第18話 無茶な作戦

 そして、巨大ロボットが舞い降りる。

 深紅の足、頑強な鎧。その姿に誰もが見惚れる――


「来たな……ちょっと先輩! 乗る分だけの時間稼ぎを!」

「もーまたあたしゃに無茶言うね」


 目の前にそびえるは黄色いロボ。

 背に羽のような鎧をまとい、顎に鋭い剣をまとい、鋭い爪が輝いている。




「っと、こっちはアンタレスに乗ったぞ! 相手の名前はCapella……カペラか!」


 カペラは顎を上げ、剣を突き立て、両手を広げながら突っ込んでくる。


「ちぃ!」


 その攻撃を大剣で防ぐ。が、バリアに防がれる。

「さて、できるだけはやってみようじゃん?」


「バリアでやがりますか!?」

「ふーん、それなら……」


 二井総先輩がバールを振る。衝撃波が黄色いロボの装甲を襲う――が、腕をクロスさせると同時に謎の障壁にはじかれた。


 一瞬、空から影が映る。


「適役がいるんだよね」

「それが、是なれば……」


 青い髪に、ポニーテール。

 小さな体の統月先輩が手にを持って現れる。



「ならば、是に任せられれば……」


 統月先輩が飛び上がり、相手に向かって上からを叩きつける――


 手に持っていたのは、かんなであった。


!? なんだそれ!!」

「それでは是の一撃を食らっていただきましょう……清・鉋一枚卸!」


 鉋で木をすりおろすように、バリアに向かってその手の武器を削り下ろす。


 そうしてバリアは――パリンと、割れた。


「割れちゃったでやがりますよ……」

「まあ、統月ちゃんの鉋はバリア特攻で……こうやって削り下ろせちゃうって事」

「すげえ……だがこれで攻撃が通るようになった!」


 剣を振りかぶり、カペラに向かって振り下ろす。

 だがその一撃は、顎の剣によって防がれる。

 そのすきに、両手の鋭い爪が突き立てられる――


「ミドル……ブレイズキック!」


 蹴りをぶち込み、いったん相手を吹き飛ばす。

 いったん距離を取り、体勢を立て直す。


「相手の使える手が多いと厄介だな……」


 いったん離れたと思ったら、また両手をしまいバリアを張り始める。


「それでは、また是が」

「協力させてもらうよっと」


 二井総先輩と統月先輩が突っ込んでいく。


「こっちも何もしないわけにもいかないんでな……牽制の一つくらいさせてもらうさ!」


 腕の砲塔を構え、相手に向かってぶちかます。

 無論バリアによってはじかれてしまったが。


「さてとバリアは貼ってるみたいだけどどこまで張ってるかね」


 高く飛び上がり、頭上からバールを振り下ろす二井総先輩。


 だが、そんな高くからの攻撃も見事に跳ね返されてしまった。


「ですが、この是に任せれば……」


 鉋を構える統月先輩。

 だが――そこにカペラの右手の爪の一撃が振り下ろされる。


「危ない!」


 俺は突っ込んでその爪を掴む。


「相手からバリアを抜けて来たのなら、攻撃は通るのか……?」

「申し訳ございません。ですが、もうその心配は是の一撃により……」


 鉋を振り下ろし、バリアがすりおろされる。


「ほんっとその鉋便利だな! 相手のギミックも形無しだわ!」

「これは……是の技術にございますれば……」

「すげえな統月先輩……先輩になれば俺もこんな技術が身につくのか……?」

「ごちゃごちゃ言ってねーでさっさと攻撃してくれでやがりますよ!」


 左爪が俺の頭上に振り下ろされる。

 そこを板野の狙撃が着弾。相手の体が一瞬後ろに傾く。


「サンキュー板野!」

「仕事なんだからさっさと片付けてくださいでやがりますよ!」

「ナイスだ! こっから先は……」


 掴んだ腕を引っ張る。


「俺の出番だ!」


 左足でフレイムキックを繰り出した。

 崩れるカペラの体。食らう蹴りの一撃。

 そこで俺は大剣を抜刀し、勢いよく振り下ろす。

 だが――


「ちぃ!」


 その一撃は顎の剣によってさえぎられる。


「やれるまでやるだけだ!」


 なんどもなんども大剣を叩きつける。

 しかしその一撃はなかなか通ることがない。

 倒れ伏していたカペラも腕の爪を伸ばし剣に手を伸ばさんとする――


「ならば――」


 高く飛び上がり、頭上で一回転をする。


「急降下! ブレイズキック!」


 そのすきに立ち上がり、またも顎で受け止めようとする。

 だが、その蹴りは頭に食らわせられ、地面にたたきつけられる。


 そこでカペラは、頭をてこにしてぐりり、と首を後ろに向けて折り、顎を地面にたたきつけて、ひっくり返るように高く飛び上がった。


「なんだよその動き! ちぃ!」


 俺は腕の砲塔を上に向け何度も連射する。

 だが空中で腕をクロスさせたカペラは、またもその頑丈なバリアを張った。


 そしてそのまま相手は――空から降りてこなかった。


「飛行技能だと!? くそっこれじゃあ……」

「是の攻撃も簡単には通りませんね……」

「ふーん、だったら……」


 二井総先輩はにやりと笑い、頭の上で腕を組む。


「何とか届く方法を考えるしかないね」

「……プランは?」

「井荻君、そのロボット飛べたりしない?」

「ちょっとくらいなら空中に留まれますけど……ノープランなんですかもしかして」

「大丈夫、ノープランなんかじゃない……これから考えるんだよ」

「やっぱノープランなんじゃないですか」


 そうこうしているうちに、相手は羽を広げ始める。

 そして、背の羽から何発ものビームを放ち始めた。


「ちぃ、悠長にしている暇はなさそうだな……」

「ふーん、策はあるのかね?」

「ある人てーあげてー」


 もちろん誰も手を挙げる人はいませんでした。


「くそっ頭脳役がいやしねえ……都武か聖さんでもいさえすれば……」

「汀良田先輩や神舞先輩でもなんか考えてくれたでやがりましょうが……」

「ちょっと待って先輩と比べられちゃちょっと困るかね……ほら統月ちゃんなんかないの」

「是としては……決まった作戦に従うだけです……」

「ふーんそれじゃああたしゃが考えるしかないじゃないかなちょっと」

「統月先輩を背に乗せてジャンプするしかないか……」

「ちょっと待って、先輩の意地を張らせて何か考えさせてほしいかな……うーん一応考えた!」

「……大丈夫なんですかね?」

「まあ、一応乗ってあげましょうでやがりますよ」

「それじゃあ……やってみようか!」


 ***


 とりあえず背に二井総先輩と統月先輩を乗せる。


「大体俺のプランと変わらないじゃないですか」

「ちょっと足したから変わってるともいえるじゃん?」

「是としては……どちらでもいいかと」

「皆さん、大丈夫でやがりましょうかねえ」


 板野があきれ顔で俺たちを見る。


「それじゃあ行くか……!」

 

 俺は高くジャンプする。


「そして、ブーストをかける……!」


 足のブースターから火をたき、少しでも飛行距離を高める。


「でも、そろそろ限界ですよ、先輩……!」

「それじゃあやってみるかな!」

「是としては、いつでも……!」


 浮遊最大地点まで到達したところで、二井総先輩がバールの上に統月先輩を乗せ、高くジャンプする。


「とう!」

 そしてバールをかち上げ、高く空に掲げる。


「それでは是が役に立たせてもらいます……!」


 そのまま高くジャンプした統月先輩が、カペラのすぐ下まで到達する――


「それでは再度……清・鉋一枚卸!」


 その一撃は、バリアの端の方にあたり、そしてパリンと盾が破れる音がした。


「ならば……そこだ! 新兵器! クロウチェーン!」


 アンタレスの左腕から鎖が飛び出す。それは即座にカペラの足元に巻き付く――


 ぐっと、アンタレスの重量が鎖にかかる。


「さてとこれだけじゃないぜ……巻き取れ! チェーン!」


 鎖が巻き取られ、そしてどんどんカペラの高度が下がってゆく。

 そして大剣を手にもつ。

 そこをカペラは顎の剣を突き出して今にも襲い掛からんとしてくる――


 グシャリ――

 攻撃を受けたのは、カペラの方だった。

 顎と首の間に大剣を突っ込み、そして、突き刺す。


「そしてそのまま……剣をはがしとる!」


 ぐりぐり、とかきの殻をあけるように力を入れる。

 てこの原理で、持ち上げるように、顎を引きはがすように――

 バリバリバリ。胴が折れ、頭が、顎が、胴体からはがされていく。

 ぺキリ、首が俺、頭が胴体から外れた。


「ぐぇ……」


 後ろから板野が嫌そうな声を出す。仕方があるまい。これも生命の定めなのだ。

 頭と胴体が離れた相手を、俺は高く大剣を掲げ、そして――

 グサリとさして、介錯をした。

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