第26話 対峙する、強敵

「さて……ダンジョンが騒がしくなってきたようだな」


 一方、汀良田は機械のモンスターの群れを魔導鎧で叩き潰していた。


「あら、これがダンジョンの異常事態ってやつかしら?」


 管埜がモンスターを蹴りで吹き飛ばしながら汀良田に応じる。


「そのようだ。……嫌な予感を感じてきて正解だったな。ある程度まで倒したら引き上げてほかのパーティの救援に行くぞ」

「はいはいりょうかーい」

「承知しました。ぜひともやらせていただきましょう」


 悠城はプラズマ砲で敵をぶちのめし、井出渕も大量に用意したナイフを投げモンスターに突き刺していく。


「――っと、大物が来たようだ」


 天井が揺れる。

 かと思うと大穴が開き――


「なんですか……あれは!」


 そして、一台のロボットが舞い降りる。

 その名は、アルタイル。その姿は金色の鳳凰のよう――


「こいつを相手にするのか……まずいな、救援にはいけないかもしれんな」

「あら? 諦めていいのかしら?」

「まさか。オレもやらせてもらうよ。いつまでも後輩に任せっぱなしじゃ先輩の面目が立たないからな」


 汀良田はアルタイルの方を向き、構える。


「……」


 相手は、ツルバミの姿をじっと見つめるだけだった。


「不気味だな……こちらから行かせてもらうぞ!」


 6本の腕を取り出し、そのすべてに剣を持っている。


「はぁ!」


 敵に向かって突っ込み、剣を振り上げる。


 衝撃。だが、その一撃は止められる――


 アルタイルは、羽を体に纏い、シールドとして扱ったのだ。


「くっ硬いな……だが!」


 一歩引き、背中の大砲を取り出す。

 肩に砲塔を乗せ、一発。

 ドン、と大きな音がする。


 羽を広げた相手は、両手を取り出しその弾丸を受け止めた。


「っ!」


 それをそのまま振りかぶり、ツルバミの方へ投げ返す。


 シールドで防御する。爆発音。


「なかなかに手の出しようがないな……どうするか?」


「あら、苦戦してるようじゃない?」

「僕らもいるのを忘れないでくれるかな」

「うちらもできることはするよーっと!」

「お前ら、あまり寄ってもやられるだけだぞ……!」


 敵に向かって駆ける仲間たち。


「とうっ!」


 管埜が高く飛び上がり、蹴りを食らわせる。

 だがそれを手の甲ではじく。


「一鉄……送魂斬!」


 ナイフの柄を殴り、飛ばす井出渕。

「……」

 それを、羽をまとうことではじく。


「うーん、なかなか効きづらいんじゃないかなってー!」


 プラズマ砲を放つも、当然効果はない。


 アルタイルは左手に光を貯め、光弾を放出する。


「これは、受けたらまずい……!」


 迫ってくる光弾を、避ける。


 だが、その先には井出渕がいる――


「井出渕くん! 危ないわよ!」

「ちぃ! 使うしかねえか……急急如律……反射陣!」


 ポケットから何かを取り出し、光弾に向かって投げつける。

 すると、空中に大きな文字が現れ、壁となる。

 そうして、光弾は反射されアルタイルの方へ向かっていく――


「ちょっとー何それー!」

「今までそんな魔法持ってたのなんて知らなかったわよ?」

「隠し玉ですよ……あまり使いたくはありませんでしたが!」


「……」


 アルタイルは戻ってきた光弾をじっと見つめると、右腕から光弾を放出する。


 爆発。二つの光は相殺され、消えていった。


「虎の子の札も効きませんか……!」


「くっ、万事休すって訳か?」


 その時だった。


「――参上!」


 空の穴から、一台の魔導鎧が降臨する。


「あれは――井荻!」

「それと、アンタレスね!」


 そう。アルタイルを追ってやってきた彼らが、ついに追いついて来たのであった。


 ***


 なるべく急いで駆けつけたつもりだったが、なかなかに時間がかかってしまった。

 すでに先輩達とアルタイルが交戦している。


「だがこの様子だと……苦戦しているようですね! 先輩!」

「くっ、悪かったな……!」

「いや責めてるとかそういうのじゃなくて……奴は、相当に強いですよ、一筋縄じゃ行かないと思っています」


 構える、俺。

 敵は強大だ。だが、皆のためにも、板野のためにも、母親のためにも立ち向かわなくてはならない。


「すまないな井荻……今回もお前に戦わせてしまって」

「いえ、こいつらを倒すのは俺の仕事ですよ」

「そうか……なら、倒す方法を考えなくちゃな。……井出渕、さっきの奥の手とやらはもう使えないか?」

「……あと一度だけ残っています。くそっ、あまり使いたくなかったんですけどねえ!」


 真面目な姿にはちっと似つかわしくない舌打ちをする井出渕先輩。


「井荻、強力な光弾を乗り越えても、相手には硬い装甲がある。このどちらもを切り抜けなければ勝てる方法はない」

「じゃあ、どうするんですか?」

「決まっている。繰り返すが、光弾を跳ね返し、装甲を貫く。これしかない」

「同じこと言ってるだけじゃないですか……それが出来たら苦労しませんよ」

「だが、やるしかあるまい。いいか、よく聞け……」


 汀良田先輩が作戦を話す。

 俺は、無茶ながらも確かなその作戦に静かに頷いた。


 ***


「最大充填……マックスプラズマ砲! ってー!」


 悠城の最大までチャージした巨大なプラズマ砲が、アルタイルに向かって放たれる。

 爆発。ダメージは受けていないものの、ぎろりとこちらの方を向く。


「よし、注意がこちらの方に向いたぞ!」


「ワタシもやらせてもらうわよ!」


 管埜先輩は周りの瓦礫を蹴り飛ばし、相手に向かってぶつける。


「まだです、こちらの方を向いてください……!」


 井出渕は何本ものナイフを取り出し、柄を殴ることで射出していく。


 そして、こちらにロックオンした敵は左手を構え光の弾を貯め始める――


「こっちだ……!」


 汀良田先輩が後ろの巨大な砲塔を取り出し、肩に乗せ相手に向かって砲撃する。


 爆発。こちらもダメージはないものの、またツルバミの方を向き右手を構える。


 衝撃。光弾が二方向に向かって飛ばされる――


「よし来た! ……くっ!」


 汀良田先輩は光弾をもろに食らってしまう。


「先輩!」

「オレの事はかまうな……やれ! 井出渕! 井荻!」


「今更ためらうつもりはありませんね……急急如律、反射陣!」


 魔法陣が展開される。

 そうして、井出渕先輩の方に放たれた光弾は反射される――


 アルタイルは、向かってきた砲弾に対し、少し静止した後羽を閉じ防御を固める。


 着弾。相手に巨大な衝撃が走る――


「――そこだ!」


 俺は高く飛び上がり、空中でくるりと回転する。


「究極……ブレイズキィィィッッック!!!!」


 炎をまとい、勢いよく敵へ突っ込む――



 俺は、頭の中で考えを巡らせていた。


 板野の事。昔、彼女を守ろうとして、傷つけたこと。


 後悔している。彼女には負い目も感じている。


 だが、板野はそんな俺になんら気にすることなく接してくれた。


 俺は、彼女を守らなければならない。その義務がある。



 母親の事。ずっと体が弱いながらも俺を心配してくれた大切な大切なお母さん。


 ずっと病院にいて、まともに接する時間も少なかった。


 それでも数少ない時間で、母は優しく笑いかけてくれた。


 そんななのに、めったに帰ってこない父親に怒りすら感じている。


 だから、俺がしっかししてなくちゃならない。


 少しでも母親の苦痛を和らげるためにも――


「どうか、アンタレス、俺に、力を――!!!!」



 その時だった。


 アンタレスのコクピット内の画面が、光り始めたのは――


「これは――!」


 deformation。変形。


 俺は、迷うことなく画面に手を触れる――



「なんだ、あれは――」



 アンタレスが、がしゃり、がしゃりと変形していく。


 全てを貫く、剣の形に。


「これなら、行ける気がするぜ……いけええええええ!!!」


 一本のつるぎと化した俺たちは、アルタイルへと向かっていく――



 衝撃。


 そうしてアンタレスは、敵を、貫いた。

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