第45話 バルバギア王国
バルバギア王国を進む道中。
僕達を迎えに来てくれたバルバギア王国軍の許可を得て、果物をお裾分けした。
最初は毒があるかも知れないと躊躇していた彼らに真っ先に手を差し伸べたのは、まさかのカイルだった。
実はバルバギア王国内で最も有名なのがカイルだったりする。
なんとあだ名が【死神】というみたい。
そんなあだ名を持つ彼が真っ先に住民が選んだ果物を口にしようと提案して、目の前で住民が選んだ果物を口にしたのだ。
それを皮切りに果物を食べてくれたし、バルバギア王国軍の面々にも差し入れをしてあげると喜んでくれた。
ジアリス産果物は絶品だからね。みんな笑顔で食べてくれる姿を見て、やっぱり彼らだって我々と同じ人間なんだなと思った。
数日掛けて到着した王都。
ソウレイン都よりも四倍は大きいんじゃなかろうかと思う大きさであった。
玄関口で呆気に取られていた僕に声を掛けるのは護衛兼お目付け役であるバルバギア王国軍の将軍レオンさんである。
「殿下。我が国は荒れた地が多く、肥沃な土地が少ないのです。こうして肥沃な土地を広く囲う事で辛うじて生活が成り立つ程です。ですから王都の規模がここまで肥大化してしまっています」
「へぇ……良い情報を教えて頂きました。農産物は輸入に頼っている感じですね?」
「その通りです。我々の戦争も――――そこが由縁だったりします」
ん? その情報は初めての事だ。
玄関口から真っすぐ伸びている大通りを大勢で通り抜ける。
物珍しいのか、多くの住民達がこちらを見つめていた。
大通りを通り過ぎてたどり着いたお城。
その入口には美しいドレスを身にまとい、まだ若い女の人が優しい笑みを浮かべて待ってくれていた。
「初めまして。インハイム辺境伯の長男、キャンバルと申します」
「初めまして。バルバギア王国の女王カトリーナ・エル・バルバギアと申します」
「女王様!?」
王女だと思っていたらまさかの女王様で、驚いてしまい声が出てしまった。
「ごほん。失礼しました。まさか女王様が遥々入口までお越しくださり感謝申し上げます。こちうは弟のカイルとカインでございます」
弟達も紹介すると、僕とは比べられないくらいかっこよい貴族風挨拶を披露する。
…………本で読んだことあるのよね。これってイケメン爆発って言うってね。
「ではこちらにどうぞ」
直接案内を受けて中を進める。
それにしても女王様の隣からちらちらこちらを見つめる男が気になる。
顔に大きな傷を負っている彼は――――以前、女神石を置いて帰ったバルバギア王国軍の将軍のはずだ。
案内された部屋は非常に豪華に飾られた貴賓室であった。
座る前に、将軍に「お久しぶりです」と挨拶すると、彼もまた深々と挨拶を送ってくれた。
その姿に周囲からは驚きの表情をみせる。
「ジャックから話は聞いております」
ジャックというのは、将軍の名前だ。
「お恥ずかしい。私なんてまだまだでございます」
「うふふ。謙遜なさっても、この国でジャックが唯一
女王様の言葉に、どちらかといえば、隣の弟達が驚いた視線で僕を見る。
「それはそうと、キャンバル殿下。
さっきまでは優しい笑みを浮かべて、どこかセレナちゃんと変わらない年ごろの可愛らしいお嬢様だと思ったが、その表情が一変して、国を背負い立つ者らしい表情変わった。
一瞬の圧が僕達を襲う。
その気迫にカイルとカインが少しだけ萎縮したように見える。
「我が国は長い間バルバギア王国軍との戦争により、多くの命を失ってきました。それはすぐに忘れる事はできないでしょう。ですが、私は戦いで解決するよりも話し合う事でお互い戦わずに済む道を模索したいと思っております。バルバギア王国との友好な関係を築きたいと思います」
「その心は大変嬉しく思います。先日の戦争により、我が父が崩御して以来、私が女王となり国はまだまだ困難の中です。このままインハイム辺境伯との戦いを続けるにも我々には厳しい現状があります」
意外にも実情を言ってくれている。
それは場合によっては、弱点になり兼ねないはずなのに。
それはそうと、こちらの王様が崩御したのは知らなかった。
「インハイム家を代表して、ご冥福をお祈りいたします」
「ありがとうございます」
「カトリーナ女王陛下。私の考えは――――戦争をするより、美味しい果物を食べて一緒に笑いましょうという事です」
「えっ?」
一瞬、会場が凍り付くのを感じる。
次の瞬間、女王様が「ぷふっ」と笑うと、周りから笑顔が咲き始めた。
カイル……笑いすぎだよ!
「大変失礼しました。まさかの言葉に驚いてしまいました」
「私はお互いに睨み合って戦争をするより、美味しい果物を食べて笑った方がお互いに幸せだと思うんですよ。友好の証として、私が育てているジアリス産果物を大量に持ってきました」
爺のおかげで準備を進めていた果物が全員に渡された。
中には「毒が入っているのでは?」という事を言う人もいた。
でも、真っ先にレオン将軍が「私はここに来るまで何度もこの桃を食べて来ました。正直、こんなに美味しい果物が世の中にあるとは思いもしませんでした」と言い、桃にそのままかぶりついた。
その姿を見ていた女王様も迷う事なく、目の前の桃を口に入れる。
周囲の臣下達からは驚く声と心配の声が響く中、桃を口にした女王様は目を見開いて「美味しい~!」と声をあげた。
夢中になって目の前の桃を食べ、全て無くなると残念そうに皿を見つめた。
「女王陛下。桃だけではなく美味しい果物を沢山持ってきましたので、楽しみにしてください」
「それは嬉しい! ありがとうございます。キャンバル殿下。それで、殿下はどのように我が国と和平を結ぼうと考えておられますか?」
「私が管理しているジアリス街をこれからさらに北側に発展させていきます」
「ジアリス街の北…………ですがそこは荒野が広がっているはずですが?」
「はい。ですが、私達にはとある心強い方がいて、魔物の脅威から身を守る事ができます。そこで提案ですが、こちらで開いた街にバルバギア王国の民を住まわせてはみませんか? そこで手に入れた農作物はそのままバルバギア王国に納めるようにします」
「それは和平の一歩としてでございますか?」
「その通りです。王都に来るまで多くの町を見て来ました。どこも活気あふれているけれど、土地のせいで食料が手に入らず、肥沃な土地を求めて戦争が続いていたと思います。ですからそれを根本的な部分から取り除きましょう」
「…………ですが、仮にジアリス街の北側に我が国の国民を住まわせ農作物を作れたとして、それを運んだり関税などの詳しくを提示して頂く必要があると思いますが」
「それに関しては――――両国はお互いに関税を貰わないでどうでしょう。さらにジアリス街での生活も全て我が領民と同じ待遇で迎え入れましょう。さらに街の納税も免除します。ただ、代わりに彼らの給金はバルバギア王国からちゃんと支払ってください」
「なるほど…………」
目を瞑り考え込む女王陛下。
そして、数分に渡り考え込んだ末、ゆっくりと目を開けた。
「我が国民がジアリス街にいる間、その命の保証はございますか?」
「もちろんです。それは――――――」
僕の提案にバルバギア王国のみんなは驚く。
こうなると予想していたからこそ、僕の提案に彼女達も、
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