間章 現代ダンジョン部とは
第11話 現代ダンジョン部探検隊
体育の時間、体力テストで校庭を何週かした後であった。それはなかなか成績が良かったのに加え、何だかあまり疲れていないような気がする。
「なんか体の調子が良くなってる気がするでやがりますねえ」
「ダンジョンでの体の強化は基本中のものだけなんだがな、実は現実の方にも少しは影響があるらしいぜ」
「へえ、すごい都合よく便利な代物でやがりますねえ」
「つまりダンジョンに潜れば潜るほどいいことがあるって訳だ、金ももらえるし」
「いいんでやがりますかね学生の身空でお金なんてもらっちゃって」
「でもだいぶダンジョン内で消費させる仕組みになってるから大丈夫なんじゃないかな……精々小遣い程度にしかならんし」
そんな折、どこからかおー、と歓声の声が聞こえる。
そちらの方を向くと、一人の女子が高跳びをしているところに人が集まっていた。
「結構高く飛んでるらしいでやがりますよ」
「へえ……」
「えっと誰が……あ、あれ
「知り合いか?」
「同じ料理部の子でやがりますよ」
色の白い金髪で長い髪をなびかせ、高貴な雰囲気を漂わせた少女が高飛びを飛ぶ。
それは確かに人が集まるほど見惚れる代物ではあった。
「うーん、なんだろう俺も見覚えが……なんか地下の方で見たことある気がするんだよな」
「そういえば、現代ダンジョン部の自分たち4人以外の1年生をしらなかったでやがりますね」
「確かに、ちょっと調べてみるか……」
***
都武はクラス委員の用事で、アリスからは家族との用事で今日は来れないとの連絡が入る。
「今日のダンジョンは誰か別の人と組むべきかそれとも休んで別の事をするべきか……」
「それなら、地下空間冒険をしようでやがりませんか?」
「冒険?」
「ここにきてしばらくたったでやがりますけど色々な施設がある割によくわかってない場所も多いじゃないでやがりますか」
「確かに、それもそうだ」
「それに、どんな部員がいるかの調査にもなりますし。別の一年生にも会えるかもしれないでやがりますよ?」
「それはあんまり期待できなそうだが……大体ダンジョン行ってるだろうし」
「んーそれに前、今度埋め合わせするって言ってましたでやがりますよね? ほら、ここに入部する前」
「あーそんなことも言ってたような……でもあれは休みの日にでもっ手話じゃなかったっけ?」
「それなら休みの日にも埋め合わせをしてもらいましょう。今日は今日でやがります、さあ行きましょう!」
そういって俺の腕を引っ張りながら走り出す板野の姿は、とても笑顔だった。
***
「まずは、地上とつながってるエレベーターのある現代ダンジョン部本部からでやがりますね」
「地味にここにもいろいろあるよなあ、会議室とか運動場とかサーバーあルームとか。司令室ってなんの司令をするんだよ。おっシミュレータールームがあるじゃん」
「何のシミュレーターが置いてあるんです?」
「車とか飛行機とか……戦車ってなんだよ。ロボットのシミュレーターもあるぞ、今度使わせてもらおう」
「やたら種類豊富でやがりますね……」
使われてなさそうな部屋や立ち入り禁止の部屋もあり、おおむねその前を通るだけにとどまった。
***
「さて、外に出たでやがりますよ」
「空を見上げれば青い空、白い雲。……本当に地下にあるんだろうな? って疑いたくなるぜ」
「そういって調子に乗って空を飛んだら照明にでもぶつかると思いますけどね」
本部の周りにはちょっとした花壇があり、白い髪の頭にヘッドホンをつけ首にマフラーを巻いた女の子がそれらにそっと水をやっていた。
ざっとその近くを歩くと、ワンテンポ遅れて彼女が振り返る。
「……あら、確か一年生の子かしら」
「ああ、どうも井荻といいます。こっちは板野で」
「……そう、自分は2年生の
「いえ、ヘッドホン付けて聞こえるんですね」
「これは補聴器みたいなものだから……」
「ところで、なんでマフラー付けてらっしゃるんです?」
「ちょっと肌寒くって……」
寒くないよな? と板野に顔を合わせると板野も微妙な表情をしながら頷く。
「自分寒がりだから……ダンジョンで戦うと、あったかくなるから、好き」
そういって花の水やりの続きを再開し始めた。
「花が好きなんでやがりますかねえ」
「いい趣味をしてらっしゃる。なかなかに外見の濃い先輩だったけど」
***
「ロボット工学部についたぞ」
「誰に言ってるんでやがりますか?」
トタンづくりのプレハブの中で、今日もツインテールでデコレーションの入った制服を着た梁瀬先輩が何やら機械を動かし鉄の板を加工している。
「あっ井荻君に板野ちゃんなのー」
「こんにちわー何を作ってらっしゃるんです?」
「これは人間の手の形状を再現しその特徴に酷似したハンドによる物体輸送を行うための実験機の本体部分を作っている最中なの!」
「???」
「骨の部分は3Dプリンターで今作ってる最中でワイヤー機構による手の開閉を行い……」
そういう解説がしばし続く。
……すごいなこの人、こう見えて意外と頭良かったんだ。
「っと、話が長くなってしまったなの。そういや、二人そろってるのは珍しいなの」
「ちょっと、現代ダンジョン部の全体見学と行きたいと思いまして」
「それはいい事なの! ついでだからロボット工学部の中身を見学させてあげるなの!」
梁瀬先輩は作業を一時止め、身なりを整えてからあっちこっちを見回し始める。
「あっちに穴をあけるボール盤があって、こっちに板を切断できるバンドソーがあるなの、こっちが旋盤でこっちが板金曲げ機で……」
「いろんな機械があるんでやがりますねえ」
「使うときには先輩に教えて欲しいなの。一回ちゃんと使い方を教えないと危険なの」
そういうところはきちんとしてるんだなあ、と見た目に似合い先輩らしい姿に関心する。
「ちょっとここに3Dプリンターで作ったものがあるなの!」
「これは……?」
「人間の足の膝の関節部分を再現したものなの。ここが脛骨でこっちが大腿骨でこの真ん中にある部分が膝蓋骨なの。この靱帯と筋肉を模擬したひもにより膝蓋骨は浮いていて……」
今度は人体の難しい話が始まる。すごいマルチな分野の才能を持っているんだなあと思わされた。
***
「いやあ、なんか学校の授業を受けている気分でやがりましたね……」
「すげえな梁瀬先輩……話は全く分からなかったけれども」
他人のやっている話はともかく、俺はアンタレスがちゃんと動くよう整備してくれればそれでいいのだが。
ロボット工学部の前をしばらく歩くと、山のようなものが見える。
「いやあれは山は山でも……ゴミ山だ」
何かの家電の残骸、折れ曲がった鉄の棒、割れた木の板、よくわからない機械、何かが入った袋など、よくわからないものが大量に盛られている。
その上に、何人かの先輩が立っていた。
「おーいなんかあったかー?」
「今のところはめぼしいものは見つからないねえ」
「ここらにはないんじゃないかあ?」
一人は女の先輩で、制服に黒いニーソを履き、長くストレートな黒髪に黒いニットをかぶっている。そして軽く髪をなびかせながら手にはバールでゴミひっぺかえしている。
もう一人は色黒で茶髪の少し太った先輩。
さらにもう一人は昨今のモンスタートレイン騒動を起こした一味の一人、忍居であった。
「おっとあれは……げっ」
「おーとしりあいかい忍居」
「ふーんやらかした時の子? ほら謝ってこないと」
三人は山の上から降りてくる。
「えー井荻に板野、だったかな? 先日は非常に申し訳なくおもう所存で……」
「いいですよその話はもう、先日謝罪はされましたし……私たちも一人で何とかできないほどふがいなかったですし」
「後輩が先輩の面倒を見るのは当り前だ。俺が助けに行けなかったことを悔やんでるくらいだ」
「そういう湿っぽい話はともかく、今は何をなさってるんです?」
「見ての通り、ゴミ漁りをしてる。……ああ、わたしゃ
「そりゃどうもよろしく」
軽く頭を下げて来たので、こちらも下げ返す。
「そんで俺はジョン澤野だ、よろしく頼むぜ」
「ジョンなんですか澤野先輩なんですかどっちなんですか……?」
「両方つけてよぶかいいぜい。それでここには、歴代の先輩が使ってきたもののゴミがあるというわけで……いろいろな未知なものがあるわけだぜ」
「その中でまだ使えるものもあるわけだ。椅子とかモニターとか、昔のゲームとか」
「電池入れたらまだ動いた時は驚いたねあたしゃ」
すげーな頑丈なゲーム。
「特に探してるのは……戦車ね」
「は?」
「昔の先輩がどうやら戦車を持ってきたという噂でな、それがここにあるという噂が」
「噂だらけじゃねーでやがりますか」
「でも綿鍋先生に聞いたところ戦車があったのは本当だっていうぜい」
「それならここにあるかもしれないというわけでありまして……」
「ああ、戦車のシミュレーターがあったのはそういう……まあ、ロボットがダンジョンにあるなら戦車もあるだろ」
そんなロマンを追い求める先輩たちはまたゴミ山漁りに戻っていった。
「ゴミを掘ってもゴミしか出てこないと思うんでやがりますがねえ」
「砂には砂金が混ざっているように、ゴミにも宝物が混ざっている訳でね」
「よくわからないものには、ロマンがあるとおもう所存でありまして……」
「そしてロマンを追い続けるのが人間って訳だぜい」
「私にはわからない感覚でやがりますねえ」
「しかし本当に色々あるな、現代ダンジョン部」
「鉄臭い物ばっか出やがりますけどね、今度はもっと明るいものを見ましょう!」
そんな彼らの探検は、次回に続く。
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