第5話 学長
放課後
俺は来見に呼び出され、どこかに連れていかれていた。
何も言わずに廊下を進んでいた来見が急に立ち止まる。
立ち止まった部屋は、校舎の奥の方にある学長室だった。
「学長がお呼びだ」
「わかった。先生は、もういいですよ」
「ああ」
来見が立ち去るのを見送り、俺は部屋の扉をノックした。
「……天音です。早見天音」
「入れ」
「失礼します」
部屋に入ると、そこには学長の永井だけがいた。
それなら変な偽りの礼儀は抜きにして、普通に喋ってもいいか。
「久しぶりだな、早見くん……いや、天音」
そう言うってことは、こっちも普通に接していいんだよな。
「ああ。久しぶり、
「ここでは永井だ」
ああそうですか。どうでもいい。
「それで、何の用だ」
「久しぶりに会ったのに、相変わらずだな」
「俺とお前の関係なんて、そんなもんだ」
正直、さっさと帰りたい。
「君に一つ、言っておきたいことがあってね」
「さっさと言え」
「君は確かに過去最高という言葉にふさわしい。だが、そんな君であっても、いや、そんな君だからこそ、私からは逃げられない。少なくとも、この学校にいる限りは」
「……じゃあ、俺からも一つ」
「何だ」
「俺は絶対に敵を討つ」
俺はそう言い残し、学長室を後にした。
◇ ◇ ◇
俺は、とある施設で育った。
その施設は、帝国学院の上位互換のような施設。帝国学院よりも厳しいミッションが課され、より優れた子供を選別するような施設だ。
その施設自体も上下二つに分かれていて、俺はその上の部分に位置する『ブラックリスト』出身。意味をそのまま取れば、『警戒すべき人物』となる。
俺はそのブラックリストの過去最高傑作とまで言われている。
学長の永井改め霜谷とはそのブラックリストの時代に色々あり、犬猿の仲である。
話が逸れたが、その施設で生き残った子供たちが、帝国学院に送り込まれている。もちろん、それは片手で数えられるほどしかいない。
なぜそのような施設があり、わざわざ帝国学院に送り込む必要があるのか。何を目的にそのようなことをするのか。
それは――
◇ ◇ ◇
「……天音」
学長室からの帰り道、俺は後ろから誰かに呼び止められる。もちろん、その誰かは姉さんなのだが。
「姉さん。どうした?」
「ううん。特に大事な話じゃないから」
「そう」
ただ一緒に帰りたいだけ……なのだろうか。
「あの人と何話したの?」
「別に。特に内容は無かった。ただの挨拶……かな」
「そっか」
何を聞きたいのかは知らないが、特に大事な内容は無かったと思う。本当に。
「それがどうした?」
「気になっただけ。天音はあの人と仲悪いのに、挨拶なんて……って思ったから」
なぜそれを知っているのか、というところが気になってしまうが、今は放っておくべきことか。
「揉め事を起こさないか、って?」
「そう。でも、その感じだと本当に何も無かったみたいだね」
「そうだな……さすがに自分の治める場所で揉め事は起こさないだろ」
学長が生徒と揉めたなんてなったら、面目が潰れてしまう。関係がバレてしまっても不都合が生じる。
「天音はそう見てるんだね」
「姉さんは霜谷と俺の件に関わるな。ロクなことにならない」
「原因は私でしょ?」
「原因が関わるからこそ、だ」
「……わかってるって」
姉さんが面倒くさそうにそう言っている最中、俺の視界に少し気になるものが映る。
図書館の建物の陰で、顔を知っている誰かが、顔を知っている誰かたちに脅されているように見える。
前者が一年Fクラスの
和田は見るからに気が弱そうで、脅されている今ではなおさら手も足も出ないようだった。
「天音、どうしたの?」
姉さんは俺の視線がそこに向いていることに気付き、そう訪ねてくる。
「気になるなら止めに行けば?」
俺が何も答えないでいると、姉さんは続けてそう言ってくる。
和田とは七条ほどの縁は無い。何か行動できるタイプでもないから、協力者にする利点も無い。現状、助ける意味は湧いてこない。
しかも相手は一つ上でこれから最初に争うであろうEクラス。特に桃山に関しては、今の時点であの人数を集めていることから、これからリーダーとなって支配する可能性が高い。そんな相手だ。まだその時ではない。
「……別に」
「そっか」
俺は、和田を見捨てて見なかったふりをする。あっちは俺のことなど気付いていないと思うが。
それにしても、もうEクラスは動き出したのか。クラスをまとめるのが早い。Fクラスはまとまりなんて無いのに。
Eクラスは問題がありそうだ。色々な意味で。
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