第24話 依頼
ミッションが発表された日の放課後。
他のクラスには誰も人がいないくらい暗くなった時間に、Eクラスだけ明かりが点いていた。
その一年Eクラスの教室にいたのは、このEクラスをまとめる中心人物たち。
七条を襲ったのもその人物たちだ。
クラスの頂点に立つのは
そして、主に桃山を支える取り巻きが三人。市川に殴りかかった
「一応、
教室中央の後方にある机の上に座っている桃山に、天風はそう聞いた。
「続けるつもりだ。おそらく、今月のミッションは運動能力というよりはクラスの団結力が大切になってくると思う。報告によるとまだまとまっている感じはないらしいが、どうなるか予想も誘導もできない。少なくとも、あれを一度スタートさせたからには、ここで止めることはできない」
桃山の答えに、天風はそうだねと相槌を打つ。
「続けるって言っても、あの一緒にいた女、結構強そうだったけど」
「たった一発じゃ実力はわからない。まぐれかもしれないし」
「強い前提で進めた方がいいと思うよ」
「ああ。それはわかってる」
松原の意見を桃山は頭の片隅にしっかりとしまっておいた。
その時、桃山のスマホに一通のメッセージが届いた。送り主は全く知らない人物『I-I』。ぱっと見ただけでは、それが何を表しているのかはわからない。
桃山は恐る恐る、そのメッセージを開く。
「何だ……これ」
思わずそう呟いたその内容とは、
『私はFクラスを潰したいと思っています。でも、私にはそれが実行できるほどの力がありません。なので、あなたにそれを頼みたいと思っています、桃山光さん。
EクラスはFクラスと戦うことになるでしょうし、そのリーダーであるあなたに託せば、必ず実行してくれる。私はそう思っています。
まずはあなたにどれほどの力があるかが見てみたいです。もし、本当にそれほどの力があると私が感じたのなら、できる限りの情報提供をします。
提供情報の一部のファイルを添付しておきます。もし引き受けていただけるのなら、ご返信ください。』
そして、そのファイルが添付されていた。
ファイルを開くと、そこにはFクラス全員の氏名が表示されていて、その隣にそれぞれスペースが空いていた。今は黒く塗りつぶされているが、本当に提供される時にはここに情報がしっかりと記入されているのだろうと桃山は思った。
一応ファイルを上から下まで見ると、一人だけ黒く塗りつぶされていない人物がいた。
その人物の場所に書かれていた言葉は、『内通者』だった。
その人物のことは、桃山たちはよく知っていた。その内通者として繋がっているのは桃山たちだからだ。
でも……
「何でこれを……」
そんなこと、Eクラス以外で知っている人は誰もいない。ということは、このクラスにも裏切り者が……? そんなことは考えたくないが、桃山は考えざるを得なかった。
裏切り者が誰か、とクラス内で探しても名乗り出る奴なんていない。
だが、このまま放置しておくわけにもいかないし、そもそもこのI-Iが誰なのかも気になる。
桃山は少し考えた後、引き受けようと決めた。
「どうかしたの?」
桃山が考えている間に、天風がそう言ってスマホの画面をのぞき込む。
「何これ……」
天風は文章も読んだ上で、どうするの? と聞く。
「引き受けようかと思う」
「こんな怪しいこと、引き受けて大丈夫なの?」
松原が心配そうに聞くが、桃山の意思は固かった。
「クラスに裏切り者がいるんだ。そいつを排除しないと、この先痛い目に遭う。それを探すためにも、乗ってみようと思う。どうせ痛い目に遭うなら、それでも踏み出した先の方がいいと思う。それが俺の理念だから」
桃山はそう言ってどうにか説得しようとする。
「罠だったらどうするのよ」
「裏切り者がいる時点で罠は避けきれないだろ」
「それもそうだけど……」
松原は説得できてきたようだった。
「僕は光についていく。罠だとしても」
天風は説得せずとも、といったところだった。
いい仲間を持ったものだ、と桃山は天風を大切にしようと心に決めた。
「冬輝はどう思う?」
「俺は……決められるほどの力はないから」
北山に力が無いのはわかっている。これは同意ということでいいのか……桃山は同意ということで受け取っておいた。
「二人とも……もうちょっと自分の意見を持ちなさいよ……まあ、光がそう決めたなら、そうすればいい」
「ありがとう、蘭」
桃山はいつも共に行動している三人の同意を得たところで、メッセージに返信した。
すると、すぐに返信が返って来る。
「早っ……」
『それではお願いします。一応、あのデータが入ったSDカードをこの人物が持っています。もし情報が欲しければ、奪ってみてください』
そのメッセージに付けられていたファイルには、ある女子生徒を隠し撮りしたような写真と、赤いリボンの写真が入っていた。
「これを……狙えばいいのか……?」
桃山はその画像を見るが、その人物に見覚えは無かった。
「Fクラスの奴か……? こいつ」
「いや……」
Fクラスならそれなりにわかるはずなのだが、四人ともこの人物に見覚えは無かった。
それなら他のクラスの人物と考えるのが普通だが、なぜ他のクラスの人物がこの情報を持っているのかということが引っかかってしまう。
内通者や協力者と考えるべきだとは思うが、ここまで調べられるような人物がわざわざ頼んでくるとは思えない。確かに、自分の手を汚さずにできるのならそこまでできるのかもしれない。でも、他人に頼むリスクだってある。
「何を考えてるんだ……」
でも、ここで引き下がるわけにもいかないし、このI-Iと組めばかなり目標に近付く。
あっちもリスクを負って接触してきたのだから、こっちもリスクを背負うべきか。
桃山の中にはそんな考えが駆け巡り、結局しっかりと引き受けることにしたし、早速作戦を考え始めた。
「まず、こいつが誰だか探さないとな」
「それは僕に任せて」
「わかった。頼んだぞ、弥生」
「うん」
天風は周りを見るようなスキルに優れていて、記憶力も人並み以上にある。男子にしては小柄で、隠れて人を探すことには一番優れていた。
「じゃあ、弥生が見つけ次第作戦を考える。それまでは、例の作戦を進めることにする」
桃山がそう言い、その日の話し合いが終了した。
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