第8話 発生する異常事態

「メアリー先輩!」


 アリスはピンク色のロリータ服の先輩の姿を見ると、そう嬉しそうに叫んだ。


「知り合いか?」

「はい、同じロリータ同好会のメンバーですわ!」

「そんな同好会あるんでやがりますか」

「……男? 女?」

「男ですよ、女装ですわ」

「その同好会男入っていいんだ……」


 メアリー先輩とやらはガトリングガンを腕から下げると、魔物に向かって次々と撃ち始める。


「アリスちゃん、ほかの3人……ほんとごめん! あのニワトリ集団をモンスタートレインしてきたのはおれたちだ!」

「えっ! なんですかいきなり!」

「んえっと、ちょっとしたドッキリのつもりだったんだがなー……そこで疲弊させちゃって、追加で敵が現れた今回みたいに危険な事態を招いたのはおれたちのせいって訳だ」

「状況がよくわかりませんが、いまの鎧は……」

「そっちは関係ない。でも、ほかにも魔物が大量発生する事態が起きてるぜ。だからおれが助太刀に来たんだ……君たちを逃がすためにだ!」


 ***


 少し前。

 奥から大量の骨の魔物がやってくる。

 鋼はマルチツールナイフを振り回しそれを次々と切り裂いてゆき、大槻は斧で骨を叩き潰していく。

 忍居は手に持ったマグナム銃で頭を撃ち飛ばしていき、メアリーはその4人たちの合間を縫ってガトリング銃で援護していく。


「んだけどねえ、合間を縫うって言ったってこの狭いところじゃちょっときついかも」

「へへっ、どうしたメアリー。そこをうまくやるのがお前の腕の見せどころって訳だけどな」


 鋼は肩をすくめ、含み笑いをするとすぐさま敵を切り付けていく。


「んーとねえ……皆、一人くらいならここから抜け出しても大丈夫だと思う?」

「なんで……おじけづいた?」


 メアリーの言葉に、大槻ははあ、とため息をつくと斧を大きく掲げ骨に打ち下ろす。


「んっと、違う。新入生らを逃がさなきゃならない。あっちも危険な状態だからさ」

「へへっ、後輩の前でかっこつけてきたいってか?」

「やられるのが4人から1人になるだけと考えられるが?」


 忍居は眼鏡をかちりと直すと続けて何発も骨をつぶしていく。


「んでも、今回の事態を引き起こしたのはおれたちだ。……せめて誰かが責任を取らなきゃいけないと思うけどねー」

「……1人くらいなら大丈夫だ、行ってこい」

「んじゃま、行ってくるよ」

「頑張って……無理はしないでな」


 こうしてメアリーはガトリング銃を肩に担ぎ、向かおうとした。

 しかし、名残惜しそうにしながら少し後ろをちらりと見て、ようやく走り去っていった。


 ***


「んじゃ、というわけで逃げな少年たちはね!」

「……合理的な判断だ」

「そうだな……逃げよう、皆」


 都武は眼鏡をかちりと上げ、俺も頷く。


「ちょっと、井荻君なんでですか! 先輩を見捨てるだなんて! らしくないでやがりますよ!」

「俺らしいって何なんだ……素直に逃げるべきだ、迎撃するにしてもロボットが召喚できる場所にした方がいい!」

「三十六計逃げるに如かず……殿がいらっしゃるなら、そうしない理由はありませんわね」

「んじゃ、そういうわけだ。おれが良いって言ってるんだ。さっさとしな」

「でも……」

「メアリー先輩、申し訳ありませんわ……」

「行くぞ! 板野さん!」

「……すいません!」


 そして、俺たち四人は先輩を背にし、おめおめと逃げだし始めた。


 ***


「んーと、皆行ったか。……これは一回くらい死にかけてみないとダメなんじゃねえか?」


 そういって、メアリーはガトリング銃を構えなおす。


「ふっ、んじゃまここがおれの独壇場だ、暴れさせてもらうぜ!」


 打ち出される大量の弾に、鎧の装甲は貫通しバタバタと倒されていく。

 だが、倒しても倒しても敵は尽きなかった――


 ***


「先輩、大丈夫でやがりますよね!? 死んだりとか……」

「大丈夫だ、この腕輪の端末の合理的なセーフティシステムがある。死にはしないはずだ」

「死にかけはするだろうがな……」

「メアリー先輩……あんな無茶する人じゃありせんでしたのに。どうか無事でいて……」


 4人は全速力で廊下を駆け、逃げ場所を探す。


「端末のマップによればこの辺りに広い場所があるはずだぜ!」

「そこなら井荻のロボットが召喚できる、合理的だ」

「もうすぐ出ますわよ!」


 果たして、求めていたロボットが召喚できるだけの空間に出る。

 だが、そこには二足歩行をする牛――ミノタウルスの集団が何体もたむろしていた。


「敵か! だがここなら……こい! アンタレス!」


 俺は右手の端末を掲げる。

 即座、腕から魔法陣が展開され、空へ飛んでいく。


 魔法陣の大きさはロボット大の大きさになり、赤く光り始める。

 そして、現れる。ゴゴゴ、ゴゴゴと足の方からゆっくりと、アンタレスが舞い降りて来た。

 ドン、と地面に着地する。すぐさまドローンをしまい(ロボットを操縦しながらドローンを操るのはまだできない)、コクピットに飛び乗ると、すっとアンタレスを立ち上がらせ剣を構えた。


「すげえ、話には聞いていたがでかいな……」

「これなら、どんな敵がいてもやれますわ!」

「井荻君、頑張ってください!」

「ああ! だが都武! アリス! 板野! 俺一人じゃ倒し漏らしがでるかもしれねえ! 援護を頼む!」


「「「了解!」」」


 俺は高く飛び上がると、ぐっと足に力を籠める。


「調査して新しい武器の存在が分かったんだ……使わせてもらうぜ!」


 アンタレスの足のブースターから炎が噴射される。

 その炎は体全体にまとわり、アンタレス自体が炎の塊のようになっていた。


「行くぞ、ブレイズキック!」


 空中でくるりと一回転し、ミノタウルスの群れへと飛び蹴りを行う。

 魔物たちは衝撃で吹き飛ばされながら、同時に炎で焼かれていく。


「さて暴れさせてもらおうか!」


 大剣を手に取り、炎を切り裂いて抜刀する。


「さて、援護させてもらうでやがりますよ!」


 その時横から攻撃しようとしたミノタウルスを、板野は狙撃する。

 魔物たちは激高し、手のこん棒をふりまわし、口から炎をはき無謀にもアンタレスに立ち向かってくる。


「わたくしもやらせてもらいますわ! ライトシュート!」


 アリスの手から光の弾が放たれ、ミノタウルスの中心で発光し目を暗ます。


「援護結構! 食らえ!」


 敵たちがひるんだところを俺は大剣を振り下ろし、魔物たちをつぶしていく。


「井荻! 新手だ!」

「何っ!」


 横道から二足歩行をする緑の豚の怪物――オークと呼ばれる魔物の集団がやってくる。


「別口の異常ってのはやっぱり起こってたみたいだな……食らえ!」


 腕の砲塔を構え、オークたちに一発弾丸をお見舞いする。

爆発。オークたちが四散していく。


「二つの集団をまとめた方がよろしいかしら?」

「なるほど、合理的だ」


 都武が飛び出し、オークに剣を一撃入れた後、ミノタウルスの方へ向かうよう誘導する。


「手間が省けたぜ!」


 剣を大きく振りかぶり、薙ぎ払うように横に振る。

 オークのでかい腹に直撃し、壁にぶつかるよう飛んでいく。


「なるほどすごいな……さすが巨大ロボット、この量の魔物でも圧倒的じゃないか」

「そんなことはない、お前らの援護あってこそだ」

「そこ!」


 斧を持ったオークがアンタレスの足に振り下ろそうとしたところを、また板野が狙撃する。


「俺なんてもう、助けてもらってばかりさ」


 そうこうしているうちに、ミノタウルスとオークの集団は殲滅されていった。



 その時、ドン、と大きな足音が聞こえる。


「なんだ……デカブツか?」


 ドン、ドンと道の奥の方からゆっくりと、一台のロボットが現れる。

 それはオレンジ色の巨大ロボットであった。砲塔をいくつか携えた半円の背負い物をし、腕には巨大な剣を持っている。

 モニターに、文字が表示される。


「なるほど、本命登場って訳だな……奴の名前は……Aldebaran、アルデバランか!」

「大量の魔物の後に現れる巨大ロボット、何か関係があるのでしょうかしら?」

「それはわからんが、無関係と考えると非合理的だ。何かしら関連性はあるのだろうが……それを考えるのは俺たちではないな」


 のそり、のそり、と歩き一度止まったかと思うと、手元の剣をかちゃり、と構えた。


「相手は戦闘をお好みのようだぜ……ならば、やらせてもらう!」


 アンタレスも大剣を肩に担ぎ、ぐっと持ち上げ構えた。

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