青の世界

───君は、この青い世界からは出られない。


何故…。

そう言いかけたが、その言葉は女によって制止された。


「別に出ていけないわけじゃない。出ていく方法はあるよ。」


女の言葉に僕はほんの少しの希望を持つ。


───その方法が分かったところで、出ていけるわけじゃない。

むしろ女、お前の体はもうどれぐらいの間この世界にいる?


「うるさいな。あたしの前に出てもこないのに偉そうにしないで。」


───ははっ。何も出来ないくせに。


その声は、笑い声とは裏腹に突然暗くなった。僕はその言葉に恐怖心を抱き、それを少しでも和らげたくて女の方を見る。

しかし、女はまた気だるげな顔をして、足をブラブラさせているだけだった。もう話さない。そう言いたげな姿は最初より少し大きく見えた。

あの不思議な声も聞こえなくなった。

相変わらず周辺には廃墟はいきょしか無い。廃墟、ゴミ、瓦礫がれき。何でこんなものしか無いんだろう。僕と女以外に人はいないのだろうか。

そう疑問に思った時、心が読めるのではないかというくらいピッタリなタイミングで女が言葉を発した。


「この世界はいらないモノしか無いの。そしてここに来たら、普通は永遠にここで暮らすしかない。」


悲報だった。

僕は"あの世界"についてすらまともに分からず、一生を過ごすのか。

まぁそんな事どうでもいいか。

嫌だ、ちゃんと生きていきたい。

二つの考えが頭によぎるが、今の僕には当然、どちらも選べなかった。

もし女の言うことが本当で、この世界にあるもの全てがいらないものなのだとしたら?

それはつまり僕も女も、あの世界からはいらないと判断されたのだろう。

確かにやりたいことがある訳でもないし別にこのまま死んでも誰も悲しまない。


「普通じゃなかったら、どうするの?どうやったらここから出られるの?」


また僕の考えとは裏腹な言葉が出てくる。


「ここから出たいの?何で?」


女の質問にまた、言葉が出てこない。

そうだ、出たって何もすることがない。それなら出ていっても意味が無いじゃないか。


「分からない……」

「でしょうね。やっぱりその体でも無理なんだ」


女の発言に疑問を持つも、今はそんなことどうでもよかった。


「でも取り敢えず、出ていく方法だけでも教えてほしい。」


出ていけるか、いけないかは置いておいて、その方法が僕は出来るのそっちの方が心配だった。


「教えたってどうせ出来ないよ。」


今、気づいたことがある。

女の顔は、気だるげなわけじゃなかった。ただ、希望や光、そういった類のものが無かった。だからどこか暗く、気だるげに見えたんだ。


「なんで……その方法って何なんだよ!…君だってこんな世界から出たいでしょ?なのになんで。」

「さっきから言いたい放題だけど、いつあたしがここから出たいって言った?」

「っ…君は…出たくないの?この…怖い世界から。」


女の、秒数を刻んでいるかのような足の動きがとても怖くなった。

僕は何も知らない。この世界のことも、自分についても、この女についても。何もかも、全てを知らない。あの世界にいた時の自分が何をしていたのか、何を感じていたのか、それすらも分からない。

何で分からないのかも知らない、とても無知な状態。


考えていたら再び女の声が響いた。


「色々考えたって無駄なんだよ。この世界に来たら出られない」


その後に女が発した言葉は今の僕にはあまりにも残酷で。理解するのにそれなりの時間がかかった。


「この世界に来るのはに生きている価値のないモノ。なのにここから出られる唯一の方法は自分が何をしたいのかを見つけること。だから実質あたし達はここから出られない」


 人生は残酷だ。

 やっぱり漫画のように上手には出来ていない。

 思い通りにはいかないことが八割。


 神様はいない。

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青い世界は僕と君の @HotARug_rat0808

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