第16話 怪しい穴の先
端末で連絡を取り、あちらのパーティが合流するのを待つ。
「出口発見、おめでとうございますわ。しかし様子がおかしいと聞きましたが……」
「この梯子の下、耳を澄ませて聞いてくれ」
ぐおお、ぐおお、と唸るような声が響いてくる。
「なんや、ボスでもおるんやないかな。先に見つけたんなら行けばよかったやろうに」
「でも、不気味ですわね、こう定期的に揺れられるのは」
「そうだ。昨今の異常事態もある。だからこうやって念には念を入れたわけだ」
ごくり、と息をのむ音がする。
「……それで、誰から行きますの?」
アリスが、おずおずと話を切り出す。
「一度に一人しか行けないやろうからな……よっしゃ、ここは鉄壁の硬さをもつワシが……」
「いや、ここは俺に行かせてくれ」
そう切り出したのは井荻――すなわち俺であった。
「井荻、威勢がいいのはいいが、何か理由があるのか?」
「俺にはドローンがある。何か攻撃が来ても防げるだろう。それに……」
腕につけた端末をちらりと見る。
「切り札――アンタレスもあるからな」
「そうですわね、井荻さんのそれをうまく使うのが大事ですわ。それなら、誰かが先に出て情勢を切り開いて余裕が出てから……」
「そういう暇がないほど強力な敵が来る、というのも考えられる。……大丈夫だ。俺に一つ策がある」
「まあ、こういうのは誰が先に行っても怖いもんや。理由があるならそれでええやろ」
銀蛇は腕をくんで、譲るようなしぐさを見せる。
板野が不安そうに俺を見つめる。
「井荻君……無理はしないようにしてくださいでやがりますね……」
俺はにやりと笑い、グーの握りに親指を立てる。
「大丈夫だって。何もなく安全に下りられるっていうのも考えられるからさ」
「そうなるとよろしいのですが……」
こうして、俺は穴の前に立つ。
少しだけ、左の胸が跳ねる。しかし心臓を抑え緊張を沈めながら、勇気を出して一歩踏み出し、振り返り梯子に足をかけた。
***
唸り声のような音は次第に大きくなっていく。
「早めに保険は出した方がいいな……行け! ドローン!」
周りにドローンをまとわせ、何かがあっても対応できるようにする。
と、その時だった。
バシュ、っと音が聞こえる。
光が遠くからやってくるのが見える。
「光弾か……防ぐぞ!」
脳波で司令し、飛翔体を盾にする。
ジュ、との音とともに相手の先制攻撃は防がれかき消される。
「なんや! けったいやな!」
「やはり普通じゃないぞ……十分気をつけろ!」
「井荻君、次が来ますわよ!」
「何……なっ!」
今度は巨大な巨大な炎の弾であった。
(あれじゃドローンじゃ防げない……ならば!)
左手で梯子を強く握り、穴の奥の方を見る。
右手を握り、下の方に向けて掲げ、そしてこう宣言する。
「来い! アンタレス!」
魔法陣が放たれる。
それは波紋のように広がり巨大な大きさになり、そして――アイツが出てくる。
ズドン、と音が響く。
相手の巨大な炎弾は、アンタレスの巨大な質量によってかき消された。
そのままロボットは落下していく。
「行くぞ! 続けギンヘビ!」
「って無茶すんなあ! まあ、行くで!」
俺はアンタレスを追うように壁をけり、穴の奥へとびこんでいった。
***
俺が見たボスの姿とは、それはそれは恐ろしいものであった。
おそらく、キメラというのだろう。ライオンのたてがみに恐ろしい般若のような顔、胴体はヤギというのが伝承らしいがそれに10本の蛇の頭がついているのだから恐ろしい。
大きさはアンタレスと同じくらいかそれより上。それに横幅と奥行きがあるのだからたまらない。
「なるほどこいつがボスって奴なんか!」
「しかしヤバそうだな……異常なのかそうじゃないのかわからんが、とにかく倒すだけだ!」
落下するアンタレス。
その巨体はライオンの顔に突き刺さる。
ひるむキメラ。グオオオオオと唸り叫ぶ声が穴の中に響き渡る。
「さて、俺はアンタレスに乗ってくる! それまで頼むぜ!」
「無茶言うなあ井荻! だがやってやるで!」
アンタレスは少し吹き飛ばされた位置に倒れている。
「行くで……ファイヤー……ナッコォ!」
銀蛇の勢い良く振りかぶった熱く燃える拳が怯むライオンの顔に突き刺さる。
「わたくしもおりますわよ! シャドウインパクト!」
「此方も行きます、ソイルバレット」
アリスの鎌の一振りが、闇の衝撃波となって飛んでいく。
川森のクロスした手の甲からは土の塊が放たれていく。
「牽制ご苦労!」
装甲しているうちに、俺はアンタレスに飛び乗った。
「へへっちょっと衝撃でダメージを受けているみたいだが上手くやってくれよ……」
俺はロボットを起き上がらせ、ドローンを腰のあたりにしまい腕を構える。
そうこうしているうちに相手も立て直し、俺たちをにらみつけながら胴体についた蛇をうごめかせる。
すると、蛇の口ががばっと開いて何発もの光弾が放たれ始めた。
「くっ、これはなかなかに厄介な敵だな……」
「大変でもここまで来たからにはやらなければならないのですわ!」
「井荻君頑張ってください……私たちも頑張るでやがりますから!」
遅れて後衛たちも穴の奥にやってくる。
「役者はそろったようだな……なら始めようか!」
腕の砲塔を空に向かって掲げ、一発、二発撃つ。
弾は空中で放物線を描いて落下し相手の背中へと突き刺さった。
「グオオオオオ!!!」
蛇の付け根が爆発に巻き込まれ、弱りひしゃげていく。
「まずはあの蛇を倒すってことですわね!」
「こう何発も撃たれると近づけんからな……任せたで後衛の奴ら!」
前衛の皆は光弾をよけながら、何とか近づくべく合間を探っている。
アンタレスはある程度弾を受けながら、皆の壁となるべく近づいていく。
「やらせてもらいましょう……シャインアロー!」
聖さんが空に向かって手を掲げると、空へ魔法陣が放たれ空から光の雨あられが降り注ぐ。
「撃つでやがりますよ……!」
板野が蛇の頭に向けて狙いをつけ、撃ち落としていく。
「ゴアアア、ゴアアア……!」
蛇の頭の数もだいぶ減り、皆が動けるようになってきた。
その時、キメラは口を大きくあんぐりと上げ何かを放とうとしてくる。
「炎の弾か……? ならば!」
俺は大きく飛び、空中でくるりと一回転する。
「これならどうだ、ブレイズキック!」
アンタレスが、足から炎を吹き出しながら敵の方へ蹴りこんでいった。
キメラは頭を軽く上げ、炎の弾を口から打ち出す。
「くぅ、大丈夫なんかあれ!」
「少しでも弱めますわよ! アイスアロー!」
「くっ、フリーズソード!」
聖さんの氷の槍たちと、都武の氷をまとった剣が炎の弾に突き刺さる。
だが、一向にその勢力は弱まらなかった。
「だが……アンタレスはそんなものにも負けやしねえ!」
炎の勢いは次第に強まっていき、アンタレスそのものを飲み込んでいく。
そして炎の塊となり炎弾へと突っ込んでいく。
刹那、炎がぐるりと渦を巻く。
そして、炎弾を一閃し突き抜けたアンタレスが、キメラの口へと吸い寄せられるように――突撃した。
「ギュワアアアア!!!」
キメラが怯み、後ろへ吹き飛ばされる。
激高した相手は一瞬前足を上げると爪をとがらせながら勢いよく突進してくる。
「来るか……なら来い!」
俺はその巨体をアンタレスの全身で受け止めた。
「今よ! 行きますわよ!」
「おうよ! やったるで!」
相手が突出したところに、横から皆が攻撃を仕掛ける。
アリスは鎌を突き立て、銀蛇は強力な一撃を横腹にお見舞いする。
都武は剣で深く切り付け、聖さんは土の槍を地面から突き刺す。
そして板野は――
「そこっ!」
「ギャワッ!」
キメラが左腕を上げ爪を突き立てようとしたところを、正確に狙撃した。
「さて、やらせてもらおうか!」
怯んだところを蹴り飛ばし、背中から剣を取り出す。
「食らえ!」
剣を振り下ろし、相手の額を切り裂く。
「ギュオオオオ!!!」
まだ暴れようとするところを、俺は足に力を入れる。
「ミドル版……ブレイズキック!」
炎をまとったローキックを決め、キメラを吹き飛ばした。
壁にたたきつけられる音がする。
俺はすぐさまその倒れた後にかけより、剣を突き立てる――
「ギァオオオオ!!!」
その悲痛な叫びとともに――今回のボスモンスター、キメラは動かなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます