マラーの覚醒(7)

 外が騒がしくなり、ノックもせずにマラーの自室の扉が開かれた。サハラの側近である女海賊たちが青ざめた顔で飛び込んできた。

「サハラ様!」

「どうした、騒々しい」

 彼女たちは矢継ぎ早に母に詰め寄った。

「蜘蛛の連中が、沖に突然現れたんです!」

「奴ら協定を破った!」

「港はあちこちから火の手が」

 海の蜘蛛と呼ばれる海賊団〈グローリーホール〉。俺たちチャービル海賊団と対立している連中だ。特に、父カルカニスが姿を見せなくなってから陸を乗っ取ろうと画策していたことは知られている。

「旗は見たんだろうね」

「それが、蜘蛛だけじゃなくて、蠍とハイエナも手を組んだようで」

「蜘蛛の子め。小賢しい真似を」

母は舌打ちをして、窓の外から単眼鏡を使い海岸を覗いた。

 ——蠍とハイエナ。

 奴らは最近まで港町の裏路地にいた小規模な海賊。最近になってチャービル家の傘下になったはずだが、それは形ばかりだ。そしてこの前、弟たちに殴られ脅された連中だ。

「ヴィーシャとシヴァは?」

 こんな事態ならすでに弟たちは動いているはずだ。しかし問いかけに女海賊たちは互いの顔を見合わせた。

「それが……」

「どこを探してもいないのです」

 おかしい。いくら言うことを訊かなくてもここまでのことになって、無視を決め込む程に薄情な弟ではないはずだ。

 ——嫌な予感がする。

 寝ている場合じゃない。

「マラー、大丈夫?」

 いつの間にかまた部屋に入って来た末弟は不安そうに近づき、腰にまとわりついた。

「大丈夫だ、アリスタ。お前は何もしなくていい」

 頭を撫でてやると、アリスタは顔をうずめて甘え出した。只事ではないことを幼いながらも理解しているのかもしれない。

 俺は母と他の海賊たちと共に桟橋へと向かった。数隻の船が燃え、煙があちこちに立ち込めている。

「奴ら何てことを」

「ふん、新しい船にまで。用意周到なことじゃないか。こちらの追跡を逃れるためか」

「港に火を放ってそのまま海上に逃げる意味があるのでしょうか?」

 手間ばかりかかって旨味がない。母が隠している財宝に手を付けられた様子もなければ、町を牛耳る俺たちチャービル家の住処を狙われたわけでもない。ただイタズラに船に火を放っただけなのか。奴らの意図が分からない行動原理を解析するだけ無駄だろう。

「くそっ」

 こんな時にヴィーシャとシヴァはどこに行ったというのだ。

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