第六章 人間の証明 その二

 風助は裏帳簿を手に入れ、王威と共に再び第弐倉庫に戻ってきた。


「確かに、数、種類、在り処は全て帳簿通りですね。後は出所、最期は取引相手です」

「相手の素性は知らされていない。だが恐らく中国やソ連の商人達だ。そのような言語を用いて仲間内で話しているのを聞いた。出所は朝鮮半島だろう」

「協力に感謝しますよ、では約束通り一人か二人くらい見逃しても良いかな」


 取引相手の素性は知らないようであったが、大体の特徴は捉えた。これで王威から引き出せる情報は大体手に入れたと考えて良いだろう。風助が全てのメモを取り終えた今、王威はもう不要だ。風助がノートと鉛筆を置いて、テーブルから立ち去る。


「では皆さん、楽しい娯楽の時間ですよ。この気骨ある王威さんは王威さん自身を含む三人の中二人を救出する権利を持っています。この男が誰を救出するのか……? 存分に賭けると良いでしょう」


 女は売女と言っていたが、どう考えても王威の妻だろう。それに殺された少年も、もう一人の少女も恐らくは王威と血の繋がった子供だ。顔が良く似ている。


 二人助けるということは一人殺すということ、王威は自分か子供か妻を一人殺さなければならない。なるほど良く出来ている。


「ふん」


 狂四狼は倉庫の隅でただ見守る。この糞みたいな隊員の慰安、息抜きの遊戯を黙って見届けることとした。腹立たしいが盛り上がるだろう。金のかかった賭博は隊員に取って最高の娯楽だ。


「ガキなんぞ死んだって交尾していくらでも作れば良いじゃねぇか! 俺は自分自身と女に二千賭けるぜ」

「すぐ婆になるようなユルユルの女なんか救うか? 女のガキと自分自身だろ。ほら千だ」

「まず自分ってのは鉄板だよなだよな? でもよでもよ、あの時なぜあの人を見捨てたの? とか気まずくね? 自分だけ生き残れは十分じゃね? 俺は敢えて自分だけって選択に五千賭けるぜ!」


 部下が下衆な遊びを楽しんでいる間、狂四狼は倉庫の隅でずっと王威と女を観察していた。王威と女は視線を交え、時折頷いて見せたり、首を横に振ってみたり、些細な動作で見事に会話を成立させていた。些細な動作だけで会話が成立するということ、それはお互いの信頼関係の証であり、強い絆の証明だと感じる。


 この家族は、本当によくできた家族なのだ。時代が違っていれば、狂四狼や風助がいなければ、こんな無残な結末をむかえることはなかったはずだ。


「先輩、大体賭けが成立したようです」


 風助が狂四狼に終わりを告げる。


「…………俺には関係ない勝手にしろ」

「内訳ですが、……男と娘が五、男と妻が四、男のみが一といった風です」


 たぶんほとんどの者が外れるだろう。これは確信に近い。


「大穴だな……」


 狂四狼がそう呟くと風助はなぜか不思議そうな顔をした。


「どうした風助?」

「いえ……」


 風助はあからさまに納得しなさそうな顔をする。


「言いたいことがあるなら言ってみろ」


 そう促した後、風助は少し考えてから、その重い口を開けた。


「……先輩は……愛を信じますか?」


 突然妙なことを言う。


「意味がわからん」

「私は自己犠牲の愛や見返りを求めない愛って存在するんですかね? 僕は愛なんて性欲が服着て歩いているだけのファッション感覚だと思うんですよ。そんなものは幻想、本質はいつだって単純。もっと人は単純であるべきだと思います」


 納得がいかない。そう言い残して風助は去った。


「もう十分でしょう。答えを聞きます」


 風助は小刀を男の首に刃を当てる。


「む、娘と、…………つ、妻。だ」


 男は目をつぶり、呼吸を整えて、宣言した。


 飛び交う野次の嵐。投げつけられ、倉庫中に舞い落ちる紙幣。


「金返せ、この豚野郎!」

「ありえねえ! つまんねぇ!」

「死ね! 死ね! 大損だ! 糞喰らえ!」


 風助が何か腑に落ちないといったような面持ちで不思議そうに首を傾げた。そして小刀を逆手に持ち替え、刃を顔面へ突き立てようとする。


 それでは楽に死ねない。狂気乱舞する部下を押しのけ狂四狼は王威と風助の間に割って入った。そして狂四狼は腰から打刀を抜刀し上段掲げる。


「俺がやる」

「チッ。なーんてね。どうぞどうぞ」


 狂四狼は風助の舌打ちを無視する。


「うるさくてすまんな……本当にその決断で良いんだな? 訂正しても俺は構わんぞ?」


 狂四狼は王威に優しく問いかけた。


「あぁ……」

「なぜだ? 自己犠牲に酔っているだけか? 理由はあるのか?」

「こ、子には……みら、い、未来があ、る」


 だから王威はまず娘を選んだ。


「あ、ああ、後は、……ただの引き算だ……」


 死ぬのは二人より一人が良い。小さな、まさに消え入りそうな声でそう言った。狂四狼は何のことかはすぐには理解できなかった。だが、気のせいとも取れる女の僅かに膨らんだ腹部を見て理解した。


「なるほど…………そういうことか。その年でガキ三人とは……頑張ったじゃねえか」


 英断だ。尊敬に値する。風助は助けるのは二人だけと宣言していたが、この胎児のことは気付いてない様子である。狂四狼はそのくらい見逃してやっても良いと思えた。この男は保身のためでもなく、気の迷いでもなく、自己陶酔でもなく、自分の信じる価値観で正しく判断できる人間なのだ。


 犯罪者でなければ、いや犯罪者であっても素晴らしい。


「最後に言いたいことは?」


 狂四狼の打刀を握る両腕に力がこもる。


「……ァ………ゥア…………ツ…………………………………」


 言いたいことがあるようだが、嗚咽で言葉にならないようだ。


「…………待ってやるよ、落ち着け」


 土壇場で落ち着けと言われても無理な相談だろうがせめてもの情けをかける。


「…………………………………………」

「…………………………………………ん?」

「……ォ……………………なぜ、なぜ、そんなに××××なのだ」


 ――ザクッ――


 袈裟に一閃。斬った。


 なに? 今なんて言った? なぜ斬った? 最後の言葉をなぜ聞き届けなかった? 突如襲った激しい耳鳴に狂四狼は混乱する。


「おい、今、なにを言った?」


 聞いても屍から言葉は返って来ない。


「…………なんだ? おい誰か?」


 狂四狼は後ろを振り返る。部下は誰ひとりとして現場を見ていなかった。皆、金と女に夢中で、誰ひとりとして男の処刑を見てはいなかった。そして風助が少女と女の髪の毛を引っ張り、倉庫の外へ引きずり出すのを狂四狼は見た。


「おい……?」


 視界が霞む。立ち眩みを起こし、血まみれた床を這う。


「風、間……風助ッ」


 這ってでも行かねばならない。言うまでもなく、任務はもう達成されている。これ以上の暴力行為は全く無駄でしかないどころか、ただの命令無視の犯罪行為だ。薄翅蜉蝣の時とは全く違う。


 とてつもなく嫌な予感がするのだ。這いながら、倉庫の外へ出る。


 目の前には半裸で押し倒されている娘。娘を庇おうと、代わりに暴力を受け、顔面を大きく腫らした母。その母に跨り、殴りつけている者は風助だった。


「風助ぇぇぇええええええッッ!」


 狂四狼はふらつく隻脚を踏ん張り、地面を蹴り上げ、近くに落ちていたコンクリートの塊を右手に握り込み、渾身の力で風助の頬を横から再び殴打した。


 風助は大きく横を倒れ込むと同時に、狂四狼の下腹部目掛け蹴りを放った。


 狂四狼はギリギリで風助の蹴りを肘で受けたが、睾丸に鋭い痛みが走る。今の風助の攻撃は明らかに狂四狼の睾丸を潰し、恥骨を砕く目的で放たれた蹴りだ。仲間に行う攻撃ではない。


「痛っ……」

「……誰かと思ったら先輩じゃないですか? 突然なんですか?」


 こめかみから血を流し、へらへらと取り繕うように笑いながら風助が応える。だがその顔はあまりにも酷い。ここまで醜悪に歪んだ風助の顔を今まで見たことがない。狂四狼は考える。何が風助を変えた?


「……女は殺さない話だろ? それとその女は腹に命を宿している。俺達が好き勝手できるものではない」


 風助は鼻で笑ってみせた。


「あー。この売女、孕んでいるんですか……気付きませんでしたよ。でも胎児に人権ってあるんですかねぇ? この国は中絶を認めていますし。あぁ考えるのが面倒だし、気付かなかったってことでどうですか?」


 僕は正気ですと言わんばかりの笑顔で狂四狼を挑発し続ける風助。そして風助は笑顔のまま、母の腹部を思い切り踏みつけた。


 母はまだ意思も持たない胎児を守るようにお腹を腕で守った。それでも風助は何度も、何度も、何度も、腹を踏み続けた。


 そして母は動かなくなった。


「……正気かッッ!?」


「当然。僕は先輩の方が心配ですよ。僕は先輩の真似をしただけですよ? 今まで残忍、冷酷、非道で通してきたくせに、まだ生まれてもいないガキに情けをかけるなどありえない……そうでしょう!?」


 風助は大声で、風助の熱気に当てられた部下の賛同を得る。


 そして部下は馬鹿騒ぎを続け、一斉に風助への支持を表明する。


 ……確かに、狂四狼は薄翅蜉蝣衆の一件で母と息子をこの上なく残虐な方法で殺した。それは揺るがない事実だ。肯定するしかない。


「ほら、僕が正しい。……そうだ、この胎児が雄か雌か賭けるってのはどうです? 少女の方は壊れるまで犯しましょう! 最高に面白いと思いませんか?」


 呼吸が上手くできない。息苦しい。これが悪意か……。


「ちゃんと始末はしておけ、……証拠は残すな、あとは好きにしろ……」


 説得は諦めた。


「それでこそ僕の尊敬する先輩です」


 風助のそんな言葉を聞き届けると、狂四狼は体が拒否反応を起こすように発汗、震え、強い頭痛を起こした。そして視界の中の地面がぐらりと傾いたかと思うと暗転し、狂四狼はそこで気を失った。






 ………………。


 …………。


 ……。


 ……セミの鳴き声に混じって優しい子守歌が聞こえる。


 気がつくと、狂四狼は何か心地の良い柔らかいものに包まれているような錯覚を覚えた。目を開けるとこちらを覗く灼熱の双眼、そう満月がいた。狂四狼は自分が満月に団扇で扇がれ、更に膝枕をされていることに気が付いた。


「……ここは?」


 乾ききった喉から搾り出すように声を出す。そこで満月は子守歌を歌うことを止めてしまった。狂四狼は少し後悔。


「何の変哲もないボロボロの家ですが、いつもの我が家ですよ」

「そうか」

「職務中にお倒れになったとかで、二日間も基地で眠っていたそうですよ。外傷はないそうですが、自宅で安静にと言うことで昨日警察予備隊の風間風助さんというお方がここまで旦那様を運んで下さいました」


 風間風助……その名で全て思い出した。自分が何をすべきで何ができなかったか全て思い出した。


「こんなところで俺は何をしているんだっ」


 最低限の義務を果たすことができなかった。母はひょっとすると共犯者だった可能性もあるが、それでも死には値しない。少なくとも胎児を無事出産するまでは幸せに過ごすべきであっただろう。


 まだ幼い少年少女は何も知らずに犯罪の利益による甘い汁を吸っていたかも知れない。しかしそれでも少年は無残に切り刻まれることはなかった。少女は無慈悲に犯される必要はなかっただろう。


 そしてあの胎児には、罪や穢れなど微塵もない。悪党に出会うことがなければ、真の自由と平和を謳歌する権利があったのだ。


「風助……」


 奴の悪魔のような慈愛に満ちた笑顔が頭から離れない。


「ッッ!」


 耳鳴りがする。口が渇く。息が出来ない。手足が痺れ、大量に発汗し、心臓の鼓動が命の危機を知らせる早鐘を打ち続ける。


 狂四狼は満月を振り払うと、六畳一間の玄関へと走り、一歩外へ出る。そこで盛大に、大量の吐瀉物を撒き散らした。


「ハハ……フハハはあはあああああああああ!」


 吐き続ける。


 外は台風が過ぎ去った後のようで、雲はなく夜なのに暑い。吐き気で火照った体が更に熱せられる。頭がくらくらする。世界が悪意を持っているようにさえ感じた。


 不意に背中を優しく撫でられたた。満月だ、振り返らなくとも分かる。


「ゆっくり、楽になるまで吐き続けて下さい」

「満月、……俺のような心を亡くした外道に、その優しさ毒だ」


 満月が最近、自分に懐いていることは狂四狼自身も理解している。だがそれは狂四狼が先生のような役割を担っているからだ。それで良いと思う。満月は自分の目的のためだけに、ただ俺を利用すれば良いのだと狂四狼は考える。


「旦那様、水溜まりに映る自分が見えますか?」


 満月に促され、台風の雨の時に出来たのであろう水溜まりを覗く。


「酷い顔だ」


 鮮明ではないが、観察すれば以外と細かいところまで見えるものだ。髪はボサボサで、顔はむくんで、目は醜く大きく開かれている。


「とても苦しそうで、悩んで、罪悪感でいっぱいなのだと思います。心を亡くしているようには見えません」

「お前に……何がわかる!」


 狂四狼は左腕の鞘となっている義手を外すと仕込んだ脇差を露出させた。


 そして満月を掴み、押し倒ように力を込める。それに対し満月は何の抵抗もせず水溜まりの上に、倒された。


 狂四狼は満月に馬乗りになると、その満月の喉元寸前に脇差を振り下ろす。


「俺は攻撃的精神病質傾向を持つ人間だ。自分の快楽のためなら他人の犠牲など厭わない。他人を捕食することになんのためらいもない人間だ!」

「…………」


 狂四狼は握り締めた刀に力を込め、刃を僅かに下ろす。すると満月の喉から紅血がツーっと流れた。


 しかし満月からの返答はない。自分が殺されそうだというのに満月の顔は平穏そのもので、ただ真っ直ぐに狂四狼を見つめるだけだ。


「お前だって他人だ。俺がお前に何もしないと思ったら大間違いだ」


 喉に浅く刺した脇差を満月の腹部に移動させ、そして満月の小袖の帯を切った。そのまま小袖の襟を開き、肩から胸、へそにかけて露出させると、貪るように乳房を掴んだ。未発達だと思われた乳房だが、僅かに膨らみがある。


「ッ…………」


 満月は痛みで多少顔を歪めたが、それでも落ち着いていた。澄まし顔だ。


「今から、……お前を陵辱する」

「旦那様の痛みを少しでも分けて貰えるのでしたら私は受け入れます」

「はっ!」


 なんだ……平気なふりをしているが、ただのやせ我慢だ。虚勢だ。すぐに本性を暴いてやる。後悔させてやる。そう狂四狼は意気込む。


 狂四狼は手の震えを堪えるのに必死だった。己の本質は邪悪と念じ続け、袴を脱ぐ。そして満月の帯を切り、その下の肌着を引きちぎり、満月の中を確かめようとする。




 ―― え ――




 なんだ…………。なんだこれは……。強烈なフラッシュバック。


「ガハッ……、アアアぁ。ップ」


 再びの嘔吐。今度は満月の腹部の上に吐瀉物を散らす。


 これは罪悪感から来るものではなかった。……そう、狂四狼は思い出した。自分が初めて人を殺めた時と似ていたのだ。自身の体重で心臓のある左胸を圧し潰すように刺し貫く感触と似ているのだ。


「馬鹿な? そんなことがあって……たまるか……」


 震える手で懐から竹の水筒を取り出し、入れてあったアサガオの種子を粉末状にして作った飲み物を飲んだ。疼き、悪寒、目眩、血圧体温の上昇。そして訪れる偽りの多幸感。


「落ち着け……落ち着け……そんな訳があるか……」


 感じる満月の中の温かさと、あの狂うような夜桜が咲いて愛していた人を刺殺した時の指から感じるあふれ出る血液の感触が一致する。殺人と性交、苦痛と快楽、対極と思われたこの二つが実は非常に似た性質を持っていることを認識できていなかった。


 狼狽、錯乱、拒絶。


「ハッハッハッッッぁっっ」


 こんな筈ではなかった。こんな筈ではなかった。こんな筈ではなかった。


 走った。下半身を露出したまま、部屋に飛び込んだ。部屋の隅で満月に怯えながら、狂四狼は失禁し、ただただ膝を抱えて震えていた。戦場ですら見せたことのない醜態。何が自分におきているのか全く理解できなかった。


「旦那様」


 満月がこちらにむかってくる。


 立とうとして転倒し、這いつくばりながら逃げようともしたが、体が痺れ、満足に動くことができなかった。


「く……クッ……るナ!」


 来るな。


 来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。



「愛してます」



 思考の停止。


 満月は狂四狼に優しく接吻した。優しい感触でありながら、満月の舌は狂四狼の口内を征服した。嘔吐したばかりだったのでさぞ臭かったことだろう。そんな些細な事なぞ全く意に介さないといったような情熱的なキスだった。それでいて小鳥が啄むような下手で優しいキスだった。


 ……何分が経過しただろうか? いや、何分も呼吸せずにいられる筈はない。まだ数秒に過ぎないことなのだ。


「落ち着つきましたか?」


 満月は呟いた。


「……ぁアぁ」


 狂四狼は頷いて肯定した。過呼吸と震えはなくなった。


「確かに、私は旦那様の全てを知っている訳ではありません。ですがそれは旦那様も同じことです」

「どういうことだ?」

「私は旦那様自身も知らないことを知っているつもりです」

「俺は自分を知るとか……他人を知るとか……そんな抽象的なことに興味はない」


 違いますよ。そう告げて、満月は狂四狼の頬を優しく撫でた。両手で狂四狼の頬を優しく包み、半裸のまま優しく抱きしめた。


「旦那様はとても優しい人。でももう自分を罰する必要はないんですよ?」

「お前に俺の何がわかる……」


 なんとなくわかっていた。言葉にすると認識が強くなってしてしまうからずっと狂四狼は考えないようにしていたが、狂四狼は囚人だった。世界で一番大好きな人を斬ってから、狂四狼はいつも狂って壊れそうだった。


 狂四狼はいつか自分を壊してくれる処刑人を待っていた。自分を罰してくれる者を探していたのだ。だからいつも戦場にいたし死刑囚であることを望んだのだ。それが復讐以外のもう一つの生きる理由だった。


 しかしメッキが剥がれた。もう狂四狼には攻撃的精神病質傾向を持つふりをすることはできなくなり、罪悪感に対しても平気な顔でいることもできないだろう。


「旦那様、逃げましょう」


 この国から出ましょう。夜行満月はそう言った。

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