第17話

 夜の十一時過ぎに電気を消して布団に入ったが、まったく眠くなかった。

 雷も雨音も変わらず激しい。よほど巨大な積乱雲が一帯にあるのだろう。


「夜這いしないの? 僕は寝ていた事にしてあげるから行ってくれば?」


 眠っているとばかり思っていた蒼士が、突然口を開く。しかもまるで、さっきの姫沙紀との出来事と礼人の懊悩を見透かしたような言葉に驚き飛び起きた。


「俺がそんな事すると思うのかよ」

「そのために、泊まれるように画策したんじゃないの?」

「姫沙紀さんから誘ってくれたんだ! 雷もひどいし、びしょ濡れになるだろうからって」


 ふーんと興味なさそうに返事した蒼士は、寝返りを打ってこちらを向く。豆電球の微かな明かりの下で、彼はこちらを見あげる。薄闇の中で綺麗な顔が際立つ。


「姫沙紀さんは一さんを、どう思ってるんだろう」

「どうって、どうも思ってないに決まってるだろう。それよりもお前、よく素直にここに泊まったな。濡れても構わないから帰るって言いそうなのに」

「僕だって目的がなけりゃ帰ってるよ。一さんが二度も写真に撮った幽霊を見つけるために泊まることにした。姫奈ちゃんに、幽霊退治を約束したから」


 確かに蒼士は姫奈にそんな約束をしていたが、あれは情報を得るための方便かと思っていた。間違いなく方便だったのだろうが、方便だとしても約束したからには守りたいのだろうか。そうだとするとわりと律儀な奴だ。

 離れにあった何者かの気配は、結局小姫子の妄執だと判明した。姫奈を怯えさせている幽霊とは無関係だ。ただ相手が本物の幽霊なら見えなくて当然。幽霊なのだから、今この瞬間二人の寝ている部屋の隅で気配を殺し姿を消して、こちらを見ているかも知れない。


「お前本気で言ってるのか? 幽霊退治。そんな霊媒師みたいな事、出来るのか?」

「必要なら、知り合いの霊媒師を連れて来るよ。ちょうど僕の住んでる部屋の、隣の部屋に住んでる。壁が薄いから、しょっちゅう壁越しに文句を言われるけど、文句を言われる筋合いはないと思うんだ。僕は彼に何度も醤油を貸してるけど、彼がその分を補充して返してくれたことがないから」

「いや。醤油を貸すってことは、ほぼあげるって意味だぞ、普通」

「苦情を言ったら、彼にも普通そういう意味だと言われた」


 直接そんな苦情を相手に言ったのかと、その度胸にいっそ感心した。


「今度彼が醤油を貸してくれと言ってきたら、その間違いを指摘するつもりだよ。僕の醤油が欲しいなら、醤油をめぐんで下さいと言えって。とにかくその霊媒師を連れて来るにしても、どんな幽霊かくらい確かめないといけないんだ。そうじゃなきゃ文句を言う。ひどいときには足が出る。『何でもかんでも、私に頼めば解決すると思ってるのか』って足蹴にされる。幽霊だとしても、その場所にどんな因縁があるとか過去にどんな事故があったとか、どんな人が住んでたとか、必要な情報があるんだって」


 変な知り合いがいるのに驚いたが、それ以上に、彼がどんな場所に住んでいるのか謎だ。


「お前、どんなとこに住んでるの?」

「六畳一間でキッチンつきの、普通の下宿だよ。トイレと風呂は共同だけど」

「はあ・・・・・・。それにしても、お前を足蹴にする霊媒師に会ってみたいな」


 出会ってからこっち、蒼士からいつも心理的に足蹴にされているようなものだから、逆に蒼士が足蹴にされる姿を見ると気持ちいいだろう。


「会うのは、あまりお勧めしない。一さんも蹴られるよ」


 起き上がった蒼士は浴衣を脱いで服を身につけ出す。本格的に幽霊探しに出かけるつもりらしい。礼人は同行しようかと迷い、枕元の服に手を伸ばしたときだった。屋根を叩く雨音よりも大きく、ぎゃーっと姫奈の声が聞こえた。尋常な声ではない。命の危険を感じた小動物が発する声に似ていた。ぎょっとして礼人の動きが止まる。蒼士は逆に、弾かれたように客間から飛び出した。礼人もすぐに彼を追う。

 蒼士は廊下に出るなり、廊下の電気のスイッチを入れた。

 姫奈の激しい泣き声が闇を突き抜ける。それとともに、廊下を硬い靴底が蹴って走るゴツゴツという音が響く。足音は奥の暗い廊下の方から玄関へと移動していた。


「あっちだ」


 走りながら蒼士は、目についた電気のスイッチを駆け抜け様に入れていく。姫奈の泣き声が近くなる。向かうべき方向は間違っていないらしい。角を曲がり、蒼士がここでも電気のスイッチを入れた。玄関まで続く長い直線廊下が明るくなる。

 廊下の中程に、硬直して佇む麻美の背中があった。彼女の肩越しに見える玄関戸の前に男がいた。男と一緒に姫奈がいる。男はやや前屈みで、小さな姫奈の首に刃の太いカッターナイフを突きつけていた。姫奈はひんひんと弱々しく泣いている。


(誰だ、あれは)


 初めて見る顔だ。年齢は二十代後半から三十代前半だろうか。バイク乗りが身につけるような革ジャケットとブーツを身につけ、ずぶ濡れだった。水を吸って光る革がずっしり重そうだ。濡れた髪が額に張りつき、血走った目をぎょろつかせている。色男の部類に入る顔立ちだが、なぜか卑しい鼠を連想させた。興奮しているのか黒目がせわしなく動く。


「姫沙紀は何処だ」


 廊下の奥に現れた礼人と蒼士、麻美を睨みながら男は低く問う。麻美が震え声で答える。


「分かりません。分からないけど、姫奈ちゃん、放して・・・・・・」

「ここに居るのは知ってるんだ! 姫沙紀を出せ! この餓鬼をぶっ殺すぞ!」


 喚くと男は、手にあるカッターの刃を姫奈の喉に押し当てる。


「止めて、お願い。止めて・・・・・・」


 麻美の全身が震えている。「どうする蒼士」と礼人が囁くと、「なんとかしないと」と呻くが、この状況では手も足も出ない。


「どこだって訊いてるんだよ! お前ら、姫沙紀を・・・・・・」


 男はさらに喚いたが、一瞬ふと驚いたような顔になった。宙の一点を見据える。動きを止め、暫くするとまた視線を礼人達の方へ戻し、姫奈を掴んでいた手を持ち替え、さらに身構える。その行動に麻美が悲鳴をあげた。


「やめて、やめて!」

「うるせぇ、黙れ!」


 ひときわ明るい紫の閃光が玄関戸越しに走り、真っ暗闇になった。電気が消えた。雷鳴とともに屋敷が揺れると、姫奈のひときわ大きな泣き声と玄関戸が開く音がした。


 麻美の悲鳴。電気がついた。


 玄関戸が開いていた。戸の向こうには真っ暗闇だ。激しい雨が吹きこんで、湿気た強風が廊下の奥へと駆け抜ける。男が消えていた。姫奈が玄関の三和土に座りこみ泣いていた。


「姫奈!」


 背後から姫沙紀の切羽詰まった声がした。姫沙紀が廊下の壁にしがみつき体を支え、よろめくように廊下の角を曲がって来た。彼女は震えが治まらない覚束ない足取りながらも、懸命な早足で礼人達の横を抜け、玄関の三和土へ裸足で下りると姫奈を抱きしめた。


「姫奈、姫奈。良かった!」


 抱かれた途端に、姫奈の泣き声がわっと大きくなった。麻美がその場にへたり込む。

 礼人と蒼士は玄関から飛び出し、雷鳴と激しい雨の中で男の姿を探した。しかしあまりにも激しい雨に、男の影も足跡すらも分からない。一度屋敷に引き返し、懐中電灯を麻美に借り受け屋敷の周囲を見て回った。千年藤の辺りから藤やの坂の下まで確認したが、男の姿は見あたらなかった。ずぶ濡れになった二人が玄関に引き返すと、まだ姫沙紀は姫奈を抱きしめたままそこにいて、麻美もその場に座って呆然していた。


「屋敷の周りには見あたりませんが、すぐ警察に通報します」


 礼人は自分のスマートフォンを取りに行こうと靴を脱ぎかけだが、


「いいえ、大丈夫です」


 姫沙紀が慌てたように声をあげた。驚いて、礼人と蒼士は姫沙紀を振り返った。


「警察に通報しなければ危険です」


 きつい蒼士の声にも、姫沙紀は首を横に振る。


「なるべく穏便に済ませたいんです。あの人を犯罪者にしたくないんです」

「あの男は知り合いですか。何者です」


 姫沙紀は何処だと、あの男は騒いでいた。知り合いには違いない。礼人の問いに姫沙紀は暫く沈黙したが、わんわん泣き続ける姫奈の頭を撫でつつ小さな声で答えた。


「あの人は石田陸斗といいます。姫奈の・・・・・・父親です」


 衝撃に、礼人は言葉を失う。


「学生時代に付き合っていたんです。暴力がひどくて別れようとしました。けれど素直に別れてくれなくて。別れるなら殺すと言われて。怖くて。だから四年前に、成葉里村に逃げて帰ったんです。あの人には実家の住所は知られていなかったので。でも帰ってきてすぐに妊娠していると分かって」


 姫沙紀は、姫奈のつむじに顔を伏せる。

 あの男——石田陸斗に対する嫌悪と嫉妬が、膨れあがる。


「いつか探しにくるかもと、思ってました。けれどこんなに経ってから来るなんて。でもあの人は姫奈の父親なんです。この子の父親を犯罪者にはしたくないんです」


 震えて俯く姫沙紀と泣き続ける姫奈を、ただ見おろすしか出来なかった。すると麻美がふらふらしながらも立ち上がり、三和土に下りると姫沙紀の肩を抱く。


「姫沙紀さん中へ入ろう。ね。姫奈ちゃん無事だったし、良かった」


 無言で姫沙紀は頷き、泣き続ける姫奈を抱いて立ち上がったが、礼人の方を見ないように俯いていた。麻美は姫沙紀の背に手を添えながら促し、礼人達に目配せする。不安なのでここに居て欲しいという訴えが汲み取れたので、二人は屋敷中の施錠を確認して客間で待つ事にした。

 女性ばかりの屋敷だけあり用心が行き届いており、どこも施錠されていた。ただ一カ所だけ、湯殿に繋がる渡り廊下の出入り口が無施錠だった。泥まみれの靴の足跡があり、そこから石田が屋敷内に侵入したのだと分かった。桜子のいる隠居も覗いてみたが全て施錠されていて、桜子は布団の中でまるで死体のように静かに横たわっていた。宗一郎の部屋がある離れも施錠されていた。落ち着きを取り戻さない小姫子は宗一郎の部屋にいる。

 ずぶ濡れだったので着替えた。蒼士は浴衣に着替え、礼人は浴衣から自分の服へと着替えた。雨で冷えた体はなかなか温もらず、八畳に座っていてもひどく寒かった。


「駄目だ、電波が入らない。悪天候のせいだ。通報できないね。廊下にあった固定電話も、受話器を上げても発信音がなかったし。この嵐で電話線がどこかで切れてるかも」


 いじっていたスマートフォンを、蒼士は諦めたように畳に放り出す。


「通報って警察へか? 姫沙紀さんが通報しないでくれと懇願してたじゃないか」

「通報しないで良いと思うの? 幼児に刃物突きつけるような人間がうろついているのに、お願いされたからって放っておいて良いはずないでしょ」

「だが姫沙紀さん自身がそれを望んでないんだよ」

「本人がなんと言ってても、あんな男は警察に逮捕される方が姫沙紀さんのためだ」

「お前は、姫沙紀さんの気持ちを考えないのか!」


 つい怒鳴ったのは、八つ当たりだった。通報するのが正しいと分かっている。しかし礼人は、姫沙紀が通報しないでくれと願い、結果的に石田を庇っているのがショックだった。通報するのは、嫉妬のあまり彼女の願いを無視しているような気がしてしまう。その躊躇いがあるので通報できず、通報できない自分に苛立つ。


「感情に引きずられて、本人が正しい判断を出来ないときもあるよ」


 蒼士は静かな目で礼人を見つめる。


「分かってる」


 情けなく返事したときに廊下に面した客間の襖が開く。麻美が「先程はすみません。ありがとうございました」と言いながら踏みこんでくると二人の前に座った。


「姫沙紀さんと姫奈ちゃんの様子は、どうですか」


 問うと彼女は、ちょっと笑顔になる。


「姫沙紀さんが、姫奈ちゃんを寝かしつけてます。二人とも落ち着いてます。本当にお二人がいて下さって心強かったです。ありがとございます」


 頭を下げる麻美に、礼人は「いえ」と小さく会釈を返す。彼女が何の目的で藤蔭屋敷にいるのかと、不審感が強すぎて以前のように打ち解けた気持ちになれない。蒼士は探るように麻美の様子を見ていた。その視線に麻美は気がついたらしい。


「なんですか、終夜さん」

「何がどうなって、あんな状況になったんですか」

「部屋で寝てたんです。そしたら部屋の前を歩く重い足音が聞こえて目が覚めて。時々聞こえる幽霊みたいな足音とは絶対に違う、ごつごつした感じの音だったんで、部屋を出てみたんです。そしたら姫奈ちゃんが、もの凄い声で泣き出して。誰かが姫沙紀さんの部屋から姫奈ちゃんを抱えて出てきて。暗くてよく分からなかったけど、男の人だったんでびっくりして。でも姫奈ちゃんが抱えられてるから、私、必死に玄関まで追いかけました」

「あの人が姫奈ちゃんの父親だと、知ってましたか?」

「初めて見る人です。姫奈ちゃんの父親については姫沙紀さんから、姫奈ちゃんが生まれる前に別れたとしか聞いてなくて」

「顔を見た事がなくても、調べれば姫沙紀さんのかつての恋人の名前と住所くらい、分かりますよね。石田に密かに、姫沙紀さんの居場所を教える事は出来ますよね」

「まさか、私がそんな事をしたって言いたいんですか」


 麻美は目を見開く。


「どうして私が、そんな事しなくちゃならないんです」

「だって麻美さんは、小姫子さんの醜態を、わざと僕達に目撃させたじゃないですか」


 麻美は、怯えたように蒼士と礼人の顔を交互に見る。動揺を隠そうとしていたが、うまくいっていない。


「それは、・・・・・・それは、わざとじゃ」

「あのとき離れの二階の窓に女の姿を見たとしても、僕達に知らせる必要なんかない。わざわざ知らせに来て、しかもその後から自分も来た。ああやって駆けつけるだけの度胸があれば、他人の僕達を頼る必要なんてないのに」

「二人にだけ任せるのは悪いと思って」

「任せるのが悪いと思えば、来られる程度の恐怖なんですね。麻美さん。あなた以前から、離れに入り込んで覗いてたんじゃないですか? その時に小姫子さんの醜態を目撃していたんじゃないですか? だから他人の僕達が藤蔭屋敷に出入りを始め、僕達が離れに興味を持っているのを知って、小姫子さんを辱めることを思いついたんじゃないですか?」

「何を根拠に私が離れを覗いてたなんて」

「あなたが迷わず、宗一郎さんの部屋の鍵を持って来たから」


 内心で礼人は、「あっ」と声をあげていた。


 小姫子が狂乱状態になったとき、麻美は迷わず階下へ行き鍵を取ってきた。鍵がどこかに堂々と置かれていたにしても、入った事もない部屋に飛びこんで、しかもあの切迫した状況で、鍵のような小さなものを素早く発見できるだろうか。時間をかければ見つけ出すのは容易だろうが、あのときはわずかな時間で麻美は戻ってきた。離れに立ち入るのを禁じられていたなら、小姫子の部屋に踏みこんだ事すらなかったはずなのに。

 麻美の顔から血の気が失せていく。


「本当なんです。姫奈ちゃんは幽霊を怖がってて、私も女の幽霊を蔵の窓のところで見て」

「じゃあ、離れの窓の幽霊は嘘ですか? 麻美さん。お母さんの慶子さんから、何を聞いて藤蔭屋敷に来たんですか」

「お母さんは関係ないです」

「関係あるはずです。だってあなたは、お母さんに言われてここに来たんでしょう」


 蒼士の追求は止まない。


「僕は一さんに、姫沙紀さんを頼むと言われた。姫奈ちゃんとも幽霊退治を約束した。だからここにあるあやふやな影は、一つ一つ取り去る必要がある」


 麻美は唇を噛むと蒼士を睨めつけた。


「あんなにおかしな人を大切にして、どうするのよ! ぞっとするわ、あんな人!」


 叫ぶと立ち上がった。二人を睨み下ろしながら低い声を絞る。


「そうです、わざとです。小姫子伯母さんのあれを初めて見たとき、気持ち悪くて吐き気がした。それなのに姫沙紀さんは、お母さんだからってあの人を病院にも入れない。どんなにひどい目にあわされても、お母さん、お母さんって大切にしてる。馬鹿馬鹿しいじゃない。小姫子伯母さんさえいなければ、姫沙紀さんは自由になれるのに」

「もしかして、姫沙紀さんのためだったんですか?」


 思わず礼人は口を挟む。


「悪いですか? 姫沙紀さんは優しくて、いい人です。それにお母さんが私に頼んだんです。小姫子伯母さんが姫沙紀さんにする仕打ちが見ていられないから、姫沙紀さんを助けるようにって。頼まれて私はここに来たんです。終夜さんは、まるで私の母が悪巧みしていたような口ぶりでしたけど、母はそんな人じゃない。姫沙紀さんには同情してた。自分の命があと半年って時だったのに、姫沙紀さんが可哀相だからって私に泣いて頼みました」


 眉をひそめ蒼士は訊く。


「それが慶子さんの望みだったんですか?」

「そうです。でも同時に私の望みでもあります。私は悪い事をしているわけじゃないもの」

「あなたが蔵で幽霊を見たというのも本当ですね」

「ええ、何度か見てます。お母さんは言ってました、このお屋敷は最後の大媛様の余姫のせいで藤媛に呪われているんだって。私もそう思います。こんなお屋敷は消滅すればいいんです。そして私は姫沙紀さんをこの場所から連れ出します。小姫子伯母さんは、あのままあの部屋の中で一人でいればいいわ。永久に出てこなければいい」


 麻美は早足に出て行った。彼女の最後の言葉は呪いのようだった。

 蒼士は暗い表情で無意識に自分の唇を人さし指で撫でながら、畳の縁を睨む。


「通報するのは止める」


 突然、蒼士が口にした。


「俺は姫沙紀さんの願いを無視したくはないから有り難いけど。さっきまで放っておけないと言ってたのに、どうしたんだよ」

「今、麻美さんの話を聞いて確信したんだ。通報したら取り返しがつかなくなる。藤媛が、いるかも知れない。伝説はもう長い時の中でくたびれ果てて、まがい物の化物になってしまったかも知れないけど・・・・・・どっちが藤媛?」

「お前の言ってる事が、さっぱり分からないんだけどな」

「じゃあ、説明するよ。外へ行こう。雨が止んだから」


 そう言って蒼士は縁側の方へ目を向けた。

 いつの間にか雷鳴も雨音も消え、窓の外はうっすら明るくなっていた。夜明けだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る