マラーの覚醒(6)

 弟二人が殺されそうになった時、俺は何も出来なかった。

 船内の異変にいち早く気が付いたミリアが、侵入者を蹴り飛ばして現れた。華麗な剣さばきで気絶させ、俺たち兄弟に微笑んだ。

 ヴィーシャは大泣きしながらミリアに抱きつき、ミリアはヴィーシャと赤ん坊の無事に安堵した。

 俺はただ、恐怖に震えて何も出来なかった。弟たちを救う力はあの時の俺にはなかったのだ。


「俺は、こんな辛い思いをするなら、弟なんていらないって思った。俺はきっと責められずに済むって」

「……」

 母は黙って聞いている。

「俺は……自分で弟たちを捨てようとした。軽蔑しますか? 母上」

 弟を守るどころか、いない方が、ずっと都合がいいんじゃないかと過った自分が確かにいた。そう考えた自分が確かにいた。弟たちを咎める度に過る記憶に居間も苛まれ続けている。

 こんな兄にどうして弟たちが従うというのだろう。

「聞きなさい、マレクザルガ」

 母は冷静に俺を諭した。

「たとえ弟たちを失おうが、誰もお前を責めることはない。けれど、お前はお前自身を一生許すことはないだろう。それがお前だ。そう生まれついてそう育った。お前は一生、そういうことに悩み続ける」

 実の息子に与えるものは慈愛ではなく絶望。甘やかすことなど一切しないのが彼女の自己流の子育てだ。今更驚きはしない。

「だがお前にはヴィーシャにもシヴァにもない力がある。誰よりも他人に向き合い悩み、常に考えることを辞めない。それは大きな武器になる」

「悩むことが武器ですか。俺は弟二人よりも力が弱い。海賊なのに、力で示せない」

「お前は私に似てしまったからね」

 母は俺の髪を掬い、両手で頬を持ち上げた。そして俺と同じ色の瞳を通して語り掛けた。

「お前はあの子たちを抑え込むことはしなくていい。お前はお前の背中を見せてやりなさい」

 どうやっても母は弟たちから離れることを諦めさせてくれないのだ。


 いつの間にか、雨は止んでいた。

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