!? なぜだ、なぜだ魔神! なぜ貴様は――俺ではなく井荻を選んだ!?」
「これもどうやら――運命ってやつのようだぜ都竹!」
俺はアンタレスの手を伸ばし――板野を、掬い取った。
「! 板野! 無事か!?」
「ん……? 井荻君……?」
彼女が、目覚める。
「はっここは一体!? ていうか何が起きてるんでやがりますか!?」
「説明してる時間はねえ! 中に入れ!」
板野を急いでコクピットの中に入れ、ハッチを閉める。
「ちぃ……! アルデバラン! カペラ! アルタイル! シリウス……奴を、取り返せ!」
4機のロボットが、襲い掛かってくる。
「へっくるか……だが、本調子になったアンタレスの前に……敵はいねえんだよ!」
「何かわからないけど、が、がんばれーでやがります!」
アルデバランがビームを放つ。俺はそれを避け剣を抜く。
「一つ!」
胴体ごと、剣を上から叩きつける――敵は吹き飛ばされ、バラバラになる。
「へっ一回壊したからか知らねえがなかなかに脆いみてえだな!」
「くっ……!」
カペラが。顎のつるぎを前面に出し突っ込んでくる。
それを見て、高く飛び上がる。
「ブレイズ……キック!」
頭をぶち抜き、二つに折る。
首を掴み、剣を突っ込んで、ポキリと折る。
「ふたぁつ!」
アルタイルが、光弾を貯めている。
「おせえんだよぉ!」
剣を振りかぶり、一刀両断。
「三つ……!」
「おーでやがります」
「すごい、ですわ……」
遠くから見ていた聖さんが、感嘆の声を漏らす。
「なっ、3機が一瞬で……?」
「へっ再生怪人は即死するものと相場が決まってるんだよ! それに、お前が操縦してるからか知らねえが弱くなってねえか?」
「それだけじゃない」
汀良田先輩が、かつ、かつと歩いてくる。
「俺が見たところ……そのアンタレスは、強化されている。おそらく、あの魔神の力を受けたから……だと思うが」
「なっ……!」
「どうやら神は俺に力を託してくれたようだなあ! さて、どうする都武! 強化されたアンタレスに……敵はいねえぞ!」
「もちろん……やるにきまってるだろうが!」
シリウスが、目からビームを放つ。
それを俺は見てから回避し、剣を持ち走る。
「おおおおおお!!」
敵が腕を振り近づいてくる。アンタレスはその腕をつかむ。
「大振りの攻撃なんて効かねえんだよ!」
そして右足の蹴りを繰り出し、吹き飛ばす。
「遅い遅い脆い脆い!」
そのまま近づき、剣を振り下ろす。
「今更一回倒した敵にやられるかよ!」
「クソっ……!」
頭についた触覚が、剣を受け止める。
……かと思えたが、無理やり力を加え続けることで、ポキリと折れてしまった。
「それでいいのか都武ぇ! よええぞ! これでいいのかよ!? ええ!?」
何度も何度も剣を叩きつける。
ばきり、ばきりと腕が折れていく。足が折れていく。
何度も、何度もたたきつける。怒りとともに。憎しみとともに。
「ははは! ははは! ざまあねえぜ!」
首を持ち上げ、壁にたたきつける。
そうしてシリウスは、地面に座り込んだ。
そのまま高く飛び上がり、空中でくるりと回転する。
「変形……!」
アンタレスが、剣に変形する。
そのまま剣が、シリウスを貫いた。
「ああ……!」
そのまま、都武は地面にへたり込み――静寂だけがこの場を支配した。
「決まったな……都武」
俺は、ハッチを開く。
背中に、不安そうに板野が張り付いている。
「さあ、お前の負けだ」
「……ああ、そのようだな。へっ。付け焼刃じゃプロにはかなわなかったって訳か」
「魔導鎧が使えねえ時を選ぶとか卑怯なことするからだ。まあその計画もすべて無駄になったわけだが」
「ああ。ぐうの音も出ないほどの敗北だ。君たちの――」
と、その時であった。
ぎいいいいと、轟音がする。
ぐらぐら、と地面が揺れる。
「! いったい何が……!?」
「みてくださいまし! 魔神が……!」
巨大な、巨大なロボットが動いている。
ゆっくりゆっくりと、手を伸ばしている。
「! 儀式は完了してなかったはず……!」
「無駄だ、もうすでに魔神は目覚めた」
かつ、かつと音がする。
歩いて来たのは、綿鍋先生であった。
「ご苦労だったな都武。ここまで材料を集めてくれたのは君のおかげだ。泳がせておいたかいがあったよ」
魔神の目からビームが放たれる。それは板野の目の前を貫き、俺と都武が吹き飛ばされる。
「! 板野――!」
魔神が手を伸ばす。
その手が握ったのは――板野であった。
「さあ魔神よ――その力を示せ」
綿鍋先生が、指を鳴らす。
アルデバランが、カペラが、アルタイルが、シリウスが、アンタレスが――光を放ち始める。
その光は――魔神へと向かっていく――
「さて、目覚めよ――魔神「ピリオド」よ」
そして、終わりが立ち上がった。
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