第9話 魔導鎧対魔導鎧

 しばしの間、アルデバランとアンタレスの二機はにらみ合っていた。

 剣と剣を構え合い、どちらが先に仕掛けるか。

 これは男とロボットとの勝負。誰にも邪魔できるようなものではなかった。


「さっさと始めてやがってくださいよ」


 板野の狙撃が相手の剣に突き刺さった。

 それによりアルデバランの体勢がわずかに崩れる。


「板野てめえお前……まあいいや突撃!」


 俺はだっと駆け出し、剣を振りかぶる。

 板野の狙撃によってワンテンポ遅れたものの、相手も何とかを立て直し攻撃に対して剣を身構える。

 一撃がぶつかる。


 その時、アルデバランの背負いものの四方八方についた砲塔が光り始める。


「井荻、何か来るぞ!」

「わかってる!」


 一度後ろに飛び退き、相手の出方を見る。


 閃光。砲塔から前面方向すべてにビームが放たれた。


「!?」

「きゃっ!」

「こっちまで狙ってくるか……!」

「大丈夫か皆!」

「何とか避けられたでやがりますが……」

「無理はするな、援護とかはいいからよけることに集中しろ!」


 続けざまにビームが放たれ、アンタレスもそれをよけ続ける。


「くそっ、近づけねえ……」


 アルデバランは黙ってビームを放ち続ける……


 かと思うと、ジューっという音と同時に動きが静止し、ビームの連打も放たれなくなった。


「とまった? いまだ!」


 強く踏み込み、アンタレスは剣を振り下ろす。

 それを見て、アルデバランも剣で止める。

 振りかぶる。勢いよく振る。剣で止める。

 その応酬が続いた後、アンタレスは突然だっと軽くはねた。


「ここで使わせてもらう、新技、ブレイズキック!」


 炎の飛び蹴りが炸裂する。そこを相手は剣で止めるが、俺はそれを支えにして剣を振り下ろした。


 轟音。アンタレスの剣の一撃がアルデバランの肩をへこませた。


 だが、また背負い物の砲塔が光り始める……


「くそっ、ここまでか!」


 一度後退し、相手のビームの連撃に備える。

 砲塔の眼光が光り、砲撃が放たれる。


「だが、しばらく使わせればまたチャージが始まって動きが止まるはずだ!」

「そこを叩けばいい、だがまどろっこしいぞ……っ!」


 一閃がアンタレスの体にあたろうとする。それを俺は腕についた盾でなんとか防ぐ。


「あぶねえな……結構きついぞ、これ!」

「ですが、打つ手もありませんわ!」

「井荻君、頑張って……!」


 だが、嵐もいつかはやむものである。

 ジュー、とビームが止まる音がし、俺は炎を伴った飛び蹴りを入れる。

 だが、その蹴りは剣を持っていない左腕によって止められる。


「あっちも対策してきたか! くそっ!」


 相手が剣で一撃を入れようとする前に、俺は左腕に向けて大剣を突き刺し、左側に押し出す。

 態勢をわずかに崩させ、剣による一撃を避ける。


「今!」


 板野の射撃が左の方の背負い物の砲塔に向かって放たれる。


「ならばですわ! クロウニールド!」


 アリスの魔法を放つと、下側の砲塔に向けて地面から生えた土のとげが突き刺さる。

 が、しかし砲塔はそれらの攻撃をガンとはじいた。

 だが、それらの攻撃はアルデバランを後ろに傾かせた。

 その瞬間に俺は左足で相手を蹴り飛ばし、拘束から脱する。


 一閃、チャージ中だったはずのビームが放たれる。


「くっ!?」


 だがそれは先ほどまでのまで太くはないものであった。


 撃ったところがジューと音がする。


「無理をしたようだな……それでわかった。あそこ、もしかして熱くなっているんじゃないか?」

「ならば……ヒートホロウ!」


 地面から炎の渦が放たれる。無理に撃った所の砲塔が焼け、熱くなる。


「そこ!」


 そこに板野の狙撃が放たれ焼けた砲塔がわずかにゆがむ。


「ナイス援護だ!」


 アンタレスの左足を高く上げ、炎を上げさせる。


「ショート版……ブレイズキック!」


 ガツン。果たし赤い鉄の棒はぐにゃりと曲がったのであった。


「一個つぶせたか……!」

「だが、キリがないぞ!」

「一つずつやっていくしかないだろうな……!」


 再び砲塔が光り始める。俺は回避の行動姿勢に入った――


 と、その時。

 一発の弾丸が、アルデバランに向かって放たれた。

 その衝撃は大きく後ろにおおきく転びビームの向きは上に向かう。


「今度は……間に合ったようだな」


 現れたのは、副腕の黒いロボット、魔導鎧、ツルバミ。

 そして、ロボット工学部の先輩、汀良田先輩の声であった。


「先輩!」

「苦戦しているようだな……だが、大丈夫だ」


 ずしり、ずしりと一歩一歩踏みしめながらツルバミが近づいてくる。


「状況は?」

「ビームを放ってくる相手で……撃った後は熱くなるみたいですが」

「ふむ、なるほどな」


 相手も立ち上がり、二機に向かって立ちふさがる。


「ビームも撃ち終わったらしい。行くぞ井荻」

「わかりました!」


 アンタレスが右、ツルバミが左の二方面からアルデバランに近づく。

 すると相手は、何も持ってない左腕で腰から小さな剣を取り出した。


 俺は剣を振り下ろす。小剣によって止められる。

 汀良田先輩は4本の副腕のうち上の二本で剣を持ち振り下ろす。

 だが、その一撃も剣で止められる。


「! なるほど……」

「何かわかりましたか!」

「ああ、ちょっとした勝機がな、けん制頼む」

「了解です!」


 俺は続けざまに剣を振る。

 ツルバミは一度後ろに退避し、下の両腕から銃を取り出して相手に向かって打つ。

 それを大剣の一点で受け止める。

 そこを続けざまに両手の剣を振り下ろす。


 ジューと音がする。ビームが放たれる音だ。


「井荻、飛び道具はあるか」

「はい!」

「合わせろ……バックウェッポン!」


 ツルバミの背中から巨大な砲塔が現れ、肩の上に乗る。


「いくぞ……シュート!」

「続く!」


 俺も腕の砲を合わせて狙いをつける。

 砲撃。相手は後ろに傾き、倒れた。


「狙い続けるぞ! 起こさせるな!」


 副腕の銃で倒れたアルデバランに追撃をかける。

 俺も続いて頭のバルカンと腕の砲塔で射撃をかけた。


 なんとか相手が立ち上がったところで、ビームの射撃はやむ。


「そろそろだな、本命を行くぞ……大剣「牙月かづき」!」


 背中の腰につけていた大剣を手に取り、4本の腕で高く掲げる。

 それをアルデバランは大剣と小剣の両方を重ね受け止めようとする。

 だが、そこで俺は気づいた。大剣に小さな傷がついていたのを――


(板野の狙撃の時の……)


 先ほどまでのツルバミの両手剣と銃による攻撃は、その傷を広げるものであったのだ。


「牙月、垂直切り!」


 ずしゃり、と汀良田先輩は大剣を振り下ろす。


 そして、バキン、と大剣が折れた。


「そこだ!」


 俺は下から剣を振るい、相手をを袈裟切りにした。


 そして――そのまま二人の一撃が、アルデバランをひしゃげさせた。


 ***


「さて、なんとかなったというわけか?」


 ツルバミのコクピットから汀良田先輩が下りてくる。


「先輩! ありがとうございました!」

「例には及ばないよ、これも井荻が攻撃を続けて傷をつけてくれたおかげだ。今回も巻き込んでしまってすまなかったな」

「いえ、またこんなことはあると思ってましたし。あの傷、最初は板野の射撃だったんですけどね……」

「そうか、なら――仲間にも感謝するといいな」


 たたた、と何かが走ってくる音がする。


「井荻君!」


 板野が俺に向かって抱き着いてきた。


「だー、板野まだ汗が」

「お疲れさまでしたわ、井荻さん」

「すごかったぜ、井荻。あそこまで巨大ロボットと渡り合うとは」


 続いて、アリスと都武も近づいてくる。


「お前らのおかげだよ、倒せたのは」

「俺は何もできなかったけどな、見てるだけだった」

「わたくしは活躍しましたが?」

「でも、一番星は板野だ」

「何言ってるんでやがりますか、メインは最前線で戦った井荻君でやがりますよ」


 都武やアリスと握手をする。

 大変な戦いであったが、確かに俺たちは勝利したのだった。


「! そうだ! 残ってくれた先輩は!?」


 ***


 魔物の群れの残骸の跡に、一個の巨大なクリスタルが地面に突き刺さっている。

 その中には、メアリー先輩が死んだような顔で入っていた。


「これは……?」

「死なないようにするセーフティだよ、このダンジョン内では死にそうなほどのダメージを受けたらこのようにクリスタル状になることになっている。この状態だと魔物からの攻撃は受けない」


 そばには、メアリー以外の二年生の三人が正座させられていた。


「えーこの度は誠に申し訳なくあります所存でありまして……」

「全く……弁明の仕様もない」

「へへっ、でも異常事態の方は俺たち関係な……」


 こつん、と3人は順番に汀良田先輩に頭を小突かれた。


「ダンジョン全体が異常事態なことは言っておいただろう。そんな中危険なことをするなんて……しかし、伝統はオレの代もやったからな、酌量の余地はある」

「へへっやられた方です」

「じゃあ、4人でメアリーの蘇生費用を払うってことでチャラな」

「「「はーい」」」


 クリスタルになったメアリー先輩はクレーンで持ち上げられていった。


「クリスタル化こわー」

「死にかける前に撤退するのが吉だということですわね」

「だが、死なないようにするという意味では合理的だ」


 先輩たちの姿を眺めながら、俺たちは互いに肩を組み、健闘をたたえ合った。

 だが、一人板野は少し考え事をしていた……


「……」

「どうした? 板野?」

「いえ、なんでもないでやがりますよ」


 その時は、原因が何かはわからなかった。

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