第21話 ありがたい協力者

「こっちのピアスとこっちの腕輪、どっちがいいと思うでやがります?」

「うーんどっちも似合いそうだしなあ、ピアスって耳に穴開けるんか?」

「穴開けなくてもいいピアスもあるんですわ、ここにあるのはその形式のようですし」

「男もピアスをつけるというのは非合理的だろうか……」


 現代ダンジョン部内のアイテムショップで、装備を更新するべくアクセサリーを見繕っている俺たち。


「しかしこんなんつけるだけで防御やら攻撃やら上がるのは謎だよなあ」

「魔法の力、と考えればいい。これだけ小さくて済むのは合理的だ」

「便利でやがりますねえ魔法……」


 と、いろいろ見て回っていたところでからんころん、とドアが開いた音がする。


「おっと、彼らは……」

「おっ、井荻君たちのパーティじゃん。へへっ、先日はどうも」

「お久しぶり……装備を選んでいたのかな」


 店に入ってきたのは、先日俺たちにモンスタートレイン攻撃のいたずらを仕掛けた鋼先輩と大槻先輩で合った。


「聞いたよ……例の新ダンジョンに挑戦するんだって?」

「誰から……って錦織先輩か。あの人は余計なことを……」

「へへっ、情報屋から情報を買った必要経費だと思えってな。あの人金払えば結構口軽いんだぜ? 注意しな」

「わたくしたちも3年生の先輩達が挑戦しようとしている、って話聞きましたものね」

「んじゃ、そういうわけだ。ところで、ここで俺たちから一つ提案がある」


 鋼先輩が俺たちの事を指さす。


「そのお前たちのダンジョンチャレンジ……俺たちに協力させてくれないか?」

「協力って、先輩たちが……? 何の理があってそんなことを……」

「先日の迷惑料だよ……メアリーが「ここは俺たち先輩の威厳を見せるチャンスだ」ってね」

「願ってもない話だ。合理的に考えて受けない選択肢がない……本当にいいんですか?」

「いいってもんよこれくらい。それに、お前たちだけじゃ難易度の高いダンジョンを潜るのも大変だと思ってるだろ? そのくらい先輩が導いてあげないとな」

「なんという幸運ですわね……ぜひとも、と言わせてもらいますわ」

「へへっ。受けてくれてうれしいよ」


 先輩は両手を広げ、嬉しそうに笑う。


「それでさ、お前たち装備を選んでるんだろ? それについてもアドバイスをさせてもらってもいいんだぜ?」

「そこまでしてもらって……ええ、いろいろとアクセサリーがあって、どれをつけたらいいかわかりませんのですわ」

「それは……挑戦するダンジョンによってさまざまだね、炎の敵が出てくるダンジョンは炎耐性を、とか」

「じゃ、今度のダンジョンは格上のダンジョンだから徹底的に防御を固めるのがいいんじゃねえか?」

「なるほど、合理的だ」

「そうやって毎回付け替えるの大変でやがりますねえ」

「まあそういうもんだ。だが、一つ毎回付け替えなくてもいいものがあるぜ?」


 鋼先輩がポケットから何かを取り出す。

 それは、赤い色のしたマルチツールナイフの本体で合った。


「マルチツールナイフ……それは?」

「へへっ。俺の武器、「ハンドレット」だよ」


 ちゃきん、と刃を出し、研がれた刃先がギラリと光る。


「でも、強い武器を変えるようになったら更新するんじゃないでやがりますか?」

「そうでもない……だって、鋼のナイフは特別だから」

「へへっそうなのさ」


 そういって、刃の背をなでる鋼先輩。


「こいつはことが出来るナイフなんだよ。魔法の弾は切れば消滅するし、ビームを切ればそこで消滅する。これにかわる武器はない特別製だ」

「例えば……井荻君のアンタレスみたいなもんだよ」

「そういやあれも特別だな」

「特別! いいですわねその響き! わたくしも自分だけの武器がほしいですわ……」

「へへっ。信じてればいつか拾えるよ。買うってのも手だがな」


 こうして、先輩の教鞭を受けながら俺たちは買い物を続けていった。


 ***


「さてと……ここで戦闘面でもいっちょ面倒見てやろうかな」


 次に訪れたのは、本部の中にある運動場で合った。


「鋼先輩はさっきのナイフを使ってるとして……大槻先輩は何の武器を使っているんですか?」

「そうだね……斧だよ」

「おっ昔の俺と一緒だ」


 今は亡き俺の愛用していた斧を思う。あああいつは今どこへ。


「……そういや井荻君まだ新しい斧買ってなかったんでやがりますか」

「いやあドローンの操縦にも慣れてきてさあ、新しい斧を買っても持て余すだけかなあと」

「あーあまた井荻君のケチが出てる」

「ケチじゃねえ、合理的判断と言え」

「都武君の真似しても印象変わりませんでやがりますから」


 そんなくだらない話はともかく。


「それで……みんなは何の武器つかってるの」

「不肖、僕が剣。アリスさんが鎌。板野さんが狙撃銃だね」

「そして俺がドローンと……」

「へへっ、それじゃあ都武くんとアリスちゃんの面倒は見れそうだな」

「わたくしの鎌と大槻さんの斧は似ているところがありますが、都武さんの剣は誰が……?」


 アリスが疑問を投げかける。

 すると、鋼先輩が壁に立てかけてあった剣を手に取った。


「俺だ。このナイフを手に入れる前は剣を使ってたんだよ」

「それはありがたいですね、ぜひとも教鞭を振るっていただければ」

「俺のドローンは……教えようもないか」

「私の狙撃銃も教えるもんじゃないでやがりますからね、狙撃は自分との闘いみたいなもんでやがりますし」

「おっ板野いうねえ、プロっぽい」

「まだまだでやがりますよ」


 そういいながら、得意そうに胸の下で腕を組む板野。


「それじゃあ……二人にはちょっと色々教えよっか」

「クスクス、ぜひともよろしくお願いいたしますわ」


 二人は武器を取り出し始めた。


「さて……俺たちは見てもいいけど邪魔になりそうかな」

「じゃあ、私は狙撃場で練習したいでやがりますよ」

「そうだな、俺もシミュレーターに乗ってアンタレスの操縦練習でもするかね」


 邪魔なおれたちは、運動場から出ていった。


 ***


 板野の狙撃場までついていく途中、ヘッドホンをつけた先輩こと永居先輩が花に水をやっていた。


「……あら、お久しぶり、どこへ行くの……?」

「狙撃場でやがります。すこし練習したくって」

「……そう、それなら少し自分が面倒見れるかも。自分、狙撃銃型のレーザーガン使ってるから」

「えっ、そうだったんでやがりますか!?」

「……うん。自分、ちょっと暇だし、後輩に教えてあげようかしら」

「願ってもない話でやがります!」


 嬉しそうに先輩に抱き着く板野に、俺は肩をすくめる。


「おいおい、狙撃は自分との闘いじゃなかったのか」

「それでも人に教えてもらうことはあるんでやがりますー」

「……確かに、自分との闘いっていうのはあってる。でも、自分との向き合い方は教えてあげられることもある」

「ふーん、そんなもんかねえ」


 まあ餅は餅屋ってことで。狙撃の事は一切わからないし。


「……それじゃあ、一緒に行きましょうか」

「はーい! 出やがります!」


 そうやって二人狙撃場に向かっていく中、俺だけがぽつんと取り残された。


「……どうすっかねえ」


 ***


「汀良田せんぱーい、いますかー」


 その後おれが向かったのは、ロボット工学部であった。


「いるぞー、どうした井荻」

「いやあ、同じパーティの皆が先輩に色々教えてもらってるんですよ。でも俺だけ取り残されちゃって」

「確かに、お前の戦う武器は少し特殊だからな。なるほど、それでオレに?」

「ええ、何か教えてもらいたいんですが……どうでしょうか?」


 汀良田先輩は、即座に椅子から立ち上がり、手を握ってばしっとぶつけ始めた。


「……仕方ないな、頼まれちゃ断れない」

「マジっすか! ありがとうございます!」

「それじゃあ、シミュレーター室に行くぞ、ついてこい」

「はい!」


 そういって俺たちは一緒に本部のシミュレーター室へと向かうことになった。


「あ、ちょっと待って欲しいなの。井荻君、そろそろが出来そうなの」

「前作ってくれたチェーンの使い心地は良かったですからね……今回も期待してますよ」

「任せろなの! 今回は大剣の正当強化を行って……その名も!」

「はいはい名前付けはいいから」


 梁瀬先輩を管埜先輩が止める。


「一緒に練習、するんでしょ? 早くいってきなさい」

「……ああ、そうするぞ井荻」

「汀良田先輩うれしそーなの」

「うっせ」

「後輩に頼られて悪い気のする先輩はいないわ。よころんでいるんでしょう?」

「……行くぞ」

「はーい」


 俺は、先輩と一緒に練習できることをうれしく思いながら、ついていくのであった。

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