第15話 騒がしい情報屋
「あら、人がいるわね!」
通路の向こう側から、少し大きな声が聞こえてくる。
やってきたのは、二年生ら4人の女のパーティで合った。
「後ろにいるのは二井総先輩かな?」
「同じ料理部の統月先輩もいるでやがりますね」
黒い髪に黒いニットをかぶったのが二井総先輩。そして背の小さくて青色の髪をしているのが統月先輩らしい。
「ふーんどうも」
「是としては、この出会いに感謝すればいいかと」
「そうね! ありがたいわね!」
そして、一番前に出て非常に目立っているのが本格的なギリースーツをまとった銀髪の女の先輩で合った。
「こんにちわ! 私は
「へへえ」
「後輩としていい態度ね! 褒めてあげるわ!」
深く頭を下げると、なんか機嫌がよくなって褒められた。
「それにしても今日はよく人に会う日だなあ」
「なんか作為的なものを感じるでやがりますねえ」
「そうね、それはアタシが噂を流したからよ! 強くなりたくてうずうずしてる新入生たちにちょうどいいダンジョンがあるって!」
「そっかあ……まんまとはめられた感が」
「ふふふ……知りたい? 知りたいかしら?」
錦織先輩がにやにや笑いながら物欲しげに得意そうな顔をしている。
「めっちゃ知りたいです。僭越ながらこの後輩めに教えてくださいませんでしょうか」
「ふふふ……そこまで言われちゃしょうがないわね。このダンジョンはね、4人でやるとすっっっごく辛いのよ! だからほかにパーティがいればすごく楽になるって訳! どう? すごいでしょ?」
「いや普通に感心しましたねマジで」
「もっと褒めなさい! これが現代ダンジョン部一の情報屋の実力ってもんよ!」
「是としては……そんな方は一人しかいないかと……」
「うっさいわね! オンリーワンにしてナンバーワンなのよ!」
「情報屋がオンリーワンで成立するの?」
「……成立してるからナンバーワンなんじゃないでしょうか」
突っ込んでくるパーティの人たちに、先輩は怒っているふりをしながらも笑っていた。なんだか仲のよさそうなパーティだった。
「それでダンジョンの情報よ! 買わない?」
「実は不肖僕たち、さっきもう一人のパーティと出会いましてね」
「なになに? 交渉かしら」
「二つのパーティ分のデータがあるんですよ……買いません?」
「ほう、そう来たかしら……いいね、そういうの嫌いじゃないわ!」
錦織先輩は交渉をしようとした都武相手に楽しそうに身を乗り出してくる。
「そうね、ちょっと範囲を見せてくれるかしら……うーんアタシたちの1.5倍ってところね」
何やら後ろの人たちとひそひそ話をし始める。
「……そうね、無理に攻めない方がいいとこの私の占いに出てるわ」
「ふーん、じゃあその辺はお任せするから」
「是としては、そちらの方向でよろしいかと……」
「ふむふむ、よーしじゃあ決まったわ! それじゃこっちから追加で情報を教えてあげるわ! ここら辺のモンスターの効率のいい倒し方よ! これで半々って事にしましょう!」
「そうですね、合理的に考えてそれがいいと思います」
「それじゃあ教えてあげるわね、ここら辺には鬼系の敵が出てくるんだけど……」
そんな感じで有意義な情報交換をしたのであった。
***
「あんまり食い下がらなかったな、逆にこっちが金取れたんじゃねえか? まあ、こっちが金出さなきゃべつにいいけど」
「交渉する必要もそんなにないし時間ももったいないからだと思いますわ。無理に引き延ばす必要もありません」
「まあ、個人的にはどっちもあるが、普通に先輩からの情報を価値あるものととらえたのもあるな。人がものをどうみてるかというのはいい経験材料になる。特に先輩からのものはな」
「へーみんな色々かんがえてやったんでやがりますねえ」
板野は一人目を丸くしている。……こいつめ。
「まあ、よく考えなくても労せずして探索範囲が増えたっていうことでいいよ」
「さて、これをもとに探索を続けていくってことで……おっと、さっそく敵がやってきたぞ。先輩のアドバイスを活用するときだ」
***
いったん聖さんとのパーティと合流して、また話し合う。
「こちらはあまり成果を得られませんでしたわ。いくつか宝箱は見つけましたが」
「こっちは先輩のパーティと出会ってデータを共有してきたぞ。みるか?」
「ええ、と言いたいところですが何の見返りもなしにそうするというのもあまりエレガントではありませんわね」
「とりあえずこの場はいいだろう、不合理だ。貸し一ってことにしておこうか」
「あら、それなら後で返さねばなりませんね」
うふふ、と笑う聖さん。
「……俺ああいう交渉できる自信ないんだよなー」
「私だってもっと無理でやがりますよ」
そういいながら壁に背を任せると、壁の一部がぼろりと落ち、足元で大きな音がする。
「やべっ」
***
「大体探索し終わったってところだが、まだ見つからないか……」
「しかし、これだけ探索して出口が見つからないっていうのはおかしいと思いますわ」
アリスがそんなことを言い出す。都武も確かに、と頷いて考え始める。
「3パーティがしらみつぶしに探して、手掛かりなし。それはちょっとおかしいんじゃないか、ということですわね?」
「確率的に考えて、不合理である。そういうことか」
「ダンジョンってそういうもんやないの? それだけ複雑って事や」
「発想を変えてみればいいんじゃない出やがりますかね。どっかに出口が隠れてるとか」
その言葉に場がシーンとなった。
「……それかもなあ」
「探索全部やり直しってことですの? クスクス」
「笑い事じゃないやろー!」
その時、聖さんがパン、と手を叩く。
「落ち着きなさい、まだ予測の段階ですわ。慌てることではありません」
「しかし、合理的に考えて一考の余地はある。……しらみつぶしに探す、というのも手だが構造から出口にふさわしい場所があるかもしれない。考えてみよう」
また、皆でマッピングした地図を見合い、うんうんと唸りながら考え合う。
「この空間が怪しいと思うんだよな……」
先輩から共有してもらった地図の一点を指さす。
「ほう、どうしてた井荻」
「出口があるとしたら奥の方だ。ここは奥まった場所にあり、そしてこの場所だけほかの部屋と比べて狭い」
「ある程度分かりやすくはしているんじゃないか、という予想だな」
「そうですわね、そのようなポイントをいくつか探して手分けして捜索しましょう」
しばらく休憩を兼ねてポイントをピックアップし、また分かれて探索することになった。
***
いくつか、まだ探索してない場所に寄りつつ、ポイントへ行き壁を叩いたり地面を探っていったがまだ空振りだった。
「ここが井荻の指摘したポイントだな……」
「さて、何かあればいいんだが」
壁や床を探ってみても何もない。
と、その時だった。
「……? 今少し地面が揺れたような気がしましたわ」
「何か近くにあるのか……? やはりこのあたりの部屋を重点的に探るべきかもしれないな」
だが、今のところは出口の手掛かりにつながりそうなものは何もなかった。
「そうでやがりますねえ、この石をどかしてみたりしたら」
板野が少し意思を押してみる。……ちょっとだけごごご、と動いた気がした。
「まさか……」
「皆で押してみるぞ」
果たして、4人で石を押してみた先には確かに階段があった。
「こんなあっさり……」
「こんなのありですのね」
「ダンジョンだからな……こういう罠もあるってのは確かにそうだ」
「これが出口で間違いなさそうだな。……しかし、すこし不安だな」
「不安って何が?」
「このさっきの揺れの正体だよ」
また、ごごご、と揺れる。階段の奥の方からうなりのように声が聞こえた。
「……聖さんたちのパーティを呼んでこよう。念のため皆で行くのがいい」
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