第19話 そして後始末
「さて……何とかなるにはなったが……」
場の中央にあるのは頭を取り外され腹に剣の突き刺さった人型のロボットの残骸。
その凄惨な姿に人は激戦の様子を想像するであろう。
「ふーん、こんなんと闘ってたのね、あたしゃ随分とすごいじゃない」
二井総先輩がバールでロボットの装甲をちょいちょい触る。かと思えば隙間にバールの先端を突っ込んで鎧をはがそうとし始めた。
「っと、ダメだこりゃ。よくこんなんはがせたねえこっちの赤い機体は」
「アンタレス、ですよこいつは」
今度こそ自らのロボットから降りる俺。ふとアンタレスの顔を見上げると、なんだか心強いようなそんな面持ちをしていた。
「しかし皆さん、ありがとうございました。今回先輩がいなきゃどうにもなりませんでしたよ」
「是が、役に立てたのならば……」
「ふーん、それならお礼は何かで返してよね」
「ぐっ、そういわれると……」
とてとて、と心配そうに板野がやってくる。
「っと、板野もお疲れ」
「なんでやがりますか私だけ取ってつけたように」
「すまんな、毎度巻き込んじまって。いつも感謝してもし足りないよ」
「……ふーん! それなら私にもたまにはお礼を下さいな」
そんな風に二井総先輩の真似をしながら、少しすねる板野。
「はいよっと、今度なんかおごって……お金を出すのはなあ……なんかで……」
「そういうのでずばっとおごってあげるって言えないからケチなんでやがりますよ井荻君は!」
そんな風に下らないはなしをしていると、上の方から足音が響いてくる。
「おーいお前たちー……おっと、もうオレの出番はないようだな」
その声は、汀良田先輩で合った。上の方からたっと飛び降りてくると、俺の方に近づいてきてなっと肩を叩く。
「よくやったみたいだな、井荻」
「いてっ、勢いつけすぎですよ。それに、今回も先輩の助けがありましたし」
「私はー?」
「板野にも助けてもらいましたし……」
不機嫌そうな板野をちらりと見ながら、俺は苦笑いをする。
「また異常事態が起きたっていうから駆けつけて来た。別れたほかの連中も無事だよ。どうやらこっちに集中したみたいだな」
「集中ねえ……どちらかというと、誰かを狙ってるような……」
「……ほう?」
「逃げてる最中、いったん分かれたとき方向転換までしてついて来たのはこっちの方だった。そして、いつも巻き込まれる俺と板野……」
「どちらかを狙ってる、とそういいたいのか?」
「ここまで重なれば誰もがそう思わざるを得ないでしょう」
そして、俺はあの時の言葉を思い出す――
綿鍋先生の、あの言葉を。
『思い出したまえ、この事件がどこから始まったかをね……』
「やっぱり、板野なのか?」
「……どうしてそういえる?」
「だって、全てあの日から始まったじゃないですか」
板野が現代ダンジョン部に導かれた、運命の日に――
「……じゃあ考えるべきはなぜ彼女が? だ」
「それがわからない。板野にそう言うゆえんは……なんか、心当たりはないか?」
不満げそうにそばで話を聞いていた、板野に話を振る。
「もちろん私も知らねーでやがりますよ。なぜかっていうならアンタレスを手に入れた井荻君の方が理由が通るじゃないでやがりますか」
「……そうなんだよなあ」
「それに、たとえこれからどんな異常事態が現れてどんな敵が現れようと――」
板野は近づいてくると、俺のおでこをピン、と叩く。
「井荻君が何とかしてくれるって信じてますから」
そう、にっこり笑いながら言った。
***
「んで、いつも思うんですけどこれどうやって片付けるんです?」
「専用のレッカー車を召喚してだな……そうだ、今回は手伝うか?」
「うっ……いや、手伝いましょう。先輩に任せてばっかじゃなくてたまにはそれくらいしないと。……アンタレスもいますし」
「そうだな、それなら今回レッカー車を召喚しなくても……」
「やっほー井荻くーんアンタレスの様子見てみたよー」
ついでにやってきた梁瀬先輩が声をかける。
「それでねー大体見た通りなんだけどさー」
アンタレスはキメラとカペラの連戦で少し装甲に傷がつき、ボロボロになりかけている。
「これ以上働かせるとちょっとヤバいからいったん戻して修理しないとまずいかなーって」
「……それじゃあ、アンタレスは使えないと。いつものレッカー車か……」
「じゃあ、俺はこれで……」
「まて井荻。……手伝うって言ったよな?」
汀良田先輩がにやりと笑う。サングラスによりどんな目をしているかは見えなかったが、それが一層その顔を怖く見せているのであった。
「……はい」
そういうことになった。
教訓。下手なことは言わない方がいい。
***
「さて、データは集まってきたかな?」
どこかで誰かが、見も知らぬ誰かが、そうつぶやく。
「はい……「座標」の特定が近づいてきましたわよ。あらあら、どうなってしまうのでしょう」
「ケヒヒ、早く暴れらんねえのか?」
「フフフフフフ……急いてはことを仕損じますわあ、キシャシャ」
「……」
その背後で4つの影が、何やら蠢いている。
「だが、ことは起きている。われらはこのダンジョンを刺激するだけでいい。そうすれば事は向こうからやってくる」
「あら……そうして、「魔神」を手に入れる、というわけよね」
「フフフフフフ、大体おかしいんですわあ。こんな広大なダンジョンで、こんな広大な現代ダンジョン部という空間で、大量の人間をどうにかするシステムが回ってるっていうのは……」
「だから、どこかにあるはずなんだよ。そのもとになる魔力が。「魔神」がね……」
ひときわ大きな影が、めりりとその大きさをさらに増し始める。
「ケヒヒ、それでいつなんだ。それでいつなんだ。我が暴れられるのは、この力を爆発させられるときは……!」
「すぐに来る。そう遠くはないさ……あとは、「石」と「祭壇」が出会えばいい。祭壇の場所は特定した。あとはそこに誘導するのみ……」
「フフフフフフ、そう、彼と彼女をね。キシャシャシャ」
「……」
その時。タン、タン、と足音が聞こえてくる。
「あなたたち、殊勝なことは止めておいた方がいいですわよ」
「その声は――はっ、魔術協会の差し金か」
「
「分かってて放置する? それ自体がおかしいんだ。こんなもの、存在すらしてはならない。それは君もここにいるからにはわかっているはずだろう……聖」
そう、そこに現れたのは聖紅華。
だが、彼女は続ける。
「あなたたちが何をたくらみ、「魔神」で何をしようとしているのかは知りませんが……それは、危険なものですわ。下手に扱っても……」
「使わないよ。管理するだけさ。……そのために我々はここに来た」
「管理できる代物ではありませんわよ。……大体、この空間が何のために存在しているかを考えればわかるでしょう?」
「こんな訳の分からない空間に突っ込んで見えないつもりにしておくのが管理というのか?」
「眠れる獅子はそっと眠らせておくだけ。それでいいのですわ……だから。このままが一番。
「だが、我々はそうではない……精々、邪魔するんだな。われらの事を」
「……説得しても聞く気がないのなら、好きになさい。……必ず、良い事にはならないでしょうけど」
「はは、君たちほど臆病ではないよ……こうやって計画を練って、少しずつ、ね」
そうして影は消えた。
「……全く、どうなる事なのでしょう」
聖は、そうつぶやいた。
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