マラーの覚醒(9)
母の言う通り、岬の奥には隠された船が一隻あった。
ここから一人で船出の準備をするには時間がかかりすぎる。母の部下を何人か借りれば良かったと後悔したが、船にはすでに数人の影がある。
「エルマ、ザシャ、ロイ」
船上で戦う経験も豊富で、大人顔負けの腕を持つマラーの腹心の三人だ。
「待ってたぜ、マラー」
いつもなら何も言葉を交わさずに船に乗り込むが、今日は違う。
「お前たちを巻き込むのは気が進まない。奴らの目的は俺たちへの報復だ」
「何を今更」
エルマはカトラス(船上で使う短刀)を肩に乗せて笑い、ザシャは頭にターバンを巻いた。
「俺たち孤児を拾って食べ物と服をくれたのはサハラ様だ。そして俺たちに船乗りとして迎え入れてくれたのはお前だ。俺たちはお前についていく」
ここで彼らの信頼に応えないのは失礼というのものだ。
「分かった。だが命の保証はできないぞ」
「上等!」
「あいつらにはむかっ腹が立ってたんだ。それにお前の弟に借りも返さなきゃだしな」
ザシャは先日ヴィーシャの乱暴を根に持っていたらしい。緊張していた自分が馬鹿らしくて、思わず自嘲してしまった。
「船の準備は出来ているのか?」
「いつでも行けるぜ。で、どこに向かったと思う?」
食べることが何より好きなスキンヘッドの巨漢の男、ロイは鶏肉をむさぼりながら、海図を見せた。
「奴らの行先は分かっている。フレイデルの小島だ。あそこの海域は奴らの縄張りだからな」
フレイデルの小島は港町に寄りつけない海賊たちの溜まり場となっている。辺りの海域は流れが速く、あたりにはサメがうろついている。
「相手は恐らく百はいるぞ。四隻近くあるのに、俺たちは二十人で一隻だ。勝ち目はあるのか?」
「ああ」
俺の即答にエルマとザシャは顔を見合わせた。
「根拠は?」
「ない」
「おいおい。お前らしくもない、とんでもない賭けだな」
「明け方になれば潮の流れが変わって追いつけなくなる。奴らに勘づかれるかもしれない、灯りはつけるな」
「星明りだけで弟たちを見つけろってか?」
「海図と星さえあれば十分だ。後は風を読めばなんとかなる。行くぞ」
「ひゅう、かっこいいねえ。お兄さん」
「うるさい」
〈グローリーホール〉は夜に船出はしないと踏んでの行動だろうが、あいにく今は星空がはっきりと見える。俺にとっては好都合だ。目的地が分かっている以上、海上で負けることはあり得ない。
今までにない程、俺の体の奥に何かが滾っている。
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