第7話 先輩たちのいたずら

 ダンジョン入り口の前で、4人は突入の準備をしていた。


「食料よし、ポーションよし、腕輪端末よし……」

「ポーションっていったい何でやがりましょうね? これで魔力っていうよくわからないものが回復するのはともかく疲労まで回復するんでやがりますから。ヤバイ奴じゃないでやがりますか?」

「魔法の力だろうな。進むための体力を魔力で回復させる。合理的だ」


 都武の青みがかった髪の色、きっちり整えられた制服に黒い眼鏡は真面目な性格をのぞかせる。

 しかし、その方に乗せているのは調和に会わない西洋風の剣だというから驚きだ。


「都武は魔法なら何でも合理的って言えばいいって思ってないか?」

「魔力って形で何でもかんでも片付けすぎなんじゃないでやがりますかねえ」


 板野は青いブレザーの少し崩れたリボンを治し、金髪の頭につけたかわいらしい赤いリボンを整え、スカートのほこりを払ってから狙撃銃を手に持つ。


「スカートで戦って大丈夫なのか?」

「なんでも、魔法の力で戦闘の邪魔をしないようになっているみたいですわ。そもそも、そんなものがなければゴスロリで戦えないでしょう?」


 アリスのまっすぐな黒髪に合わせた黒と赤のゴスロリに、巨大な柄のついた鎌の組み合わせはどこかあっている気がする。

 鎌の柄の中央の辺りにはハンドルがついており、そこで持ちやすいようになっているそうだ。


「それもそうだ。魔法ってすごいな。一番すごいのはダンジョンとこの地下空間そのものだけれども」


 少し汚れた黒い学生服をまとった俺。茶髪の髪の頭にドローン脳波操縦装置をつけ、目じりの鋭い目つきを光らせる。


「さて、行こうか」

「了解」

「了解ですわ」

「了解でやがりますよ」


 こうして俺たちは、今日もダンジョンに足を踏み入れる。


 ***


 二年生が四人。ダンジョンに潜る1年生ら4人を物陰に隠れながら追跡し、ついでに何かを話し合っている。


「それでは諸君……しばらくダンジョンに潜り慣れてきてちょっと気が抜けてる新入生に一喝を入れるために……新入生にダンジョンの危険性を教えよう作戦を開始する!」


 そう、四角い額縁眼鏡をかけ頭の跳ねた男、忍居おしいが宣言する。


「えー決してこれは栄光ある先輩から後輩への伝統でありまして女二人をパーティに入れてる奴らに嫉妬してるとかそういうわけではないのでありまして……」

「僕ら……男4人だからね」


 髪で片目を隠した男、大槻おおつきが表情を変えずに言う。


「へへっ、んなこと気にしたことなかったけどな」


 白髪で少し顔のキリっとした男、はがねが肩をすくめる。


「それに……彼、でかいおもちゃを手に入れたって」

「かー巨大ロボを手に入れてついでに女の子にモテモテウハウハハーレムって訳でござんすかっとそういうのではないのではありまして……」


 そこで、ざっと後ろからゆっくり歩いて現れる男が一人。


「確かに俺は女とも話したことない非モテ集団だけどさー」

「本当のことを言うんじゃないよ、へへっ」

「んだけどさ、今回はおれたち先輩が後輩にかけるちょっとしたドッキリがメインってことなわけだぜ?」


 そこにいたのは、ピンク色の後ろで結んだ三角巾と、ピンクと白のロリータ服を着た――その名もメアリー、というであった。


 そこで、忍居がメアリーを指さす。


「そうだメアリー! これはいたずらだ!」


 そういって深く腕組みをする。


「だが一応ちゃんとした大義名分もあるということを重々承知していただきたいのでありまして……」


 メアリーは、はいはいと頷いて皆を集める。


「んじゃま、作戦を説明するぜーまずはどっかからモンスタートレインしてきて新入生にぶつけるぜ」

「へへっまずは1ビックリさせて、慌てて集団に対処するってことだな」

「んで、そこで後ろから布で体を隠した俺たちが襲撃。慌てふためいた所でネタバラシ、というわけだ」


 鋼とメアリーがいたずらっ子のようににやにや笑いながら会議をする。


「残心は大事……窮地を脱してもまだ油断しちゃダメ」

「えーしかし少し危険な部分はありますのでありましてきちんと先輩が監視していざというときは助けに入れるようにしなければならないわけでありまして……」

「へへっ、驚く顔が楽しみだな」


 そこで、忍居が眼鏡を輝かせ、皆を集める。


「えーそれでは皆集まってくれ」


 ざわざわ騒ぎながら、皆で円陣を組む。


「へへっそれじゃあいたずら大作戦、やるぞー!」

「「「おー!」」」

「んじゃまー作戦開始ー!」


 4人は四方八方に散り一瞬にして姿を消した。


 ***


 そこそこ広いがロボットが召喚できるほど高い天井ではない一室で俺たちは戦闘を繰り広げていた。

 剣を持った骨の魔物と、都武が剣を撃ちあっている。


「そこ!」


 ドローンを飛ばし、骨に向かって弾を飛ばす。

 3発のうち、1発だけ命中。


「まあいい方か……」

「牽制ご苦労!」


 一発当てて体制が崩れたところを、アリスが一撃入れる。


「それでは行かせていただきますでやがりますよ……」


 軽く浮いたところを板野の狙撃が炸裂。魔物は動かなくなった。


「ナイス! ……板野って銃を撃つ才能でもあったんじゃないか?」

「一生気づきたくなかった才能でやがりますね」

「平和に活用できてるんだからいいじゃん……」


 なかなかにテンポよく、魔物を倒せた戦いであった。


「……4人そろって、なかなかバランスよく合理的なパーティになったんじゃないか?」

「前衛2人、中衛1人、後衛1人ってところですわね」

「俺もその気になれば前衛ができるが……」


 ドローンの刃から柄を出して振る。


「わたくしも少し魔法が使えますから中衛が出来ますわね」

「そういう役割分担も含め、合理的というわけだ。このバランスの良さも後衛が入ってくれたおかげだな」


 都武が皆を見回し、うんうんと頷く。

 すると、板野が得意そうに胸の下で腕を組む。


「あっどうもでやがります。感謝してください」

「割とマジでありがとうな、板野」

「あう……」


 咄嗟の口撃に思わぬダメージを受けた板野であった。



 と、その時だった。


「……? なにか聞こえないか井荻」

「何も――いや、聞こえるな。足音か……また魔物の大群か!?」


 はっと後ろを振り向くと、ほそい道を通って頭に毒々しい色のとかさをもったニワトリの魔物が現れた。


 前衛の二人が後衛の後ろに駆けだし、迎撃態勢を取る。


「一匹一匹が小さいな……当てられるか、板野?」

「無論できますよ。井荻君の方が出来ますか?」

「うーん自信ねえわ」

「来るぞ! 井荻!」


 飛び跳ねながら襲い掛かる魔物に、都武とアリスは剣と鎌を振り回してそれを打ち落とす。


「弾は打てる気はしないが……」


 背後から何かないか気を付けながら、ドローンから刃を出し、くるくると回しながらニワトリの群れに突っ込み切り付ける。

 板野が射撃する回数はそれほど多くないが、撃った時はどれも確実に魔物を仕留めている。


「これなら……」


 ***


 隠れた場所で、彼らの様子を見ている男たちがいる。


「へへっ新入生にしては意外と余裕ありげって訳なのか?」

「そうだね……なかなかに対応力がある」

「だけどここで後ろからの気配にはなかなか気づけないと思うぜ?」

「だが諸君まだここは仕掛けるべき時ではない、もう少し様子を見てだな……」


 そうこうして悪だくみをしている彼ら。

 と、その時。


「ねえ……後ろ何か聞こえない?」

「俺たちがトレインしてきた奴らじゃなくてか?」


 4人は振り向く。

 その時まさに、通路から巨大なクモの魔物の大群が襲い掛かってきたのであった。


「……諸君ちょっとまずいかもしれんぞ、結構音がでかい。しかもここから挟み撃ちにされたら我々も……」

「そんなこと言ってる場合じゃないぜ……おれたちの戦力じゃ足りないかもしれないけど迎撃が必要かも」

「あの時……あっさりトレインする魔物が見つかったと思ったらまさか」

「状況を鑑みるに先生の言っていたダンジョンの異常事態に関連する可能性が高いわけでありまして……」

「んーそういうことは先に言えよなって」


 4人は武器を構え迎撃を開始した。


 ***


「ちょっと……何か魔物たちの勢いが強くなってきてないでやがりますか?」

「すこし自暴自棄になっている、非合理的だな……」

「まるで、何かに追い立てられているかのようですわね」

「ここから合理的に導き出される結論は……」

「まさか、別の魔物集団が?」


 その予想の通りで合った――その時、轟音がする。

 ニワトリを踏みつぶされる。魔物たちの後ろからのそり、のそりとひとりでに動く鎧の魔物が現れた。

 すぐさま、アリスにも剣を振り回し襲い掛かってくる。それを鎌で受け止めたが、音は鈍かった。


「これは……きちいですわね」

「かなり強そうだ。しかもこの相手の量では……」

「ごちゃごちゃ言ってても仕方ないでやがります、戦いますよ!」


 パーティと鎧の集団に圧殺されたニワトリを他所に二つの軍団の衝突が始まる。

 だが――状況は芳しくなかった。


「はあ、はあ……」

(ニワトリとの戦いで疲弊した後の戦いだ。これ以上戦いを続けるのは合理的では……)


 剣を振りながら考え始める都武。


 と、その時だった。


「大丈夫かー! 後輩たち! やられてないか!」


 現れたのは、ガトリング銃を手に持ち、ピンク色のロリータ服を着た、であった。


「んじゃま、後輩たちの助太刀を始めるぜ!」

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