第27話 万病を治す癒しのネックレス

 戦いが終わり、そこにはボロボロになった3機の魔導鎧が残されている。


「なんとかなったか……」


 ツルバミから汗だらけの汀良田先輩が出てくる。


 俺は一人、コクピットの中でぼーっとしていた。


「皆ー大丈夫かしら?」


 上の穴から、神舞先輩がやってくる。


 次いで、板野、都武、メアリー先輩がやってくる。


「井荻くーん! 大丈夫でやがりますか!」

「あいつの事だ。何とかしてるだろう」

「信頼が厚いねえ」


 俺は、コクピットの中から声をかける。


「ああ、なんとかしてやったよ……しかし疲れたな。今回は強敵だった」

「あの変形に助けられたな。いったいあれは……」

「汀良田先輩にわからないのなら俺もわかりませんよ」


 剣の形に変形したアンタレス。その勢いでなんとか相手の装甲を破れたが、いったいあれは何だったのか……


 そこでふと、俺は気づいて急いでコクピットから出る。


「そうだ! ネックレスを取りに行かなければ!」


「あのーそれなんだけど……」


 神舞先輩がポケットから何かを取り出す。


「それは、まさか……」

「見つけちゃった☆」


 その手に持っていたのは、とても美しい装飾を施されたネックレスであった。


 俺は、膝から崩れ落ちる。


「そ、そんな……」


 ダンジョンの中で拾ったアイテムは、よほどのことがない限り早い者勝ちだ。

 神舞先輩に取られてしまったということはもう……


「そ、そんなにへこまれても……」

「神舞先輩、井荻の奴はですね……」


 メアリー先輩が神舞先輩に耳打ちをする。


 すると、彼女はため息を一つつき、にっこりと笑いネックレスを差し出す。


「これは……」

「そういえばさ、ここ何回か井荻君に色々やってもらったけどさ……その報酬を現代ダンジョン部内で渡してなかったよね?」


 そういってほっぺたをかく。


「つまり……?」

「だから、譲ってあげるって事よ」

「――ありがとうございます!」


 俺は、深々と頭を下げ、ネックレスを受け取る。


「珍しいな、神舞が人に譲ってやるだなんて」

「でも、あくまで現代ダンジョン部内での報酬って事だから、それを代替してあげたあたしにも……ね? 汀良田くん?」

「……わかったよ、仕方ないな」


 肩をすくめる汀良田先輩。


「良かったでやがりますね! 井荻君!」

「ああ……ああ!」


 ネックレスを抱きしめ、俺は胸がいっぱいになる。


「母さん……これでネックレスを届けに行けるよ……」


 メアリー先輩がうんうん、と頷く。


「これで一件落着って訳だな」

「それにしても、こうも異常事態が続くと困るな……」

「いえ、大丈夫ですよ」


 都武が眼鏡をかちりと上げる。


「もう、起きませんから」

「――一体何を、知っている?」

「僕は何も知りませんよ……これから、全てが明らかになるんです」


 そういって、どこかに去っていった。



 ***


 後日。

 病院の一室の扉が開かれる。


「あら、将介……今日も来てくれたのね」

「母さん……今日はちょっと、渡したいものがあるんだ」

「あら、なにかしら」


 首をかしげる母。


「ちょっと前、母の日だっただろ――その時、渡せなかったプレゼントを、さ」


 俺は件のネックレスを取り出す。


「あら、綺麗なネックレス……買ってきてくれたの?」

「買ったっていうか貰ったっていうか……まあ、母さんにプレゼントするために持ってきたんだ」

「あら、ありがとう……将介くんからもらったものだからね、大切につけるわね」


 早速、首にかける母さん。


「……似合ってるよ」

「あら、うれしいわ」

「……なるべく、つけてくれると嬉しいわ」

「もちろん!」


 母は、にっこりとわらう。

 その笑顔を見ていると、苦労した買いがあったものだと感慨深くなるのであった。


 ***


 病院の入り口のそばの壁に、汀良田先輩がもたれかかっている。


「――んで、渡せたのか、ちゃんと」

「汀良田先輩……ええ、もちろん」

「……良かったな」

「ええ」


 俺はうなづく。

 同様に、先輩も頷いた。


「井荻くーん」

「ん、板野か」

「お疲れさまでしたわ」

「アリスまで……皆待っててくれたのか」

「都武さんはいらっしゃいませんけどね」

「それでは、一緒に帰ろうでやがりますよ!」

「……ああ」


 晴れた空の下を歩いていく。

 さわやかな気温の日であった。


 それからしばらくして――母親の容態はよくなり、退院することが、できたのであった。

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