マラーの覚醒(12)
夜が明けて、俺たちは空腹と疲弊で仰向けに寝そべった。
身体も船もボロボロで、それでも何とか勝利を収め、俺たちは潮に流されるまま船は港へと戻った。
港からは鎮火後と朝餉の煙が昇っている。
「あー。そういえば腹減ってたの忘れてた」
シヴァとヴィーシャは力なくぼやいた。
「スープが呑みたい。あったかいスープ」
「俺はヒツジがいい。兄さん、ヒツジの香草焼き食べたい」
「馬鹿。ヒツジなんて食ったことねえよ」
「お前らな………」
マラーは停泊の準備に取り掛かっていた。
「兄さん、元気だなあ」
「何か吹っ切れた感じ」
弟二人は兄の変貌ぶりに顔を見合わせて笑い合った。
「それより、賭けは俺の勝ちだな、ヴィーシャ」
「賭け? 何の話だ」
聞き捨てならないセリフにマラーは弟二人を睨みつけた。
慌てて口を押えようとヴィーシャはシヴァを引っ張るが、シヴァはぺらぺらと自慢げに話した。
「兄さんが夜明け前に来るか、来ないかって賭けさ。俺は夜明け前に来る方に賭けた」
「お前ら――」
こっちは心配で気が気でなかったというのに。
「え、兄さん?」
「ちょっと待てよ、マラー! 悪かった、俺たちが悪かった!」
拳を頭にくらった弟二人は叫び身悶えした。
船員たちはその一部始終を見て大笑いし、今宵の宴の肴とした。
その日以降、弟たちが幼い頃のように兄の横に並んで歩く姿に、港町は賑わいを取り戻した。
後にマラーは降伏した海賊たちを自らの船団に引き入れ、父カルカニスと変わらぬ船団を作ったのは数年後のことである。
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