第17話 降臨する魔導鎧
「やっと倒したでやがりますよー」
「えらい固くてでかい敵やったなあ」
皆が集まり、喜びを分かち合っている。
「これで終わりか……? なかなかの強敵だったな」
俺はコクピットから降り、この目でキメラの死体を確認する。
「これも、井荻くんのでかいロボットがいなかったら倒せませんでしたわね」
「せやなあギショウの奴には感謝せんと」
銀蛇が肩を叩き、はげましてくる。
「そんな、こいつを手に入れたこと自体たまたまだしなあ」
「それをうまく扱えること自体褒められるべきことだと思いますわよ?」
「いやあそれほどでも」
「あんま調子に乗りすぎるのもいけない出やがりますよ」
高等部をかいて自慢げになっていると、板野が呆れた顔をして横からわき腹を突っついてくる。地味に苦しい。
さて、ボスが微動だにしないことを確認し、ドローンを回収した後一度端末を掲げアンタレスをロボット工学部へと戻す。
「へーそれしまえるんか」
「召喚しっぱなしじゃ狭いところ通れないからな」
だが、ボスを倒した今となってはもう出番もないだろう。
しかしそこで、聖さんと都武は死体の前に集まり、何かを話し合っていることに気づいた。
「……やはり、おかしいと思いますわ。これ、大きすぎると思いませんか?」
「ああ、ここが複雑であるという情報がある以上、このダンジョンに入ったことのある先輩もいただろう。その時からこいつがいたとは、合理的に考えて……」
「先輩なら倒せるんじゃありませんの?」
後ろからアリスが近づき、話に割り込んでくる。
「それに、一度倒したんだったら同じ個体が出てくるわけがありませんわ」
「と、するとこれは昔とは違う、新しく生まれた魔物だと、そういうわけですわね」
「そうすると先輩の情報があてにならない、っていうのも考えられるのか……? だがしかし……」
と、その時分であった。
また、ぐらぐらとダンジョンが揺れ始める。
「!? 揺れはこのボスのせいではなかったのか!?」
「何か別の要因によって起こっている揺れだと、そうなのであれば……」
何かが起こっている。それは間違いなかった。
しかし俺たちはその時、咄嗟に動くことはできなかった――
揺れがまた次第に大きくなる。今度はこの部屋に入るときのものとは比較にならないほど大きな大きな――
「! 天井が崩れますわ!」
「ちぃ! またかよ!」
俺はさっきアンタレスをしまったことを後悔し始める。
「板野! 大丈夫か!」
「井荻君! 危ないでやがります!」
上から降ってきた瓦礫をよけながら、板野の元へ走り寄る。
轟音。砂煙があたりに漂い、周りが見えなくなる。
「無事か!?」
「私は無事でやがりますけど、ほかの人は……」
辺りを見回す。皆、なんとか避けきれているようだが……
「またダンジョンの崩落、あの日以来でやがりますね……」
「なにか、これらに関連性はあるのか……?」
と、その時であった。
どすん、どすん、と大きな足音が聞こえてくる。
「くそっ今度は何だ! さっきのがボスじゃなかったのかよ!」
それと同時に、ばらら、ばららと何かが崩れるような音も聞こえる。
心臓の鼓動を早めながら、何が来るか、何が来るかと緊張した面持ちでそれを待つ。
そして、壁が倒壊し、現れたのは――黄色い巨大ロボットであった。
「ちぃ! また俺の出番かよ! アンタレス!」
端末を空に掲げる。しかし、ビィーと警告音がし、ロボットは召喚されなかった。
「いったい何が……くっ、瓦礫のせいで閉所になっちまったのか!」
「じゃあ、どうするんやギショウ!」
「……合理的に考えて、逃げるしかない! 逃げるぞ! 皆!」
「応!」
この空間の唯一の出口に向けて、俺たちは走り始めた。
***
「くっ、なかなか広い場所が見つからねえな!」
行けども行けども狭い部屋、または瓦礫で埋まった閉所ばかりで全くアンタレスを召喚できそうな広い場所がない。
「しかしどこもかしこでもダンジョンが崩落してるんでやがりますが、本当にここの頑丈性は大丈夫なんでや牙りますか!?」
「本来こんなことはないって先輩は言っておりましたけれども……確かに本当かどうか疑いたくなりますわね! クスクス」
「笑ってる場合じゃないやろがい!」
そこで、次の部屋には三つの分かれ道がある。
「井荻! 一度別れよう! 手分けして広い部屋を探せるかもしれない! お前は左に行け!」
「分かった! 突っ走るぞ……!」
俺と板野は、二人で左の方の道へ進み、しばらく走り続ける。
と、そこで一瞬巨大ロボットの足音が止まった気がした。
かと思えばまたずん、ずんと鳴り響き、そしてこちら側へ近づいてくる。
「やっぱり方針転換しやがったか!?」
「やっぱりって!?」
「明確に俺たちの誰かを狙ってるってことだよ! やはりアンタレスの保持者である俺か!? それとも……」
俺は板野の方をちらりと見る。昔抱きかかえた方が速いほど心細い走りはそこにはなく、少し遅れてついてこれるだけの体を手に入れた彼女がそこにはいた。
だが、その表情はまだ不安げそうであった。
「……どっちでも変わらねえか!」
だって俺たちは。
一蓮托生であるのだから。
何としても。
彼女だけは守り通さなければならないのだから。
「板野! まだ走れるか!」
「! はい! もちろんでやがります!」
表情が一瞬晴れやかになる。
だがすぐに真剣な顔に戻り、少し速度を上げて走り始める。
「無理はするなよ!」
「まだ走れるかって言ったの井荻君じゃないですか!」
「速度を上げろとは言ってねえ!」
「何もしないわけにも……って話してても疲れるだけでやがりますから!」
こうして俺たちは走り続けた。
***
そうして、行き止まりにつく。
部屋の広さは十分だが中央に巨大な瓦礫がそびえアンタレスを召喚できそうにない。
「くそっ、誰か破壊できる人は……やはり別れたのは悪手だったか……?」
ずん、ずんと足音は近づいてくる。
上を見る。天板は抜けて上の階層は見えている。そこからなんとか――?
「おっと、発見」
声がする。
上から、バールを持った女の人が落ちて来る――
「あたしゃ参上」
黒い髪に黒い帽子、そして巨大なバール。二井総先輩で合った。
そして、それと同時に壁を破壊しながら、件の黄色いロボットが部屋に入ってくる。
「先輩! ちょっとここにある瓦礫壊してくれませんか!」
「ふーん。後輩ちょっと走ってきた先輩に無理させすぎじゃない? でも……」
ぴょんと高く飛び上がり、くるりと回転する。
「ダンジョンの壁は、ダンジョンの一部である限り、その加護を受けられる。だけど、瓦礫となった今はね――」
そして、バールを瓦礫に突き立てる。
「そのくらいは出来なきゃ先輩じゃないからね」
そして、ひびが大きく入り、広がっていき、あっという間に、粉みじんに化した――
「すごい……!」
「先輩……! これで! 行くぞ……!」
俺は部屋の中央まで走り腕を高く空に掲げる。
端末から魔法陣が放たれ、上に向かうにつれ大きくなっていく。
そして。
「来い! アンタレス!」
奴が、現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます