ワルツ

真月陽

独白

 僕の人生は3拍子で進んでいる。1拍目で「きみ」が踏み出し、2拍目で僕がそれを見て、3拍目で「きみ」に合わせて僕も踏み出す。「きみ」はいつも僕を導いてくれる。僕は親鳥を追う雛のように、あるいはワルツのステップのように、「きみ」の行く道を進む。躊躇いはない。僕が僕になった時から、この世界には「きみ」しかいない。


 綺麗なものを見ると、「きみ」はいつも僕に見せようとしてくれる。或る時は散りゆく桜の木であり、或る時は夕日に照らされて輝く水面であり、或る時は地面を朱に染める落ち葉であり、また或る時は孤独に瞬く一番星であった。「きみ」がどうして僕にその景色を見せてくれたのかはわからない。けれども「きみ」が「綺麗だね」と言うから、僕はいつも頷いて、一緒に眺めている。


 僕には「きみ」に見えているもの、聞こえているもの、感じているものがわからない。理解などできるはずもない。それでも「きみ」について行けば大丈夫だ、という確信がある。僕にとって「きみ」は全てであり、唯一無二の存在なのである。どうか僕を置いて行かないでほしい。「きみ」がいなくなったら、僕はこの世界でひとりぼっちになってしまう。


 灰色の世界で走り回る「きみ」は、廻り廻る季節のようで、気まぐれな旅人のようで、僕だけを照らす太陽のようだった。くるくると変わる「きみ」を見ていると、僕はいつも酔ってしまいそうになる。まわるまわる「きみ」は、きっと誰よりも美しいことだろう。僕に見せてくれる景色は、そんな「きみ」が綺麗だと感じた、廻り廻る季節のワンシーン。僕にとっては「きみ」と同じくらい大切な景色だった。


 3拍子で進む世界は、時折リズムが狂いそうになる。「きみ」が僕より少し、早くなるからだ。4分音符=60で進む僕は、そのスピードについていけなくなってしまう。けれど、「きみ」に置いて行かれないよう、精一杯呼吸を合わせてついて行くのだ。そうして季節は廻り、景色は変わる。


「景色」は「季節」について行くのだ。

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