第46話 弟の恋
バルバギア王国と条約が結ばれた。
数日後に、バルバギア王国の王国民が数十人ジアリス街にやってきた。
その間にさらに北側に広げた農園を紹介してそこを管理してもらう手筈となった。
彼ら全員が農業経験者という事もあり、領民達ともすぐに打ち解けて手際よく農業を進めるようになった。
まだ結果がでておらず、両国間の交流は開かれていない。
その日から数日が経過して、ジアリス街のバルバギア王国民が作った農作物がバルバギア王国に運ばれる日となった。
代表数人と一緒に僕も共にする。
一緒に向かうのは、爺、セレナちゃん、護衛にベリルなどがいるが、一番緊張した面持ちなのは、意外とカインだ。
数日掛けて、二度目のバルバギア王国の王都にやってきた。
「お久しぶりです。女王様。また出迎えて頂き大変光栄でございます」
「お久しぶりです。実は果物が待ちきれず、居ても立っても居られなず、こうして出て来てしまいました」
「ふふっ。王国民の皆さんが毎日頑張ってくださり、とても美味しそうな果物を持ってきました」
「それが一番楽しみですね~では、久しぶりに家族との時間もあるでしょう。夕飯までの時間、自由時間とさせて頂きますので」
「かしこまりました」
僕達はとあるメイドに案内されて、貴賓室に入った。
「久しぶり。カイル」
「兄上。カイン。俺は問題なく元気にしているよ」
「それは良かった。いじめられたりしてない?」
「全くない。寧ろ、ジャック殿との稽古は楽しいし、な、なにより、女王様との会話も、た、楽しい」
少し顔を赤らめるカイルが少し可愛いと思ってしまう。
どうやらここでの生活は順調のようだ。
実はジアリス街に王国民を連れて来る代わりとして、次男であり、うちの英雄でもあるカイルをバルバギア王国に残す選択をしたのだ。
お父様とも話し合い、カイルとカインとも話し合い、カイルの承諾の元、ここでの生活を受け入れてくれた。
他国での自由のない生活は大変だろうなと思ったけど、カイルにとっては刺激があって良い日々を送っている気がする。
「兄上。本当に大変な事はないか?」
「カイン。本当に問題ない。寧ろ……向こうよりも楽しんでいるくらいだ」
「そうなのか!?」
「ああ。実はな。向こうでは領民達のために日々走り回っていたのだが、ここでは自由に歩く事はできないが、俺を求めてくれる人が多くてな。特にジャック殿には感謝してもしきれない。彼のおかげで毎日稽古も楽しければ、観光も楽しいぞ。それはそうとカインにも紹介したい人がいる」
「俺に?」
「兄上にはすでに隣に人がいるからな。
「「!?」」
立ち上がったカイルは得意げにメイドと何かを打ち合わせると、僕達を連れて部屋を後にした。
長い廊下を歩いていくと、庭にジャック将軍が見え、こちらに一礼する。
お互いに一礼を交わすと、その隣に可愛らしい女の子がこちらを見つめていた。
「エステル令嬢。こちらは普段話していた俺の兄上のキャンバル兄さんで、こちらは弟のカインでございます」
「初めまして。噂はカイル様から聞いております。私はフロデンス公爵の次女エステルと申します」
エステル令嬢とも挨拶を交わす。
挨拶が終わると、さも当然かのように令嬢とカインが二人きりで庭を歩きだした。
あれ? 今打ち合わせも何もしてないよね!? ど、どうして!?」
「兄上? どうしたんだ?」
「え、えっと、何も言わずに二人が行ってしまったと思って」
そう話すと、面白そうに笑い、予想外の答えが返ってくる。
「ぷふっ。それもそうだろう。二人はそもそも一目惚れだからな」
「ええええ!?」
「兄上は気づかなかったのか?」
「いつ!?」
全く気付かなかった。むしろ、彼女はここで初めて出会ったんじゃ?」
「前回来た時さ。入口で出迎えてくれた面々がいただろう? その中に彼女もいて、カインが熱心に見つめていたからな。彼女もカインの事が気になっていたみたいだから、真っ先に紹介すると約束していたのさ。兄上? 間違っても邪魔はしないでよ?」
「し、しないよ!」
珍しくジャック将軍まで大声で笑った。
数十分後、帰って来た二人は幸せそうな笑みを浮かべていた。
きっと楽しい時間を過ごせたのだろう。
隣に一緒に来てくれたセレナちゃんも嬉しそうに弟を眺めていた。
もしかして、僕とセレナちゃんも…………こんな風に見えているのだろうか?
「兄上? まさか、今まで自分達はあんな感じじゃなかったと思うのか?」
カイルに心を読まれたようだ。
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