第一章 運命と始まりのダンジョン
第1話 運命の始まり
私の幼馴染、
「むむー……」
私の視線を他所に、あっけらかんとしている井荻君がいます。
「どうしたよ板野、俺の顔をそんなにじっくりと眺めて」
「井荻君の事はみていますけど見てるのは顔ではないです」
「じゃあこの学食ラーメンか? そんなに人のものまで食べたいか?」
「そういう食い意地張ってるとかそういう話ではなくてですね……」
申し遅れました、私、
そんな訳で結構子供のころから彼の様子を眺めている私だから感じる違和感なのですが、それは彼の顔でもなければラーメンでもなく、箸の先のゆでたまごを非常に訝しく思っているわけです。
「井荻君、主食におかずを一品足すタイプの人間でやがりましたっけ」
「……そこなの? なんか足したくなる気分だったってだけだよ」
「そこですよ!」
私は井荻君の顔を指さす。
「井荻君といえば口を開けば金がない金がない言って買い食いもせずゲームも古い古い奴をジャンクショップから安いのかっていつもいつも同じのやるだけ!」
「おいおい……事実だけど言いすぎだろ」
「そんな井荻君が? おかずを追加する? 金を節約するのにそんなことするんでやがりますか!」
「おやじがいつも家にいねえっていうやむにやまれる家庭の事情があるわけだしさあ、ちょっとケチくらいいいじゃん別に……」
「ケチがいいか悪いか言ってるんじゃなくてですね…事情があるのにケチが治りますかってはなしですよ!」
「治る必要性を感じない」
「それどころかいつまでもボロボロの靴を穴が開いても使いまわしてたのになんですかそのガチャガチャしてピカピカの見たこともないブランドの高そうな靴は!」
「先輩に貰った」
「なーんですかその先輩は! 使い古しのならともかく新しいのを後輩に挙げる人間がいますか!」
遂に私は机をどーんと叩いた。
「っていうか問題はそこじゃなくてですね……つまり! 井荻君は最近お金に余裕があるとみてるんですよ!」
「いやまあうーん……そこまで余裕があるって訳でもなあ……」
「その口調!」
私はびしっと井荻君の口を指さす。
「余裕がない人間はそこで言いよどまないんですよ! それと先輩ってやつですけど! 最近遅くまで部活やってて一緒に帰ってくれないじゃないですか!」
「あーうんごめん、最近かまってやれなかったな……焼きもちか?」
「そそ、そういうんじゃなくですね! ズバリ、夜遅くまでなんかやってる! 金に余裕がある! つまりここから導き出される結論は……」
がっと体を寄せ、顔を近づける。
「井荻君、アルバイトしてますね」
すると、さっと目をそらした。
「シテナイヨー」
「禁止ですよ、アルバイト」
「……知ってるよ」
苦笑いしながら私の頭を手でどけ、ごちそうさまと言いながら立ち上がる井荻君。
「まーなんつーか、最近ちょっと色々やる事があったんでな、すまんわ。今度の休日にでも埋め合わせをだな」
「実際、一緒に居られてないことは別にどうでもよくてですね……」
「あっ本当にそうなの?」
「そうですよ。で、大事なのは、本当に心配してるんですよ? 親や学校の許可もらわず高校生ができるバイトなんてそうないんですから。やってるとしたら、あまりよくないことですから」
「うーんよくないことか……でもなあ」
「なんかやってるんですね?」
「ヤッテナイヨー」
「井荻君!」
また机を叩こうとしたのを手で静止させられる。
「大丈夫だって、夜遅くまでやってるのは本当に部活だし……心配することじゃない。じゃあ、ちょっとこれから先輩に呼ばれてるんでな……」
「ちょっと!」
そういって、彼は去っていった。
……やっぱり、怪しい。
***
放課後、私は井荻君の後をつけていた。
彼がどんな部活に入っているかは知らない。聞いても教えてくれなかった。
その部室がどこにあるのかは知らないが、部室棟かどっかの教室を間借りしているのには間違いないだろう。しかし、井荻君は明らかに別の場所へと向かっていた。
「この方向はプール下……何かありましたかねえ?」
気づかれないように物陰に隠れながら、彼のもとを目で追う。
そのまま彼はどこか人目につかない場所へと入っていく……
そこは、ボロボロのプレハブが何個か並んでいた。
井荻君はすっかり奥へ入っていき、周りの様子をうかがってもばれなそうだ。
端からドアを見ていくと、「鉄道研究会」「弓道部」「プラモ研」「ロボット工学部」などのプレートが貼られている。中には、「料理部」と書かれたものもあった。
中をちらりと覗いてみると、当然だが今は使われていないようで空っぽだ。どうやら、太古の昔に部室として使われていた場所であると考えられる。
そんな場所になぜ……
彼は、奥の一室に入っていく。
そこの扉には、「現代ダンジョン部」と書かれていた。
「?」
おおよそ部活名には似つかわしくのない言葉を見つけ、それをじっくり眺める。
「あら、入部希望者かな?」
「!?」
背後から声を掛けられた。
完全に気付かなかった、気配がなかった――別に、気を付けていたわけではないが。
恐る恐る振り向く。そこには――同じ料理部の、紫髪に赤い帽子をかぶった
「と思ったら板野ちゃんじゃない。どう? 先日上げたクッキーおいしかったかしら?」
「いや、おいしかったでやがりますけどそれよりも……先輩!? どうしてこんなところに……?」
「うーんなんていうか副業というか副部活というか……まあ、ともかく板野ちゃんも縁があったって事でしょう? とにかく奥に入って入って!」
私は、少し怪しく思いながらも、先輩に連れられ井荻君の入っていった扉を開いた。
***
なかは外から見て予想した通りたいがいボロボロだった。
ボロボロの中のスポンジが見えるソファー、ほこりの溜まった床。壁には落書きがされ、塗装が剥げコンクリートが見えている。
(そもそもなんで私こんなところに入っちゃったんだろう……)
逃げればよかったのに。そんなにも彼のことが心配だったんだろうか。
「それで、いったい現代ダンジョン部ってのは……って井荻君がいない!? いったいどこへ?」
「落ち着いて、慌てなくていいわ。それでね、現代ダンジョン部っていうのはその名の通り、現代に現存するダンジョンへと潜る部活。しかもそのダンジョンは……私たちだけの秘密なの」
「ダンジョン? いったい何を? そんな場所がいったいどこに……」
「ここはあくまでかりそめの部室なの。本拠地は――」
神舞先輩は、奥においてあった掃除用具入れを開く。
「こっちにあるのよ」
誘いこまれるように、その中を覗き込む。
そこには、一室ほどの薄暗い空間が広がっていた。
「こんなところに隠し……教室? みたいなものが?」
「さて、板野ちゃん。あなたに幸があらんことを……」
その言葉と共に、私は突き飛ばされた。
「わあ!?」
一室の床に手をついたその瞬間、扉は閉められ、光は閉ざされた。
そして、すぐさまがくん、と地面が揺れた。
「え? 何? 何が起こって――」
そうして、地面はエレベーターのように、地下の方に向かい始めた。
私は、ただ、怯えていた。
一体、何が始まるのかと。
床にはいくつばりながら天井を仰ぐ。手をついた感覚だけが私を支えていた。
その時、かすかにどこからか光が漏れ始める。
ちらちらと、壁の向こう側――壁はガラス張りになっているようだが―から外の景色が漏れているようだ。
恐る恐る立ち上がり、壁に張り付く。
その時、部屋に光が満ちた――
そうしてわたしは、景色を見た。
古い古い遠くの――異世界のような街並みを。
レンガ造りの道と家々で彩られた、古ぼけた中世のような景色を展望していた。
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