回想
僕が「きみ」に出会ったのは、つくしが顔を出すある春の日だった。僕が何をするでもなくだだっ広い野原で寝転んでいたら、突然「きみ」が隣に寝転んできたのだ。僕の見ている景色に人が割り込んでくることはあまりに久しぶりで、驚いたのをよく覚えている。
その日から「きみ」は、僕に話しかけることもなく、毎日僕の隣で寝転んでいた。僕も「きみ」に話しかけることはしなかった。「きみ」が”この町”の人でないことはすぐに検討が付いた。しかし、それ以外のことは何もわからなかった。知りたいとは思わなかった。
「きみ」と初めて会話をしたのは、出会いから二週間ほど経ってからのことだった。いつものように寝転んでいた「きみ」の顔に、飛蝗が飛び乗ったのだ。「きみ」は驚いて声を上げ、僕はその声に驚いて隣を見た。その時、初めて目が合った。少し間をおいてから、「きみ」は微笑みながら「びっくりしちゃったね」と言った。僕は、返事ができなかった。
それから「きみ」は、僕に話しかけてくるようになった。とりとめもない、取るに足らない話。しばらくは黙って聞いているだけだった僕も、少しずつ相槌を打つようになり、気付けば会話をするようになっていた。この頃の僕にとって、この時間は忘れていた幸福を思い出させてくれるような、大切な時間になっていた。
そしてある日、「きみ」が東京からやってきた転校生であることを知った。
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