第5話 新入部員

 地下空間の表通りから少し外れたところに、ロボット工学部の部室はあった。

 部室、と言ってもプレハブのようなものだ。トタンで壁と屋根が作られたどちらかというと倉庫か工場に近い。


「やぁやぁ、歓迎するなの! ここがロボット工学部なの!」


 部室の中央でオレンジ色のツインテールをしたテンションの高い先輩がぴょんぴょん飛び跳ねていた。


「都武とアリスは?」

「あっちも救出済みだよ、こっちに来ることは言ってある」

「ちょっとちょっとー歓迎してるんだから聞いて欲しいの!」


 ツインテールの先輩そっちのけで汀良田先輩に話していたら、あちらの方から声をかけて来た。


「先輩はねー、梁瀬やなせ はなっていうの! 花ちゃんって呼んでもらってもいいよ」

「はぁ……」


 なぜかついてきた板野がテンション高い梁瀬先輩に絡まれて困惑している。


「あら、新入部員希望者かしら?」


 上の方から声が聞こえる。

 この部室には一階より少し小さな二階があり、小さな階段でつながっている。

 二回から降りて来たのは黒いショートカットの美人な先輩だった。


「ワタシは、管埜すがの みつる。よろしくね♡」

「ちなみに管埜男だぞ」

「デジマ?」


 俺はめっちゃ驚く。驚いた。


「マジよーちょっと女子の制服を着ているだけだから気にしないでもらっていいわ。もともと似合ってる顔立ちだし」


 ポーズをとる管埜先輩。男には見えない。


「……なんか濃いメンツですね」

「だろ? それでオレが汀良田てらだ 幸一郎こういちろうって訳だ。よろしくな。……今回の件、井荻に手を煩わせてすまなかった」

「いえ、なんというか偶然みたいなもんですし。ちょっと楽しかったですし」


 白い髪でオールバックの、サングラスをかけた少し怖い先輩。それが汀良田先輩だ。


「ああそうだ、なんかロボット工学部に入ることになりそうな井荻 将介です。よろしくお願いします」

「えっと、井荻君の付き添いで着ました板野 真希です」


 その言葉を聞いて、管埜先輩が興味深そうに近づくと、小指を出すジェスチャーをする。

 板野は顔を真っ赤にして首を振った。……何をしてんだ。


「それで、来てもらったわけだが……ちょっと奥を見てもらっていいか」


 汀良田先輩に案内され、奥に進む。


 そこには、黒い一台のロボットが座っていた。


「これは……汀良田先輩の」

「そうだ。オレの魔導鎧、「ツルバミ」だ」


 汀良田先輩は駆けだして、ツルバミに乗り込むと、即座にそれの足を持ち上げる。

 腕が開く。二本ではなく、六本。

 副腕のそれぞれで小さな刃を持つと、ぶん、ぶん、と振り回し始めた。


「っと、こんなところだ」


 そういって、ツルバミのコクピットから降りた。


「すげえ、これが先輩のロボット……」

「……とはいってもダンジョンで拾ったとかそういうわけじゃない。……オレら、ロボット工学部で作り上げたものだ」

「自力で? すげえ」


「果たして本当に自力かっていうのは一言あるけどね」


 管埜先輩は笑みを見せながら顎元に手を当てている。


「どういうことです?」

「こんな人間の形をしたフレーム、一から設計するのは困難なの。この基礎構造は先輩の誰かが作り上げたはずなんだけど……まるで何か元があったかのようなの」


 さっきとは一転変わって梁瀬先輩が真面目に語る。


「そう、こいつには元となる設計図があったはずだ……例えば、ダンジョンで拾った魔導鎧とか」

「!」


 俺の拾った機体、「アンタレス」を思い出す。


「過去に、ああいうロボットを拾った人がいたと?」

「その可能性はある」


 なるほど、とひざを打った。


「ダンジョンの方からお前のロボット、アンタレスとやらを引き上げる。破壊されたロボットの残骸を解析する。それが俺たちロボット工学部でやる事だ」

「なるほど、それでアンタレスを手に入れた俺をロボット工学部に……」

「やる事は色々あるが、その目的は……何か、オレたちが先輩から脈々と受け継いできた技術構造と似ているものがあるか、調べさせてほしい、というわけだ」

「……ダンジョンに持ってっていいんですよね?」

「ふだんはここに保管させてもらうが……もちろんいいぞ」

「やったー」


 俺ははねて喜ぶ。


「いえーい」


 梁瀬先輩がハイタッチしてきた。


「……でも、こんなでかい機体どうやって持っていくんです?」

「『召喚』ができる」

「急にファンタジーになった」


 汀良田先輩は腕の端末を見せる。


「皆が武器を召喚するように、オレはツルバミを召喚することが出来、それで戦うことが出来る。……しかし一つ欠点がある」

「……まさか、狭いところとか」

「そうだ。広い場所でしか召喚できず、狭い場所では普通の武器を持って自力で戦わなければならない」


 その時、はっと俺は思い出す。


「そうだ! 俺の武器逃げるときに投げちゃったからなくなったじゃん! これからどうすんだよ!」

「考えなしに投げてたんでやがりますか……」

「考えてたわい! あの時はあれが最善だったんだよ!」


 そう言い争いをしていると、梁瀬先輩が奥から何かを持ってくる。


「それじゃーロボット工学部でちょっと作ってみたこれを使ってみるのはどうかなの?」


 それは、何枚かのブレードのような形状をした板であった。


「剣ですか?」

「んにゃ、ドローンなの」

「え?」


 梁瀬先輩は頭にヘッドホンのようなものをつけると、ドローンから手を放す。

 すると、ドローンは空中に浮いてくい、くいっと空を切る動きをした。


「これは脳波で動くブレードドローンっていう新兵器なの。ちょっとした弾を打つことが出来たりする万能中距離兵器なんだけど……どう?」

「……かっこいい!」


 ドローンを受け取り、頭にヘッドホンをつけ、思う増分動かしてみる。


「すげえ、俺だけの武器……」


「それで、井荻はロボット工学部に入るってことでいいんだな?」

「もちろん! ロマンあるロボット、ロマンある武器、これを使えるならぜひとも!」


 俺の心は少し跳ねていた。ただでさえ楽しいダンジョンに、新たな楽しみが加わったのだから。


「まー俺の事はいいとして、新入部員の板野なんですが……コイツにも武器をあげてやってくれませんかね」

「えっ私ですか?」

「うーん、どんなのがいい? 今の所残りの新兵器とかはないけれど……バチバチに相手と切りあうのがいいか、遠くから攻撃するのがいいか」

「あんまり、痛くないので……」

「うーんそれじゃあこれだ」


 管埜先輩は奥から一本の銃を持ってくる。


「狙撃銃よ。これで相手を狙撃なさい」

「……ちょっと、撃ってみていいですか?」

「いいわよー後で試射できる場所を紹介するわ」


 と、俺はふと気づいて板野に聞く。


「……って、さっきまで怖がってたのに結局ダンジョン潜るんだな」

「……今更、井荻君も戦ってるのにほおっておけないでやがりますよ」

「そっか。うれしいな。じゃあ、俺たちのパーティに誘うのがいいかな」


 遠くから二つの人影が見える。


「おーい、井荻無事かー?」

「全く、無茶をしたと聞きましたわ」


 都武とアリスであった。


「おーい二人ともーちょっと話したいことがあるんだがいいかー」


 俺は二人に手を振る。板野は、手元の狙撃銃を撫でながらにっこりと笑っていた。


 ***


「神舞せんぱーい」


 本部前で待っていた先輩に、板野が声をかける。


「あら、板野ちゃん。ごめんなさいね、最初の入部体験がこんな大事件になっちゃって」

「いえ、おかげで刺激的な体験が出来ました。それに……井荻君とも会えたし」

「それで、入部するの?」

「します」

「あら大丈夫? 怖くない?」

「ちょっと、怖いかもしれないでやがりますけど……」


 板野は俺の方をちらりと見る。


「井荻君も、ほっとけないですし」

「もっと頼って欲しいもんだがな」


 そして、都武とアリスの方を向く。


「パーティにも誘われましたし」

「願ってもない話だ」

「クスクス、歓迎しますわ」


 手元の狙撃銃を撫でる。


「なんか、貰っちゃいましたし」


 板野は神舞先輩の目をじっと見つめる。


「ダンジョンも、なかなかない体験ですし、せっかくだから、いろいろやってみようかなって」

「そう、それはよかった。楽しいわよ、ダンジョンは」


 神舞先輩はこほん、と咳ばらいをする。


「それでは、歓迎するわ。ようこそ、現代ダンジョン部へ!」


☆☆☆


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