閑話 ある料理部の一幕

「皆は、目玉焼きには何をかけるかしら?」


 そういいだした神舞先輩を、板野は何とも言えない眼で見た。


「聖さん、今度2パーティ合同でダンジョンに行かないでやがりませんか?」

「あら、いいですわね。みんなの中も深まりますし、よそのパーティの戦い方を見れるのはいい経験にもなるでしょう」

「そういうパーティ間の交流は行うのは是かと……」

「……板野さん? 目玉焼きはお嫌いかしら?」


 神舞先輩の顔は笑っていたが、どこか残念そうであった。

 そんな一方板野は少し苦々しい表情で、あまり乗り気ではない表情様子だ。


「そんな話は、議論が紛糾する割に得るものがないというか……」


 そんな中、端に座っていた無表情気味で青髪でポニテの少女、統月とうつきがすっと姿勢を正す。


「板野さん、是としては……そういう議論の過程を楽しんでいるのではないでしょうか」

「そうね、統月さん。話題にすること自体が目的だもの、誰が正しいとかはないわ」

「それならいいんですけれども……」


 それならしょうがないかと板野も覚悟を決め、すっと腕を組む。


「私はスタンダートに醤油ですよ」

「あたしは塩ね」

「是としては……ソースが良いかと思います」

「「「……」」」


 見事に目玉焼きかける派会議の派閥は嚙み合っていなかった。


「……聖さんは?」

「いえ、私はかけるとかそういうのではないんですが……バターで焼いておりますわ」

「バターで!?」

「あ、でも醤油はその上に掛けます」

「はいー醤油派一人追加でやがりますー」

「板野さん、是としては……たまに口調が悪くなられるのがきになったのですが」

わたくしのような同年代と話すときはいつもこんな感じですわ」

「へー少し以外ね」

「あっすいません、興奮した時の癖みたいなものでして」


 議論がヒートアップしかけたところで統月が待ったを入れる。


「それにしても本当にみな違うものなのねえ」

「どれが一番おいしいとかは……」

「是としては……不毛に思います」

「あら、料理部なのだから実際に作ってみるとかそういうのにしたらよいのではなくって?」

「「「……」」」


 そういうことになった。


 ***




「うーん形がうまくできないですねえ」

「是としては、こうするのがよろしいかと」

「バターのいい匂いがしてきたわね」

「たまに自分で朝作るので自信はありますわ」


 そうやって完成したものをそれぞれ机に出して、皆でじっと見合う。

 板野の作ったものは君が固く少し崩れていて、神舞先輩の作ったものはピンク色ですこし左に寄っている。

 聖の作ったものはオレンジ色でオムレツ状にきっちり綺麗な形が出来ていて、統月のは黄色で綺麗どころかまん丸であった。


「皆結構違うものですわねえ」

「それでは、それぞれ醤油・ソース・塩・バター醤油をかけてそれぞれ分け合って食べてみましょうか」


 わいわいと話しながら、それぞれの目玉焼きを食べていく。


「ソースも意外といけますねえ」

「バター醤油、香ばしい匂いがして是かと」

「塩も素朴な味がしてよろしいですわね」

「でもやっぱりスタンダートに醤油もありね」


 と、その時。ガチャリとドアが開く。


「こんにちはみなさーん。……何していらっしゃるのですか?」


 赤髪の三つ編みで胸の大きな眼鏡をかけた先輩が料理部に入ってくる。


「あら弘威さん、目玉焼きには何をかけるのがいいかという話をしてまして」

「なるほどなるほど……それで結論は?」

「是としては……貴賎なしということでよろしいかと……」


 こうして、結局目玉焼きにかけるものは万別なし、という結論に終わったのだった。


 ***


 そんな話を料理部でしたということを、朝一緒に投稿しているときに井荻に言う。


「ちなみに井荻君は何をかけるでやがりますか?」

「かけない」

「え?」

「醤油とかソースとか勿体ないから。そもそも何もかけんでもおいしいだろ」

「その発想はなかったでやがりますねえ」

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