第33話 悪魔の腕
黒い影が、笑っている。
にやりにやりと、笑っている。
それを見たものはみな驚愕を、動揺を、恐怖を、感じる。
だってそれはあの神舞先輩の笑顔なのだから――
「かい、へい、けん……びいいいむ、ざん、!」
彼女は右手にもった剣を振り、ビームを放つ。
「ちぃ! マルチツール! ガードドライバー!」
鋼は、プラスドライバーを地面に突き刺す。すると地面がめくれ上がり、ビームを防ぐ。
だが、長くはもたなかった。
「是としては……これが役目でありまして」
すると、その時陰から一人の少女が現れ――鉋を研ぐ。
「! てめえは……!」
「秋津衆、都武四天王が一人…… 白の白虎、統月 義科が今ここに……」
バリア代わりにはがした地面が、割れる。
「がぁ……オールナイフ!」
貫通したビームを切り裂き、何とか上にそらす。
「はぁ、はぁ……」
「フフフフフフ……」
彼女は、ニヤニヤ笑っている。
憎しみを込めて。懺悔の意を込めて……
「ねえ、見て、見てくれる? 私の姿……醜いでしょう、むごたらしいでしょう? だって、私悪魔なんだもの! 悪魔に魂を売ったんだもの!」
「先輩、いったい何を言って……!」
「呪い、痛み、苦しみを感じ、私はこれでも生きているの! ねえ、ねえ、醜いでしょう!」
巨大な左腕を振り、鋼に向かって振り下ろす――
「統月! てめえ神舞先輩に何かしたのか!? それとも――」
「いえ……仁代さんは昔から、是と初めて会ったあの時から――ずっと、こうでしたよ」
「そうよ――私は、生まれたときからずっと、生まれる前からずっと、こうあることを運命づけられていたの!」
***
彼女の家、神舞家は悪魔を封印することを命として定められた家系であった。
その身に、その体に、その左腕に、悪魔を飼うことによって――
「こわくは、ないの?」
統月は言う。少女は言う。
彼女も、同じ秋津衆で生き、その才能を見出された少女である。
そして、子供のころから親交のあった、友達で合った少女に向かって言う。
「ううん、こわくはないの。だって、それがわたしのやくめだから!」
無邪気に、幼い彼女はそういう。
何も知らないからこそ、これからの未来を知らないからこそ、彼女は言う。
「でもね、でもね。義科ちゃん。もしもわたしが変わっちゃったとしても……」
彼女は言う。彼女は言う。
「わたしたち、友達だよ?」
「――うん、仁代ちゃん!」
統月は、笑顔でそう答える。
しかしその夜であった。つんざくような、悲しい悲鳴がどこまでも、遠くまで、響いていったのは――
***
「だから、同情しなくていいの。私は生まれたときからこうだから。普段は、おとなしくしてくれてるから、そんな、いたくないし。でも、今は痛いの。苦しいの。だって、だって、あなたたちを殺すために、引き裂くために、悪魔を解き放ったのだから――」
ひひひ、と笑う彼女。
「あなたたちのせいよあなたたちのおかげよこんなにいたいのもこんなにあばれられるのもぜんぶぜんぶぜんぶ――ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ」
その時、彼女は完全に正気を失った。
うつろな目で、ゆらりゆらりと歩き出したかと思うと――高く、飛び上がった。
「ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひゃひゃひゃひゃひゃひゃああああああああああああああああいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「……痛々しいですわね」
「とりあえずおとなしくしてやらねえといけねえみたいだな……」
「でも、どうやってやるんや!?」
「決まってるだろ……倒すんだよ!」
振り下ろしてきた腕に向かって、ナイフを突き出す。
だが、そのナイフはポキリと折れた。
折れてしまった。
「――!?」
「あはははははは! 弱いねえ! もろいねえ!」
「ちぃ……だが! マルチツール! フィクション!」
折れたナイフをしまい、軽く振ると――なんと、ナイフが元に戻った。
「へへっダンジョンの武器なめてんじゃねーぞ! このくらいすぐ直る!」
「あら、なかなかやりますわね!」
アリスが鎌を振ると、丸い波が渦となって飛んで行く。
それを神舞は左腕で受け止める。
衝撃。
だが――煙の跡に現れた黒い腕には傷一つついていなかった。
「……なかなかやっかいですわね」
「くっワイも玉砕覚悟で突っ込むか……?」
銀蛇が構えた、その時だった。
「それでは――こちらにまかせてもらいましょうか?」
「ギャラクティックーハートー……ブレイカー!!!!」
遠くから、ビーム砲が飛んでくる。
それを左腕で受ける。
しかし――
「ぐっ……」
爆発。
後ろにのけぞる神舞。
「あれは……梁瀬先輩のか! 効いてるぞ!」
「くっ、かいへいけん……ビーム……」
剣を構える神舞。
中央がぱかりと開き、ビームが充填される。
「く、くるでえ!」
「それではこちらをお借りしましょうか?」
マリアが、メアリーのクリスタルを鎖で巻き取る。
「ビームほう……はっしゃあああああああああああああああ!!!!!!」
「はぁ!」
そのビームの一撃を、マリアはクリスタルで防いだ。
「そうか! クリスタルはどんな攻撃も受け付けない、それなら……!」
しかし統月が、憎々し気な目で見ている。
「くっ、でも、この是ならクリスタルも……」
何かしようとしたその時、手元に向かって弾丸が放たれる。
「!?」
咄嗟に回避をし、弾丸をよける。
「……外した。でもじゃまはさせない」
それは永居が遠くから放った、狙撃で合った。
そうして、ビームを上に弾き飛ばす……
「……がぁ!」
「やりましたわね……それではメアリーさんはお借りします。どうかご容赦を」
「いや俺らはいいが……メアリーの奴がないんで言うかわかんねえけど……」
「なんかちょっとかわいそうな気もするんやけど」
「不意打ちを食らってクリスタル化したのが悪いのですわ」
「いうねえアリスちゃんなの」
「何はともあれ――」
鋼が一歩前に出る。
「皆で協力して、先輩を倒すぞ」
と、ナイフを一振り。
「ああ、わかったで!」
「……ええ」
「ぜひとも。行きますわよ」
「それでは行きましょう」
「おー、なの☆」
そうして、皆が頷いた。
「しかしここにいない忍居やジョンはどうしたんだか……」
「錦織さんならここぞとばかりに飛んできそうですが」
「仁井総さんもいないわね」
果たして、彼ら彼女らの行方とは。
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