第24話 少女のお守り
その後、軽くアンタレスが突撃するだけで、敵の群れは殲滅されていった。
あっという間に敵を片付けたアンタレスに、皆は驚嘆を隠せない。
「すごい……あれだけ硬かった敵があっという間に」
「へへっかっこいいぜ」
感心する大槻先輩と鋼先輩。
「んーと、これおれ達要らねえんじゃねえか?」
存在意義の危機に冷や汗をかくメアリー先輩。
「えーいや、そういってこいつに頼ってても召喚できない閉所とかではどうしようもないと思うからな、ちゃんと価値はあると思う所存でありまして」
冷静に分析する忍居先輩。
俺は機体から降り、アンタレスを戻す。
「っと、こうやっていちいち戻さなきゃいけないのがまどろっこしいけどな」
「でも、それだけの強さはあるでやがりますよ」
「へへっもう一回見せて―」
「召喚権を無駄遣いさせるんじゃないよ……勿体ないな」
目を輝かせる鋼先輩をいさめる大槻先輩。
「いやーそういわれるとどうしよっかなー鑑賞会するって約束したからなー」
「そんな時間はないぞ井荻。非合理的だ」
調子に乗った俺を都武が止めた。
「えー呆けるのはそれくらいにして、どんどん進んでいこう。……時間はないのはそうだ。今頃誰かが宝を手にしているかもしれないと思う所存で」
忍居先輩が先導し、先に進むことになった。
***
それからも幾多もの敵をアンタレスで蹴散らし、時には閉所で戦ったりしながら先へ進んでいく。
「……ヤバいな、そろそろ俺の魔力もなくなりそうだ」
「はい、マナポーションでやがりますよ」
「サンキュー。……よし、これでしばらくは召喚できそうだな」
板野から渡されたマナポーションをのみ、魔力を蓄える。
「でも、井荻さんのおがけで結構テンポよく先へ進めましたわ」
「ああ。ゴールも近いかもしれないな……」
進む。進む。俺たちは前へ進む。
目指すは、万病を治すネックレス。
それを手に入れて俺は――
「井荻君? どうしたんでやがりますか?」
「――ああ、少し考え事をな」
「考えるのはよい事ですわ。でも、それで周りが見えなくなるのもいけませんわね」
「ほら、また大きな部屋に出るでやがりますよ。また井荻君の出番があるかも……」
「ああ――」
ぜひとも、手に入れてやる。
そう深く誓い、俺は手を強く握った。
***
そこは、ひときわ広くひときわ美しい荘厳さをまとった広間であった。
いくつもの像が並び、一番奥には祭壇のようなものが鎮座されている。
「おっ、もしかして当たり引いたんじゃねえか?」
「油断しない方がいい……まだどこから敵が来るからわからないからね」
最後まで警戒を続ける大槻先輩。
「んーいや、その必要はなさそうだぜ」
確かに、その一室には敵の気配は一切なかった。
「あの玉座が何かが気になりますわね。少し調べてみた方がよろしいと思いますわ」
「そうだな、やけに仰々しいもんだし……」
と、すると、板野が後ろでまごついているのが見える。
「どうした? 板野? 考え事か?」
「いえ――その、私が普段持っているこれが」
板野は、ポケットからお守りを取り出す。
そして、それは中から光が漏れ出していた。
「中に何か入っているのか……? それ、どこで手に入れた?」
「井荻君……覚えてないんでやがりますか」
板野はぷんぷん怒り出す。
「えっ……あっ」
「これは小学生の時、井荻君がくれたお守りじゃないでやがりますか」
「そんなこともあったな……」
昔の話は思い出さないようにしているせいで、気づかなかった。クソ。藪蛇だったか。
「だとしても――なぜそのお守りが光り輝いているか、の理由にはなりませんわ」
「んー中に何か入ってるみたいだな、取り出してみたらどうだ?」
「お守りの中を見るなんて……いや、四の五の言ってる場合じゃないでやがりますね」
板野は、お守りの中を見る。
「これは……」
中から取り出したのは、緑色に光輝く石であった。
「なんでこんなものが――井荻君、これどこで手に入れたんでやがりますか?」
「ちょっと待て……今思い出すから」
子供の頃、貰ったお守り。それを大事なものだからと板野に預けたお守り。
それは果たして誰からもらったものであったか――
「お祖母ちゃんだ」
「! 確か、昔この現代ダンジョン部にいたっていう……」
「あら、親戚の方にこの現代ダンジョン部にいたかたがいらっしゃったのですね」
「というか、祖母の代がいるほど歴史あったのかこの部活……」
驚く都武。だが、それ以上に驚いているのが俺であった。
(お祖母ちゃん……? いったい何を考えてこれを俺に預けたんだ…?)
「それより皆……見て、祭壇もほのかに光っている」
「えーその石とおなじ色のようだな」
確かに、部屋の奥から緑色の光が垣間見られる。
その光はどこかあたたかく、優しさすら覚えるものであった。
「んじゃ、何か関係があるのかもしれないな。ここまで来てそうじゃないわけにもいかないだろうぜ」
「えーしかし、井荻くんのお祖母ちゃんが持っていたお守りに、どうしてそんなものがあるのか……謎だと思う所存でありまして」
忍居先輩が腕を組んで何か考えている。
「んーでも、しかしあの祭壇、ちょっと怪しいぜ、またぞろ何か異常事態でも起きたら……」
「でも……ここまで来て何も見ないわけにもいかないよ」
「……そうだな。怪しむのは色々みてからでも遅くないだろう」
「とにもかくにも、祭壇を見てみようでやがりますよ!」
大槻先輩と都武が先導して、皆で、部屋の奥まで歩いてゆく。
祭壇には、文字のようなものが刻まれているが、その意味を知ることはできない。
石と祭壇を見比べてみると、その材質はどこか似ているようだった。
「それで……これをどうすればいいんでやがりますかね?」
「……祭壇の上にのせてみればいいんじゃないか?」
壁に寄っかかっている都武が、そうぽつりと漏らす。
「じゃあ、そうしてみるでやがりますね」
石を祭壇の上にコツリと置く。
一瞬静寂が流れる。
その時だった。
ごごご、と地面が揺れ始めたのは。
「くっ! また異常事態か!?」
「ほらー! 何か起こったじゃねえか!」
メアリー先輩が大槻先輩を指さす。
しかし、大槻先輩は何も言わず黙りこくり、険しい顔をしていた。
「みてくださいまし! 祭壇の後ろ! 壁が開いていきますわ!」
咄嗟に上を見上げる。
事実。その通りであった。
壁にみし、みしとまっすぐな線が入り、ごごご、ごごごと土煙をたて開いていく。
「くっ、いったい何が出てきやがるんですか……?」
「ちぃ、アンタレス!」
何か嫌な予感を感じ、端末を空に掲げてアンタレスを召喚する。
壁が開いてゆく。開いてゆく。
そして――開いた先の暗闇から、きらり、と二つの光が垣間見えた気がした。
「皆、準備しろ!」
忍居先輩が号令をかけると、皆は武器を構える。
そして、扉は開いた。
その奥に存在したのは――一体の、人型巨大ロボットであった。
「くっ!」
急いでアンタレスに乗り込む。
大剣を取り出し、振るいながら突貫する。
ゴー、ゴーと息遣いのような機械音が聞こえる。
「はあ!」
剣を振るう。
だが――その一撃は、あっさりと止められてしまった。
「!?」
光が部屋を満たしていく。
そこにいたのは、広く翼を広げた神々しさすら感じる金色のロボット。
それが、片手で大剣を抑えていた。
アンタレスのモニターに文字が表示される。「Altair」、と。
「アルタイル――それが敵の名前か!」
大剣を取り外し、一度距離を取る。
「くそっ、なかなかに強そうだが、かかってくるならかかってこい!」
俺は、剣を構えた。
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