日々
今日も僕は一人で息をしている。孤独ではない。目線の先に、「きみ」がいるから。「きみ」は僕と違って、「きみ」のことを求めてくれる人間が周りに大勢いる。だから僕が「きみ」を独り占めすることはできない。そこに、寂しさはない。
ふいに、「きみ」がこちらを見た。僕と目が合うと、微笑んだ。その微笑みはこの世界の何にも代えがたい、この世で最も価値のあるものであろう。「きみ」しかいない僕の世界で唯一、僕を肯定してくれているような、そんな微笑みだ。これがあるから、僕はこの世界にしがみついてしまうのだ。
「きみ」は優しい。僕がどれだけ疎まれ、蔑まれ、虐げられていてもお構いなしに毎日僕のところへやってくる。それはもう、鬱陶しいくらいに。僕の中の檻をぶち壊してしまうくらいに。「きみ」はいつも僕を連れ出して、目まぐるしく駆け回る。変わる季節、変わる景色。「きみ」は僕にそれを見せたかったのだろう。「きみ」に出会ってからもう何回季節が変わったのだろうか。「きみ」は毎日見える、変わる景色を楽しんだ。僕とともに。僕は、楽しんでいただろうか。
優しい「きみ」は時折、どこか悲しそうで、慈悲深くて、氷のように冷たく、陽だまりのように暖かい視線を僕に向けてきた。視線を向けるだけで、僕に何か問うてくることはなかったけれど。それはきっと、「きみ」なりの優しさだったのだろう。不器用でわかりにくい、「きみ」だけの優しさだろう。普段「きみ」が別の人に向ける優しさとは質が違う。他者と接するときの「きみ」は、お手本のような優しさを見せている。けれど、僕といるときは違う。ただ黙って、慈悲が悟られないようにしている。わざわざそんなことをする不器用な「きみ」のことだ。きっと、僕が気付いていることを伝えたら拗ねてしまう。だからこのことは言わないし、何より僕だけが知る「きみ」の一面のようで、ほんの少し、独占欲が満たされる。
繰り返される日々の中で、僕は「きみ」の微笑みと優しさに吞み込まれている。
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