マラーの覚醒(11)
捕らえられた弟たちを救い出した時、俺の中の何かが外れた。
それが理性か。俺には自分を理解する程、冷静ではなくなっていた。
ザシャとロイが見張り台から声をかけた。
「マラー、〈グローリーホール〉は気が付いたみたいだ。このまま船を出すぞ?」
「…………」
「おい、マラー!」
このまま船を港へ引き返すことが得策だ。
こちらはたったの一隻。
潮の流れと夜風を使えば、追いつかれはしないだろう。
今なら分かる。
弟たちがどんな思いを俺にぶつけていたのか。
「ヴィーシャ、シヴァ。俺が間違ってた」
守るために我慢することはもうやめだ。守る必要なんてない。
目を瞑り潮風を浴びる。
胸いっぱいに風を吸い込み、俺は声を上げた。
「家名も、大儀も、どうでもいい! 全部クソくらえだ!」
船員たちはぎょっとして俺に注目した。
怒りではない。
駆け巡る血が、筋肉が、体がそう叫んでいる。
お前は変わるのだと。今まで溜まっていた何かが静かにしかし確実に俺を解き放とうとしていた。
俺は闊歩し船首に立ち、船員たちを見下ろした。
「俺たちは海賊だ」
船員たちは互いの顔を見合わせ、怪訝そうにマラーを二度見する。
「俺たちは海賊だ。港も船も海も、俺たちが手に入れたものだ。それを奴らは奪った。夜陰に乗じて盗み、港に火を放った。俺たちから何もかもを奪おうとした。奴らをこのまま見逃すのか? お前たちは許せるか?」
「俺たちは海賊だ! 好きなだけ奪って、気にくわなやつは拳と剣で分からせろ! 船も海も島も宝も、全部、俺たちのものだ!」
応!
海賊たちは各々が持つ剣と槍を掲げ、マラーの言葉に呼応した。
「帆を張れ! 旗を掲げろ! 俺たちが来たことを奴らに後悔させてやれ!」
応!
マラーの合図で船は反転し、敵を迎え撃つ。
ヴィーシャは飛びつき、シヴァは雄叫びを上げた。
「やっぱ兄さんは最高の海賊だよ」
「お前たちもさっさと持ち場につけ!」
「おうよ!」
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