第23話 異様なダンジョン

 ダンジョンの中は、荘厳な雰囲気が漂っていた。

 壁は大理石でできており、美麗な装飾が施されている。

 ところどころに美しい像があり、それも大理石でできている。


「なんだか異様なダンジョンだな……」


 俺はつぶやく。するとメアリー先輩が肩をすくめる。


「変なダンジョンなんていくらでもあるものだぜ。このくらいダンジョンとしての形をとってる以上普通普通だって」

「そうだね……木々の中に突然放り出されて森の中に出たときもあった」


 大槻先輩があたりを警戒しながら言う。


「ダンジョンなのに森でやがりますか……空はどうなってるんですかね」

「へへっ、雲一つない青空だったぜ。美しいだけに異様だったなああそこは。ここも美しさでは負けないけどな」

「えー無駄話もいいが、最初に出てくる敵というのが一番大事である所存でありまして……注意をおこたるなよ」

「はーい」


 鋼先輩の軽口に忍居先輩が注意をする。鋼先輩はやれやれと言いながらも警戒に戻った。


 しばらくカツカツとダンジョンを歩いていると、広い大広間に出る。


「! 敵がいますわ!」


 アリスが目を利かせ即座に敵を発見する。

 確かに、赤い人間と同じ大きさの人型機械が何体か鎮座されている。


「広いな……アンタレスも召喚できそうですが、やりますか?」

「んーいや、まだ温存しておいたほうがよさそうだ。こっちにはまだ余裕もあるんだぜ」

「一度普通に戦おう……それで敵の特徴を見計らうのがいいと思う」

「それじゃあ合理的に行くぞ」


 都武が突出し、前衛として敵に突貫する。

 それに続いて大槻先輩と鋼先輩とアリスが武器を構え、突っ込んでいった。


 敵は俺たちを確認すると、カメラがギラリと光りこちらを向く。


 そして、手についている銃をこちらにつきつけ、撃ってきた。


「迎撃する……!」


 都武は剣を振り、弾丸を弾き飛ばす。


「どんどん行きますわ!」

「さて行こう……大丈夫、僕らなら勝てるさ」

「へへっ油断しちゃだめだぜ」


 前衛の4人が刃物を取り出した敵の機械たちと、バチバチに刃を打ち合う。



「んじゃま、こちらも支援していくぜ!」


 メアリー先輩がガトリングガンを構え、前衛の合間を縫って弾丸をばらまいていく。


「さて、撃っていくでやがりますよ……!」

「弾丸代は気にせず撃っていく所存だ……!」


 板野が狙撃し、忍居先輩が巨大なハンドガンで前に出ながらガンガン撃つ。


「アンタレスなしでどこまで支援できるかねえ」


 そうして俺は後ろからドローンを飛ばし、刃を回してバチバチに打ち合っていく。


 戦闘が続く。

 機械ということもあって少し硬い所もあったが、俺たち8人で勝てない敵ではなかった。


 ***


「それでは、テンポよく行こう」

「んー次の大部屋はここなんだがどうでてくるかねえ」

「でかいロボットがいるね……手ごわそうだ」


 人間の二倍ほどの大きさを持ち、片手には巨大な腕、もう片手にはドリルをつけたロボットがそこにはいる。


「んじゃま、今度も行くぜ!」

「メアリー、お前が仕切ってんじゃねえぞっと!」


 鋼先輩が突撃し、相手の装甲にナイフを切り入れる。

 だが、その一撃はガキンとはじかれた。


「くっなかなかに硬いな!」


 ぐおおおんと機械の駆動音がする。


 するとロボットは口から炎を吐き出し、鋼先輩に襲い掛かった。


「何っ! へへっこのくらいなら切って見せる!」


 ナイフを振り、炎を切り裂く。


「あれ、魔法判定なんだな」

「機械も魔力を利用している……合理的だな」

「えーまさか、あんな代物が物理的なエンジンを使ってるのではないのでありまして……魔力的なエンジンがコアにあると考えられるな」


 なるほど。ああ見えてやはり魔物に近い代物なのか、あれは。


「だけど……ああも炎を放たれては近寄りにくい」

「なら、少し遠くから行きますわよ! シャドウインパクト!」


 アリスが鎌を振ると、黒い斬撃が刃から放たれる。

 それを食らったロボットは、少し怯み始める。


「魔法の方が効きがいいか……?」

「んじゃま、おれも使わせてもらうぜ! ブレーク! サンダー!」


 メアリー先輩の手から、雷の一撃が放たれる。


「遠距離を中心に、魔法で仕掛けていくぞ! ファイヤー切り!」


 都武が炎をまとった剣で切り付けていく。


 ぐおんぐおんと機械と駆動音がする。

 なかなかに強敵との闘いになりそうだった。


 ***


「でーそれからも何回か敵と遭遇したわけですが」


 しばらくして、一度休憩を取り腰を下ろす俺たち。


「……全体的に敵が固いな、ブレードが通りにくいぜ」

「機械系の敵が多いでやがりますね」

「そのせいか刃が通りにくいですわね」


 忍居先輩は腕を組み、眼鏡を光らせながら考えている。


「あの人間の二倍はありそうなロボットは少し厄介だと思う所存でありまして……できるならアンタレスを召喚して一気に片付けた方がよさそうだ」

「んーと井荻君、アンタレスはあと何回召喚できるか?」

「10回くらいは。魔力の問題ですからマナポーションをのめば回数は増やせますし、気にしなくても大丈夫ですよ」

「たっぷりアイテムはあるからね……まだまだ余裕はあるよ」

「あのロボットの姿が何回も見られるのは眼福だぜ、へへっ」


 鋼先輩が笑っていると、忍居先輩ががたっと立ち上がる。


「よし、これからは手早く進むために積極的に召喚していくという方針にしようと思う所存だ。皆はどう思うだろうか?」

「別にいいでやがりますけど……井荻君に負担がかかるでやがりますね」

「いいぜ、気にするな。俺的にはアンタレスを操縦しているときの方が気が楽だ」


 両拳を合わせ、勢いをつける。


「それならいいんでやがりますが……」

「へへっ、無理しない程度にやれよ」

「分かっていますよっと」


 しかし。一つ俺には頭に引っかかることがあった。

 このダンジョン。機械を中心とした敵が現れるというのはどこか、アンタレスとの共通性を感じさせてしまう。

 何か、この魔導鎧の出現騒ぎともこのダンジョンは関わっているのではないだろうか……少し、そう思うような気がしてきた。


「井荻君、どうしたんでやがりますか?」

「……ああ、少し考え事をな」

「考えることもありませんわ。ただ、突き進むのみ、ですわ」


 メアリーが勇気づけてくる。そうか。田近に考えている暇もないか。


「えーそれでは休みもそろそろおしまいにいたしまして、進んでいこうと思う所存であります」

「んじゃま、よし来た」

「テンポよくいきたいね……先は長いから」


 フフっと何か物知りげで大槻先輩は笑う。

 その笑いにも、俺は何か違和感を覚えたのであった。


 ***


 また、大広間に出る。

 ここには、何体ものロボットの群れと中心に灰色の大きな槍を手に携えたロボットがいる。


「えーこりゃ多いな」

「さて、一度召喚してみてもいいですかね!」


 俺は少しドキドキしながら皆に声をかける。


「へへっ待ってたぜ!」

「んじゃ、勢いよくやれ!」


 鋼先輩とメアリー先輩がワクワクしながら返した。


「よっしゃ! 来い! アンタレス!」


 端末を空に掲げると、魔法陣が放たれる。

 そして現れる魔導鎧、アンタレス。


「おおー! すげーぜこれは!」

「へへっかっこいいな!」


 すぐさま乗り込み、新しくチューンナップされた大剣を構える。


「行くぞ、梁瀬先輩が作ってくれた新たな大剣……その名も、大剣『皆断・朱日』!」


 赤く塗られた両刀の大剣を、俺は取り出す。


「はぁ!」


 突貫し、大剣を大きな灰色のロボットに向かって振る。


 すると、バターナイフのように敵は一刀両断された。


「すごいですわ、あれだけ硬かった敵を一瞬で……」

「ふっ、これがアンタレスの力だ!」


 俺は、高く空に大剣を掲げた。

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