閑話 アリスのマイ・スペシャル・グレート・ウェッポン
「わたくしだけの武器が! 欲しい! ですわ!」
ある日突然、アリスがものすごい勢いでぐずりだし始めた。
「……いやどうしたんだよアリスさんそんなに騒いで……」
「うらやましいですわ! 井荻さん! 雄々しくそびえる巨大ロボットに自分だけの武器、ドローン! わたくしだって、わたくしだって、そんなかっこいい武器を使ってみたいですわ~!」
「随分といいますねえ」
板野が呆れて肩をすくめる。
「板野さんだって欲しいと思いませんか!」
「私にとっては先輩からもらったあの狙撃銃だけが特別な武器でやがりますよ」
「そうでしたわ! 板野さんの武器もまた特別! うらやましいですわ~!」
やたらテンション高いアリスの姿を、眺める俺。
「とは言ってもなあ。特殊な武器を買うほどの金はないし、気長にダンジョンで手に入れるのを待つしか……」
「やーだーですわー! 今すぐ欲しいですわー!」
地面に寝っ転がり、ぐるぐるぐずりながら回転し始めるアリス。
「……子供かいな」
「子供でやがりますねえ」
板野と顔を突き合わせ、ひたすらに呆れる。
「ふふふ……話は聞かせてもらったわ!」
その時、突然現れたのは錦織先輩だった。
「うわなんですか突然都合よく便利そうに現れて」
「情報屋だもの! 突然現れるくらいのことはするわ!」
何だかよくわからないがすごい自信だ。
「そんなあなたのために、スペシャルな鎌が報酬として眠ってるダンジョンの情報! 欲しいわよね!」
「はいはい! 欲しいですわ!」
「ただしお値段は……」
「いくらでも払いますわ~!」
交渉が成立してしまった。……何をやってるんだあの子は。
「今日のアリスちゃんはやたらテンション高いでやがりますね~」
「いったい何があったのやら……」
まあ、いつも普段着としてゴスロリを着ている彼女だから常時テンション高いと言えなくもないのだけれども。
「ふーただいま……ってどうした」
「都武さん! ダンジョンに! 潜って! わたくしだけの! 武器を!」
「おいおい何言ってるかわからないぞ……」
都武に詰め寄るアリス。
「かくかくしかじかでなあ」
「それでダンジョンの情報を買っちゃったと……」
「行きますか? 行きますわよね?」
「……まあ、アリスさんがそこまで言うのなら」
「やったーですわー!」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶアリス。……ほんとどうしたんだお前。
「さて、行きましょう! わたくしだけの武器を探しに!」
***
「閉所だー! 閉所しかねえー! 俺のアンタレスが召喚できねえー!」
黒い鉱石で固められた狭いダンジョン。それが先輩に紹介された場所であった。
それすなわち、閉所なのでアンタレスが召喚できないこと。俺が役立たず同然であった。
……悲しい。
「クスクス……たとえ井荻さんのアンタレスがいなくてもわたくしの力でどんな敵も倒して見せますわ!」
鎌を振り回し、かっこつけるアリス。
だが、俺たちはどこか心の奥で心配していた……そのテンションの高さで失敗しないだろうかと。
それからの道は苦難の連続で合った。
アンタレスが召喚できないこともあり、敵の強さに苦戦するばかり。
いくつかの謎解きもあり、敵を退けながら何とか突破しようと頭を悩ませる。
その苦労は筆舌しづらいものがあり、これを語るのはまたの機会にしておこう……
***
「ついに! 奥地に! 到着しましたわ!」
ひときわ大きな部屋に到着する。
「やっと着いたか……」
「いやはや大変でやがりましたね……」
「ああ、言葉では言い表せないほどにな」
「だがネックレスのダンジョンの苦難を乗り越えた不肖僕たちの敵ではなかったな……」
アリスが小躍りしながら、奥へと進んでいく。
「新武器♪ 新武器♪」
確かに、一段大きく豪華な宝箱が奥に鎮座されている。
「本当にあるんだろうな……」
「ええ、ここまで来たのならきっとありますわ! 開けてもよろしいですわね? いいですわね!?」
食い気味に言うアリスにだれもが顔を合わせるばかりだった。
「では、御開帳ですわ~!!」
宝箱を開けた瞬間、今まで騒がしかったアリスが急に静かになる。
「どうしたんでやがりますか? まさか……」
「……」
「どれどれ、見せてみろ」
果たして、その中には――
何も、なかった。
「ああ……」
「なるほど、誰かが先に取ったか……」
「そもそも、ガセだったか、でやがりますね」
「……そんなあ……ですわ」
あからさまにがっかりし、膝を落とすアリス。
「まあ、こんなこともあるって。落ち込むなって」
「まだ、諦めませんわ……!」
かと思えば、急に立ち上がる。
「まだ、何かあるはず、二重底とか……! うわあ!」
宝箱の奥をまさぐり始めたかと思うと、悲鳴とともにアリスの姿が消える。
「なんだ!? どうした!」
「みてくださいでやがりますよ!」
なんと、宝箱の奥には穴が開いていた!
「なるほど、隠し部屋があったんだな……」
「とりあえず、俺たちも行ってみるか」
慎重に縄を伝いながら、下へ降りていく。
そこにあったのは――
豪華絢爛な意匠をまとった、光輝く、黒と赤の鎌。
そのモチーフには時計と針が使われている。
その下でアリスがへたり込んでいる――
「おーい、大丈夫か……」
「……やりましたわー!」
鎌に向かって抱き着くアリス。
「やりましたわ、やりましたわ、わたくしだけの鎌ですわー!!!!」
ものすごい喜び、はしゃぎ、踊りながら鎌を掴む。
そしてくるりとそれを振り回すと、にやりと笑った。
「かっこいい、かっこいいですわー!!!」
「っと、無駄足にならずに済んでよかったな」
「ああ、ここまで来たかいがあった」
「喜んでいるアリスちゃんを見ると私たちもうれしいでやがりますねえ」
アリスは、鎌を掲げる。
「この武器の名は……「デザイア・タイム・オー・クロック」といたしますわー!」
はしゃぐアリスを見ながら、俺たちは拍手し、歓迎するのであった……
***
後日。
「へーあったのね! 武器!」
「……確証なかったんですか?」
「ほかの人にも教えたけど、なかったって言われたわ!」
「ああ、あの隠し部屋に……簡単な罠でやがりますけど気づかないのもしょうがないでやがりますねえ」
「で、そんな怪しい情報を僕らに教えた、と」
「そんなこと言われても、情報のソースは自動探索機械からよ? 間違ってるわけないわ!」
「確かに……」
まあ、紆余曲折あったとはいえ。
「らんらんらーん」
喜んでいるアリスの姿を見ていると、まあ良かったと思うのでした。
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