第三章 同級生と大迷宮
第14話 おすすめのダンジョン
次の土曜日。ダンジョンに入る前、パーティの皆にもっと強くなるにはどうしたらいいか、という話をした。
「そりゃあ、もっと経験を積むしかないだろうな」
と眼鏡をかちりと上げて言う都武。
「経験? レベルではなくって?」
「レベルなら井荻が結構上がってるだろ」
互いの端末に表示されたレベルを見比べてみる。……確かに俺が少しだけ多い。
「そうか、アンタレスで魔物の群れを片っ端から倒してたから……」
「だが、レベルを上げただけでは先輩のようになれるわけではない」
「先輩、実際その動きを眼で見てみるとすごいでやがりますからね。躊躇しないというか無駄がないというか」
最初にアンタレスを拾ったとき、神舞先輩が助けてくれたことを思い出す。
あれのおかげで倒せたのであったが、それにしてもあの動きは鮮やかであった。
「そういうのに裏打ちされるのはやはり長い間戦ってきた経験というものだ。……俺たちも何度もダンジョンに潜って、1年2年かけて経験を積んでくしかないだろうな」
「一朝一夕で身につくものではありませんわね。素人のわたくしたちにはどうしようもない事ですわ」
「つまりやる事は変わらず、ダンジョンに行くってことだ」
「それで、今回はどんなダンジョンに行くんでやがりますか?」
「そんな経験を積んで強くなりたい俺たちにちょうどいいダンジョンがあるらしい、先輩に教えてもらった」
「そんな都合のいいものあるんでやがりますわねえ」
「先輩の言うことは聞いておくことですわね。それでは今日もまいりましょう」
***
と、いうわけで意気込んでダンジョンに入ったわけだが……
「迷った」
「迷いましたわ」
「迷いましたねえ」
「……なるほど、かなり複雑だな」
何と今回のダンジョン二階層に分かれていて、上と下を行ったり来たりするという、それはそれは難しいものであった。
一度上がってみたら行き止まりだったり、長い道があったと思ったらその先はすべて行き止まりだったり。そんなことだらけなのであった。
「端末に記録される地図は行ったことない場所じゃないとわからないからな……ここまで複雑だとなかなか突破できないだろう」
「一度じゃ回り切れんかもしれんなあ、一時撤退ってどうするんだっけ?」
「スタート地点に戻れば帰れますわ。そこに行くまでのリソースもありますしそうするなら早めに決断しなければなりませんわね」
「深入りしすぎて戻るリソースがなくなってクリスタル化と救助を待つのみ……ってのは嫌でやがりますよ……ちょっと、おすすめって聞いたのに先輩に騙されたんじゃないでやがりますか?」
「こういうのも含めて経験なんだろうな……いったん休憩しよう、考えても仕方がない」
そういうわけで一度地面に座ったり壁に寄りかかったりして、疲れをとる。
「あら、そこにいらっしゃるのは……」
その時、現れたのは聖さんら4人のパーティで合った。
「おっトタケにギショウやん」
「トタケって誰だよ」
「お前だぞ
「トタケ止めろや」
そういうくだらないちょっかいの掛け合いを銀蛇とする。
それはそれとして聖さんがにこやかに話しかけてくる。
「ちょうどよかった。少し協力いたしませんこと?」
***
「
われら4人パーティと聖さんらの4人パーティ合わせて8人が集まってその量はちょっとした壮観である。
「まず、知らないメンバーもいるし自己紹介をした方がいいんじゃないか?」
「あら、確かにそうですわ」
聖さんが頷く。
俺としては、聖さんと銀蛇については先日顔を合わせた記憶がある。
「ではあらためまして、
「ワシは
ここで、板野が耳打ちしてくる。
「……役割とか初めてきいたんでやがりますけど」
「そういやそういう話してなかったな、まあ大体武器に合わせて勝手に名乗ってるだけだから読んで字のごとくだよ。板野なら
「へー」
残り二人の自己紹介も終え、こちらも返事を返す。
「不肖、僕は
「わたくし、本名はともかくアリスと呼ばれておりますわ。役割は
「
「俺は
「剣っぽいし
「でもあれ空飛んでるぞ」
「まあ、その辺は実際に戦い方を見てみればいいと思いますわ」
そういうわけで互いに自己紹介を終え、本格的にダンジョンの話に入る。
「さて、このダンジョンかなり複雑だと思いませんこと? そこで人手が必要、そういうわけですわ」
「4人じゃ難しいダンジョンって事か」
「それで、2パーティで二手に分かれて情報を共有し合いませんこと? ということです」
聖さんの提案になるほど、とひざを打つ。
今までいくつかのダンジョンにしか言ったことがなかったが、こういう特殊な形のダンジョンも協力という手があったのだということに気づく。
「それに、最近異常事態だなんだってお話もあるでしょう? 1パーティだと危険なことも多いと思いませんこと?」
少し考え込みながら言う聖さん。
「それは……なるほどな」
「不肖僕たちの時は先輩が近くにいたから助かった。だが今度はそんな偶然はなかなかないだろう、ということだろうな。なるほど、合理的だ」
「1人より2人。4人より8人。つまり、それで自衛のために2パーティで、ということですわね。クスクス、なるほど、納得しましたわ」
アリスがすこし笑いながら言う。
「それで……どうかしら?」
聖さんの再度の提案に、俺たち4人は顔を合わせる。反対する理由もなかった。
「よし、決まりだな」
「決まりということでよろしいですわね」
都武と聖さんが握手をする。
そして、そういうことになった。
***
とりあえず今まで通ってきた道を端末同士で共有し合った。
「ちゃんとこういうことに対応してる便利な機能があるんだなあ」
「しかしこう見るととても広いな、片っ端から黒い部分を埋めていくしかないか……」
とりあえず2パーティとも探索していない部分まで行くために8人で行動する。
「おい、魔物が来たで!」
眼の大きな化け物の群れがやってくる。
「異常事態ほどの数じゃないな……」
「それでは聖さんらのパーティの力を見せてもらいますわ!」
都武とアリスが前に出る。
あちらからは銀蛇と川森さんが前衛のようだ。
目玉の化け物は目の中心から黒い球を打ち出してくる。アリスたちはそれを回避しながら、魔物に切り込んでいく。
「行くでー! アッパー!」
下から相手に向かって殴りつける。目玉がひしゃげるように殴られた敵は、上に向かって吹き飛ばされる。
「あっちは超接近戦だなあ」
「こっちは武器の分のリーチがあるでやがりますからねえ……ヒット」
そうこうしているうちに板野は狙撃銃で敵に狙いを撃ちしっかりと、着実に撃ち落としていく。
「俺も負けてらんねえな!」
刃のついたドローンを敵のど真ん中で回転させ、次々になぎ倒していく。
「こちらも行きますこと! ストーム!」
緑色の渦巻く竜巻が集団を回るように襲い掛かっていく。次々と竜巻に巻き込まれ、相手を吹き飛ばされていく。
そうしてあっという間に集団は殲滅された。
「たくさんいると効率も段違いですわね、クスクス」
「こういうとき、魔物を倒した時の分け前とかどうなるんかねえ」
「そういうのはクリアしてから考えるもんやろ……無粋やなあ」
「いえ、きちんと決めておくことが大事だと思いますこと。この場合は半々でいいでしょう」
「協力とはいえ、手分けして探すってだけだからな、ずっと一緒にいることもないだろう」
少し和やかな雰囲気をまといつつ、だが警戒は緩めずに、8人で進んでいく。
「っとそろそろ未探索地帯になりそうやな」
「それじゃあ、
「と、すると私たちは右の方でやがりますね」
「それではしばらくして連絡を取った後ここで落ち合う、ということで」
そういうわけで2パーティは再び別れ、ダンジョンアタックをそれぞれで進めることになったのだった。
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